「生誕100年 東山魁夷展」東京国立近代美術館・・・絵画の抒情詩、ドイツ・ロマン派の孤影
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
高校生の時、『風景との対話』を読み、『東山魁夷画集』を探し、『京洛四季』を読み耽った。東山魁夷の絵の源泉にあるものは何か。
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東山魁夷とドイツ・ロマン派
東山魁夷は、ベルリン大学哲学科で美術史を学んだ。フリードリヒの影響を受けている。戦前、黄金時代のベルリン博物館で、ドイツ・ロマン派の絵画を見たのである。
■ドイツ・ロマン派の画家フリードリヒ
フリードリヒの影響について、「フリードリッヒとその周辺展」講演会(国立近代美術館1978年2月18日土曜日午後)において、画家自身が述べている。(「フリードリッヒとの邂逅」『東山魁夷画文集第5巻・美の訪れ』新潮社1979)
フリードリヒ(Caspar David Friedrich1774-1840)は、65才で孤独と貧困のうちに死んだドイツ・ロマン派の画家である。ゲーテの同時代人である。題材は、荒涼とした風景、崇高さと静寂感に満ちた風景。廃墟の僧院、枝を広げた巨木。人は、風景を鑑賞者と共に見つめるため、背後からしか描かれない。
ロマン主義が追求する主題は、「異国的なもの」「未知のもの」「文化の精神的な故郷」「古代文化」「神秘的なもの(言葉で語れないもの)」「自然愛」である。
「汝の肉体の目を閉じ、まず精神の目で汝の描こうとするイメージを見よ。」「画家は眼の前に見える対象だけを描くべきではない、画家は己自身の内奥をも描かなければならぬ。」というフリードリヒの言葉を考えると、人間の苦悩を描くという西洋絵画の源流がある。
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東山魁夷・・・画家の孤影
画家は、鹿野山の夕暮れのなかで自然と一つになる体験を通し、風景画家として開眼してゆく。東山魁夷は、寂寥感の果てに自然の変わらぬ姿に没入していった。38才ですべての肉親を失った彼のえがく自然の背後には、孤独感がある。「空漠とした中を吹き流されて行く自己の孤影を見出すものなのであろうか」(『京洛四季』新潮社1984)
この孤独感、静寂に満ちた自然は、フリードリヒ、ドイツ・ロマン派と共感するものであろう。
3月28日(金)夕暮れ時、東京国立近代美術館に向かう。特別プレビュー。人がいない美術館は、絵画と対話ができる。
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「生誕100年 東山魁夷展」東京国立近代美術館、2008年3月29日(土)から5月18日(日)まで、
http://higashiyama-kaii.com/index.html
http://www.momat.go.jp/Honkan/Higashiyama2008/index.html
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展覧会構成
第1章模索の時代
第2章東山芸術の確立
第3章ヨーロッパの風景
第4章日本の風景
第5章町と建物
第6章モノクロームと墨
第7章おわりなき旅
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