速水御舟展、平塚市美術館・・・細密画の極致、炎に舞う儚い生命のように
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
夕暮れの湘南電車に乗って、夕暮れの海辺の町の美術館にはるかな旅をする。
速水御舟(1894‐1935)は、『炎舞』の炎に舞う蛾のように40年の短い生涯を終えた。しかし、短い人生のうちに、不滅の傑作、『炎舞』(1925)、『粧蛾舞戯』(1926)、『翠苔緑芝』(1928)、『名樹散椿』(1929)、『京の舞妓』(1920)、『樹木』(1925)を残した。
速水御舟は、大正8年25歳の時、浅草駒形で市電に足を轢かれ左足切断する。不運にめげず画業に精進する。不朽の傑作『炎舞』を残し、40歳で死す。死因は腸チフス。
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細密画
『菊花図』(四曲二双屏風1921)は、緻密な細密画の極致である。細密画の系列には『輪島の皿に柘榴』、『寒鳩寒雀』があり、異様に緻密な世界に圧倒される。リアリズムの極致である。『京の舞妓』(1920)の醜悪をも描く、写実の背後に細密画の世界がある。
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渡欧、1930年
御舟は、1930年、ローマ「日本美術展覧会」に美術使節として、横山大観とともに渡欧した。客船で洋行し、大観と同じ食卓を囲んだ時のメニューに御舟が書いた手紙が残っている。
『アルノ河畔の月夜』(1931)に旅の思い出が留められている。この時、ジョット、エル・グレコに感動し人物画の造形に影響を受けたといわれる。『女二題』の女性をえがく線に表れている。
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美しい線
今日、美しい線、緻密なデッサンを描ける画家は少ないといわれるが、御舟の「牡丹写生図巻」「昆虫写生図巻」(1925)には、まれにみる美しい線、細密画のデッサンの存在を見ることができる。美しい花の花弁、妖しい蛾の美しさが、一すじの線によって描かれている。
松井冬子のグロテスク画には、速水御舟の細密画、動物の死体、死せる植物の絵の影響が感じられる。
絶筆『円かなる月』には、死の匂いが漂っている。
1910年(明治43年)作「小春」から、1935年(昭和10年)最後の作品となった「盆梅図(未完)」にいたる約120点の作品を展示している。初期日本美術院の藝術を愛する人、必見である。
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展示構成
(1)大正初期の今村紫紅の影響を受けたおおらかな作風
(2)その後の岸田劉生の影響をうけ、さらに独自の解釈を加えた「京の舞妓」に代表される細密描写の作風
(3)大正後期の風景画等に細密描写と西洋絵画の写実の融合した作風
(4)スランプの時代といわれながら幾多の名作を残した昭和初期
(5)昭和5年外遊後の明るく軽やかな風俗画的作風や女性人物画
(6)晩年の老成したなかに宗達の影響も見られ、華やかさを内包する水墨画の名品の数々
デッサン「牡丹写生図巻」「昆虫写生図巻」等、展示。
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★「速水御舟展」平塚市美術館
近代日本画の巨匠 速水御舟-新たなる魅力
2008年10月4日(土)~11月9日(日)
http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/2008203.htm
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コメント
こんばんは。
すばらしい展覧会でしたね。短い生涯にこれだけの作品を残し、しかも名品揃いというのは信じられません。
デッサンの美しい線は見事でした。線を描くのって本当にむずかしいんですよね。
投稿: キリル | 2008年11月 9日 (日) 21時05分
キリルさん
コメントありがとうございます。
「速水御舟展」安宅コレクション山種、年代不明、「日本美術院100年展」東博1998年、「生誕110年 速水御舟展」(山種美術館2004)、などで、御舟はよくみました。
「炎舞」は、傑作ですね。
「速水御舟展」新山種、2009年秋、楽しみにしています。
投稿: leonardo | 2008年11月10日 (月) 11時20分
「新美術館開館記念 速水御舟展-日本画への挑戦-」2009年10月1日(木)~11月29日(日) http://www.yamatane-museum.or.jp/exh_schedule.html
投稿: leonardo | 2008年11月10日 (月) 11時33分
私が初めてみた御舟展は、「開館10周年記念特別展 速水御舟 その人と芸術」山種美術館、1976、です。
投稿: leonardo | 2008年11月10日 (月) 12時29分
こんばんは。拙ブログへのコメントありがとうございました。
76年の山種美の展示から速水御舟をご覧になられているのですね。私は御舟の回顧展を見たのは今回が初めてでしたが、本当に素晴らしい画家だなと改めて感心しました。
投稿: はろるど | 2008年11月10日 (月) 21時32分
はろるどさん
コメントありがとうございます。
御舟は夭折した藝術家ですが、豊穣な世界がありますね。
「新美術館開館記念 速水御舟展-日本画への挑戦-」、楽しみにしています。
また、お越しください。
投稿: leonardo | 2008年11月11日 (火) 18時40分
御舟は子供の時から好きで、「速水御舟展」山種1976、「日本美術院100年記念展」1998東博、「生誕110年 速水御舟展」(山種美術館2004)、などで、何度もみましたが、今回は、初見の作品も多く、細密画、デッサン、等に、感銘を受けました。
投稿: leonardo | 2008年11月13日 (木) 15時20分
始めまして。
先日は、拙blogにコメント、TBを頂きありがとうございます。
展覧会に出かけて、古径、御舟の作品に出合うと、何故か嬉しくなります。
その御舟の展覧会ですから、観に行かないわけにはいきませんでした。
とても良い展覧会でした。
来年の山種には、どの程度の作品が集まり、展示されるのか.....楽しみですね。
投稿: mako(雑感ノート) | 2008年11月14日 (金) 04時49分
makoさん
コメントありがとうございます。「新美術館開館記念 速水御舟展-日本画への挑戦-」、楽しみにしています。
「加山又造展」国立新美術館、もありますね。
TBは、時々うまく行かないことがあります。makoさんのTB再度送ってください。
これからもよろしくお願いします。
投稿: leonardo | 2008年11月15日 (土) 06時48分
はじめまして
コメントありがとうございました。私も速水御舟が、大好きです。関東は良い展覧会が多くうらやましいです。時々
投稿: masakuro1231 | 2008年11月15日 (土) 13時13分
つづき---時々、東京まで展覧会を見に行きますが、ほとんどは、見逃してしまいます。このブログはありがたいです。
投稿: masakuro1231 | 2008年11月15日 (土) 18時04分
黒川雅子さま
コメントありがとうございます。
日本画は、ルネサンス絵画とともに愛好しています。2007 春季創画展「WOMAN」の表情がいいですね。あなたのHPとリンクして頂ければ幸いです。
これからもよろしくお願いします。
投稿: leonardo | 2008年11月16日 (日) 14時45分