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2008年4月

2008年4月18日 (金)

「国宝 薬師寺展」・・・月光菩薩、日光菩薩、聖観音菩薩、白鳳文化の美の香り

Yakushiji_2008_1Yakushiji_2008大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
4月4日、清明の日。夕暮れ時、桜満開の森を歩いて、東京国立博物館に行く。国宝 薬師寺展、東京国立博物館、を見る。
国宝『日光菩薩立像』、『月光菩薩立像』、『聖観音菩薩立像』、白鳳文化の香りがする。薬師寺、月光菩薩、日光菩薩、聖観音菩薩、を比較してみると、判明することがある。【聖観音菩薩の謎】聖観音菩薩は、月光菩薩ではないか。かつてもう一組存在した、失われた日光月光菩薩の片鱗であり、東院堂にも、薬師如来が存在したのではないか。
5月に再訪したら、「わたしは月光菩薩様の前でお会いしました」。ある女性からメールがきた。
白鳳文化は、日本の仏教彫刻が、独自の古典様式を完成した古代藝術の最高の美の様式である。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
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国宝 日光菩薩立像
飛鳥時代(白鳳期)または奈良時代・7または8世紀
金堂本尊薬師如来の左(向かって右)に立つ像。右の月光菩薩とともに本尊の両脇に立ち、薬師三尊像として制作された。薬師如来が安定感のある堂々とした体躯であるのに対し、両脇侍は三曲法という動きのある体躯表現。
国宝 月光菩薩立像
飛鳥時代(白鳳期)または奈良時代・7または8世紀
日光菩薩と対照的に、左脚に重心を置き、右脚を遊ばせる支脚遊脚の姿勢、上体を右に、頭を左に傾けて絶妙な姿勢。この動きはインドのグプタ彫刻に端を発し、中国の初唐彫刻を経て日本に伝わった。
国宝 聖観音菩薩立像
飛鳥時代(白鳳期)または奈良時代・7または8世紀
吉備内親王が養老年間(717~724)に建立した東禅院の後身である東院堂の本尊。金堂の日光・月光菩薩立像と同様にみずみずしい体躯、薄くて軽い衣の自然な表現。日本古代を代表する彫刻の名宝、制作時期については飛鳥時代の白鳳期、奈良時代の前半の両説あり。
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=553
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■仏像のまえで眠る・・・夜桜コンサート
すべての展示を一めぐりして、薬師寺『日光菩薩立像』『月光菩薩立像』の前にある椅子に座ってまどろんでいると、眠りに落ちた。
このところ仕事が殺到し、疲れている。ここちよい眠りである。飛鳥白鳳の仏像彫刻の部屋で眠るのは初めての経験である。
目覚めると、もう日没時になっている。日光菩薩と月光菩薩にひき止められた。聴く予定ではなかったが、「夜桜コンサート」があるので、一階に行き、コンサートを聴く。
「荒城の月」など、夜桜をめぐる歌曲を、無伴奏、声楽6人で歌っていた。荒城の月は、いうまでもなく、土井晩翠作詞、瀧廉太郎作曲による歌曲。哀切をおびたメロディーと歌詞を聴くと、ドイツロマン派のフリードリヒの絵を思い出した。
