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2008年11月28日 (金)

「フェルメール展-光の天才画家とデルフトの巨匠たち-」東京都美術館(2)・・・光と陰影の室内空間

Vermeer20082Vermeer20081Vermeer_little_street_1658大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より 光と陰影の画家と呼ばれるフェルメールは、一瞬に永遠の時間が凝縮されたような空間、光の美しさを描き出したといわれる。「手紙を書く婦人と召使い」に、フェルメールの後期絵画の到達点の一つがある。しかし、フェルメールの「光と陰影の空間」には意味があるのか。人間が生きる空間の意味は何か。『牛乳を注ぐ女』の空間に意味はあるのか。意味の解体がフェルメールの意図か。
フェルメールの絵は、世界に35枚、オランダにも7枚しかないが、フェルメール展には、宗教画、神話画、寓意画、風景画、室内画の領域におよぶ、7枚の絵が展示されている。
■寓意画から光と陰影の空間へ
1.「マルタとマリアの家のキリスト」(Christ in the house of Martha and Mary,1654-55年160×142cmスコットランド国立美術館):フェルメールの2枚ある宗教画の1枚。イエスの言葉に耳を傾けているのがマリア。テーブルにパンを用意してイエスに苦言を呈しているのがマルタ。(cf.ルカによる福音書10章38~42節)椅子にIVMeerという署名がみえる。キリストの右示指など修正の跡が見えるといわれる。

2.「ディアナとニンフたち」(Diana and her companions,1655-56年97.8×104.6cmマウリッツハイス王立美術館):フェルメール唯一の神話画。頭に小さな三日月の飾りをつけたディアナ(狩猟の女神)の足の手入れをするニンフの他に3人のニンフとディアナが連れている1匹の犬が描き込まれている。色彩は黄色や赤色が美しい。ヴェネツィア派のように色鮮やかである。

3.「小路」(The little street,1658年頃53.5×43.5cmアムステルダム国立美術館):奥に立っている女性は白い消毒用の石灰を撒いている。建物の入口では老婆が編み物(縫い物)をしている。道端で遊ぶ二人の子供。4人の人物、白い壁、開いた赤い鎧戸、閉まった薄緑の鎧戸、通路、窓、空に雲が浮かぶ。すべての構成要素が調和している。デルフトのどの建物を描いたのか分からないが、空想で描かれたものではない。モデルがない風景画は存在しない。実物の絵を見ると、曇り空である。

4.「ワイングラスをもつ若い女」(The girl with a wine glass,The girl with Two Men,1660年頃77.5×66.7cmブラウンシュバイク、ヘルツォーグ・アルトン・ウルリッヒ美術館):女にワインを勧める好色な紳士と目を大きく開けて困惑して笑っている娘、そして肘を着いて横を見ている憂鬱な男。ステンドグラスには片手に直角定規、片手に馬の手綱と轡(欲望の統制を意味する)を持つ「節制」の寓意像が表され、女性の行為に警告を発している。「節制」の寓意といわれる。背景の画中画は、男が視線を若い女に向けている。ベルリン国立美術館に類似の「紳士とワインを飲む女」がある。この作品は女性が下品に見える。

5.「リュートを調弦する女」(Woman with a Lute near a Window, 1664年頃51.4×45.7cmメトロポリタン美術館):左手で糸巻きを調節しながら、音程を調整している。左の窓から差し込む淡い光の表現が巧妙である。机上には楽譜集、床の上に本が見える。女主人の耳飾りとネックレスが目立つが、髪がちりじりに乱れている。或るひは、女の髪ははげている。壁に掛けられた地図には、船が描き込まれている。女性は、黄色い毛皮のショールを纏っている。壁の地図の意味するところはない。カラバッジョの作品に「リュートを弾く人」(Caravaggio,Lute player, c1597)がある。カラバッジョの影響をフェルメールの初期作品は受けているといわれる。楽器を演奏する女、手紙を書く女、のモチーフが、フェルメールには多い。

6.「手紙を書く婦人と召使い」(Lady Writing a Letter with Her Maid,1670年頃72.2×59.7cmアイルランド国立美術館、ダブリン):これは「絵画藝術」(Allegory of Painting, 画家のアトリエ1666年頃120×100cm)ウィーン美術史美術館が、急遽キャンセルされ代わりに出展が決まった。「絵画藝術」は1999年、美術史美術館で見たが、数万点の絵画の中に埋もれている。私はダブリンに行くことはないだろう。
ここに、フェルメール後期の絵画の到達点の一つがある。左の窓から差し込む光の表現が絶妙である。この画の光と影は淡く美しい。色彩はやや暗い。手紙を描く女性、立って待っている女召使。そして床に赤い封印、棒状の蜜蝋、書きかけて捨てられた手紙、壁には画中画「モーゼの発見」(「川から救い上げられるモーセ」)が描かれている。この作品今まで二度、盗難されている。1972年にIRAによって盗まれた(一週間後に無事発見)。1986年に再度盗まれ、1993年まで発見さなかった。
所蔵者のアルフレッド・ベイトは、ダブリンの邸宅に展示してあったこの絵をこの後現在あるアイルランド国立美術館に寄贈した。女主人は、例の黄色い毛皮のショールを纏っている。

7.「ヴァージナルの前に坐る若い女」(A Young Woman Seated at the Virginals個人蔵):ルーブルの「レースを編む女」と同じサイズ。この作品がフェルメールのものであると認定されたのは2005年。カンバス地、ラピスラズリの使用など他のフェルメールの作品と共通するものであることがその根拠である。この調査にはサザビースが関与した。女性の表情、首飾り、髪飾り、そして黄色のショールはいずれもフェルメール的でないように思われる。メーヘレン他の贋作である可能性が高い。(3)につづく。
■「フェルメール展~光の天才画家とデルフトの巨匠たち~」東京都美術館、2008年8月2日-12月14日、Vermeer and the Delft Style
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