■夜の博物館、夜桜
大観「夜桜」のように、博物館の裏庭に咲く満開の桜を、照明が照らしている。閉館間際、静寂に包まれた夜の博物館で、桜をめぐる展示をみる。
国宝『花下遊楽図屏風』狩野長信筆、(安土桃山時代、17世紀)がある。八重桜の下で、宴をひらいている。重箱を運び、踊りを踊っている。400年前の風景である。
博物館の前庭にある、枝垂れ八重桜、吉野枝垂れが、こんもりと美しい。今、満開である。夜の博物館、回廊をめぐると、古代、中世への時を超える旅である。古代の奈良の霊や中世の貴族の宴が蘇ってくる。外に出ると、上野の森で、宴会をくり広げている。
■薬師寺金堂
中尊は薬師如来、脇侍に日光菩薩と月光菩薩を配している。中尊の容姿、脇侍の身のこなし、均整の取れたプロポーション。日本の仏教彫刻が中国の六朝、唐の影響を受けつつ、独自の古典様式を完成した奈良時代の作品のなかでも最高傑作の一つである。
中尊台座には、シルクロードの遥か彼方から、ギリシア、波斯、印度、中国に淵源をもつ葡萄唐草文、印度風の人物、四神(青龍、白虎、朱雀、玄武)などの意匠が彫琢されている。
制作年は、西暦688年頃には完成していたと見るのが通説だが、『日本書紀』に持統天皇11年(697年)、薬師寺にて仏像の開眼法会を行ったという記録があることから、この時に制作されたとする説がある。
■白鳳文化の美の香り・・・気品ある美しい容姿
10年前に、東欧の世界遺産をめぐる旅を終えて帰ってきて、法隆寺「夢違観音」をみた時、日本の完成された古典の美しさを感じた。ヨーロッパの美に匹敵する美の様式が、日本にあることを感じる数少ない藝術である。
北朝の北魏様式でもなく、南朝の南梁様式でもない。繊細にして可憐、艶麗にして優美な、均整のとれた容姿、弧をえがく衣紋の美しさ、流麗なショール。気品ある美しい容貌。
日本が世界に誇ることのできる数少ない美である。
■白鳳文化
白鳳文化は、645年大化の改新から710年(和銅3年)の平城京遷都までの飛鳥時代後期に花咲いた文化である。
法隆寺によって代表される飛鳥文化と、東大寺の仏像、唐招提寺の建築などによって代表される天平文化との中間にある。白鳳とは日本書紀に現れない元号であり、天武天皇の頃に使用されたと考えられ、白鳳文化はこの時期に最盛期を迎えた。
白鳳文化は、失われた日本文化、稀にみる頂点の一つである。
★白鳳彫刻:
薬師寺金堂、薬師三尊像「薬師如來」「日光菩薩像」「月光菩薩像」
薬師寺、東院堂「聖観音菩薩立像」
法隆寺、阿弥陀三尊像
法隆寺東院絵殿、夢違観音像
興福寺仏頭(山田寺の本尊、薬師三尊像) 
天武14年(685)に、天皇が亡き蘇我倉山田石川麻呂のために造った飛鳥山田寺講堂 本尊像の頭部。像は興福寺の鎌倉再興期の文治3年(1187)に東金堂本尊薬師 如来像として迎えられたが、応永18年(1411)に堂とともに被災。 
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薬師寺 680年、天武天皇が菟野讃良皇后(うののさららひめみこ)(後の持統天皇)の病気平癒のため発願され、創建された法相宗の大本山。創建当時は藤原京に建てられたが、718年に平城遷都に伴い現在の場所に移転。造営は808年頃まで続いた。
平城遷都1300年記念「国宝 薬師寺展」
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=553

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■平城遷都1300年記念「国宝 薬師寺展」東京国立博物館
2008年03月25日(火)~2008年06月08日(日)
★あなたの好きな仏像は何ですか?2008_6

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2008年4月 8日 (火)

「生誕100年 東山魁夷展」東京国立近代美術館・・・絵画の抒情詩、ドイツ・ロマン派の孤影

Higashiyama_hakubanomori_2大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
高校生の時、『風景との対話』を読み、『東山魁夷画集』を探し、『京洛四季』を読み耽った。東山魁夷の絵の源泉にあるものは何か。
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東山魁夷とドイツ・ロマン派
東山魁夷は、ベルリン大学哲学科で美術史を学んだ。フリードリヒの影響を受けている。戦前、黄金時代のベルリン博物館で、ドイツ・ロマン派の絵画を見たのである。
■ドイツ・ロマン派の画家フリードリヒ
フリードリヒの影響について、「フリードリッヒとその周辺展」講演会(国立近代美術館1978年2月18日土曜日午後)において、画家自身が述べている。(「フリードリッヒとの邂逅」『東山魁夷画文集第5巻・美の訪れ』新潮社1979)
フリードリヒ(Caspar David Friedrich1774-1840)は、65才で孤独と貧困のうちに死んだドイツ・ロマン派の画家である。ゲーテの同時代人である。題材は、荒涼とした風景、崇高さと静寂感に満ちた風景。廃墟の僧院、枝を広げた巨木。人は、風景を鑑賞者と共に見つめるため、背後からしか描かれない。
ロマン主義が追求する主題は、「異国的なもの」「未知のもの」「文化の精神的な故郷」「古代文化」「神秘的なもの(言葉で語れないもの)」「自然愛」である。
「汝の肉体の目を閉じ、まず精神の目で汝の描こうとするイメージを見よ。」「画家は眼の前に見える対象だけを描くべきではない、画家は己自身の内奥をも描かなければならぬ。」というフリードリヒの言葉を考えると、人間の苦悩を描くという西洋絵画の源流がある。
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東山魁夷・・・画家の孤影
画家は、鹿野山の夕暮れのなかで自然と一つになる体験を通し、風景画家として開眼してゆく。東山魁夷は、寂寥感の果てに自然の変わらぬ姿に没入していった。38才ですべての肉親を失った彼のえがく自然の背後には、孤独感がある。「空漠とした中を吹き流されて行く自己の孤影を見出すものなのであろうか」(『京洛四季』新潮社1984)
この孤独感、静寂に満ちた自然は、フリードリヒ、ドイツ・ロマン派と共感するものであろう。
3月28日(金)夕暮れ時、東京国立近代美術館に向かう。特別プレビュー。人がいない美術館は、絵画と対話ができる。
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「生誕100年 東山魁夷展」東京国立近代美術館、2008年3月29日(土)から5月18日(日)まで、
http://higashiyama-kaii.com/index.html
http://www.momat.go.jp/Honkan/Higashiyama2008/index.html
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展覧会構成
第1章模索の時代
第2章東山芸術の確立
第3章ヨーロッパの風景
第4章日本の風景
第5章町と建物
第6章モノクロームと墨
第7章おわりなき旅
★あなたの好きな詩人はだれですか?Ph_10

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2008年4月 2日 (水)

美術館と桜の森・・・フリードリヒ『孤独な木』のように

Einsamer_baum01 私が代表をしている、美術倶楽部の人たちと、「美術館めぐり・世田谷美術館」に行き、広大な砧公園の桜の森で宴会をした。美術館は公園の一角にある。
砧公園の桜の森は広大な森である。樹齢100年の桜の古木が1000本、聳えている。
ここの桜は、ドイツ・ロマン派の名匠フリードリヒ『孤独な木』のように、自然のままに亭々と枝をひろげ、まるで森の巨人のように偉大である。樹形が美しい。壮大な桜の森に人々は包まれている。
この森の桜は、数十本が密集して咲き誇り、豊饒なその姿は見るものを圧倒し、魅了する。
樹木には、いのちの結晶、精神の結晶のような、美しさがある。
森の老いた木の美しさは、生きてきた軌跡の美しさであり、生きる形の美しさである。
風と雪と嵐と、逆境に負けず、思うままに枝をひろげる木の美しさは、思想家のようである。偉大な思想家のような木である。
美しさは、内面から生じる(Beauty comes out within.)。 ★レオナルドの美の法則 3

K氏は「私の妻は、弘前出身で、弘前城の桜を見ましたが、比べものにならないくらい素晴らしい。感動しました」といっている。
桜の森を散策、マネ『草上の昼餐』のように、野の宴をする。
参集者たちは、美食倶楽部の会員でもあり、友人たちは、グルメな料理を持って集まった。ボルドーの赤、アマレットディサローノ、ロックフォールのチーズ、友人が横須賀汐入から持ってきたオードヴル一式。
この日は「酔って美術鑑賞するとどうなるか」、ワインを飲んで鑑賞の実験である。友人M氏は和洋菓子、7種類を持って参集。スイーツ・マニアであることが発覚。見学後、美術館の一室で、ティーパーティーを楽しみました。
美術館で、現代美術家イリア・カバコフの「世界図鑑」、「上野泰朗展」をみたが、今回は添え物である。3月30日(日)は世田谷美術館の誕生日。この日は入館無料である。
☆美術倶楽部については、後日、記事を書く予定である。
★あなたが尊敬する思想家はだれですか?

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