「線の巨匠たち」藝大美術館・・・優雅な線の美しさ
枯葉舞う森を歩いて、藝大美術館に行く。デッサンと版画の展覧会である。ルネサンス、17世紀オランダの黄金期から19世紀のデッサンを見る。今日、美しい線を描ける画家は少いといわれる。レンブラントの素描は現実的だが、イタリア人の線は優美で甘美である。
■線の美しさ
フランチェスコ・サルヴィアーティ(Francesco Salviati = Francesco de' Rossi,1510 - 1563 )「目を閉じる女性」は、極めて美しい。うっとりするほど美しい線と陰影がある。画家の友人は女性の表情はうつむく顔が美しいといっているがそういう角度である。うつむく顔、目を伏せて口元に幽かに微笑みを湛える女性の表情が甘美である。肌の肌理を表す繊細な暈しと描線、微妙な陰影、瞼の膨らみ、頬のハイライト、顔の巧みな立体感が、卓越した精緻さで表現されている。イタリアの画家サルヴィアーティの素描とレンブラントの素描を比べると、サルヴィアーティにはイタリアの甘美が感じられる。
フランチェスコ・サルヴィアーティ「目を閉じる女性」(1540年頃)、レンブラント・ファン・レイン『十字架降下』(1633年)、ライスダール「木々の間の水車のある風景」(1650年頃)、アレクサンドル・カラーム「木々のある風景」(1842年頃)。これらの作品が美しい。
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本展覧会は、アムステルダム歴史博物館(Amsterdams Historisch Museum)が所蔵する素描コレクションの主要作品から、 ルネサンス以降の西洋の素描芸術の展開と、コレクションとしての素描芸術について辿るものです。
素描:諸芸術の基礎
西洋美術における「素描」は、イタリア・ルネサンスの美術理論家であるヴァザーリ(Giorgio Vasari)が 「三つの芸術(絵画、彫刻、建築)の父」と語るように、あらゆる造形芸術の基礎をなすものとみなされてきました。 すなわち素描は、芸術家が自然を写し取る技術であり、同時に、芸術家の創意の発露であり、芸術作品を作り上げるための基礎的な構想力を示すものと考えられていたのです。 そしてルネサンス以降の素描には、完成作のための下描きという補助的な位置づけを超え、それ自体に芸術としての価値が付与されるようになったのです。
下描きからコレクターズアイテムへ:オランダでの素描コレクション
芸術としての素描は、時代が下ると、さらなる多様性に満ちた発展を遂げます。17世紀のネーデルラントでは、描かれる対象は、 人物像や構図スケッチのみならず、屋外風景や静物も含まれるようになり、さらにそれらは、完成作のための「下描き」としてのみならず、 芸術家のアトリエにおいて、種々のモティーフを描いた「型見本」として制作時に活用されるとともに、弟子たちの訓練のための「教育手本」として利用されました。 そしてこの種の素描作品は、芸術家やアトリエでの使用にとどまらず、 愛好家達によって絵画と同様にコレクションの対象となりました。素描の収集は当初は、創造力の刺激を求める芸術家によって行われましたが、 やがて教養の高いコレクターたちが素描に関心を持ち始め、さまざまな地域、時代の素描作品を、絵画などと同様の芸術作品としてコレクションしました。 彼らにとって巨匠たちによる素描は、芸術的創造の痕跡であり、同時に美術史的な価値を持つ、知的な「コレクターズアイテム」となったのです。
本展覧会では、アムステルダム歴史博物館の所蔵する素描コレクションから、ルーベンス、レンブラントらをはじめ、 17世紀のオランダ・フランドルの芸術家たちの素描群を中心にご紹介します。
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「線の巨匠たち-アムステルダム歴史博物館所蔵 素描・版画展」、東京藝術大学大学美術館、2008年10月11日(土)-11月24日(月・祝)
http://www.geidai.ac.jp/museum/
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コメント
コメントありがとうございます。TBの設定を変更しました。もしもう一度試していただけたらありがたいです。
フランチェスコ・サルヴィアーティの名前は知りませんでした。(そのデッサンは記憶にあるのですが)イタリアとその他の国の素描の違いを考えたことがなかったので、興味深いと思いました。
投稿: masakuro1231 | 2008年11月28日 (金) 19時12分
イタリア人のデッサンは、甘美だと感じるのは、私の個人的な意見に過ぎません。フランチェスコ・サルヴィアーティは、16世紀、ルネサンス後期、マニエリスムの画家です。
ウフィッツィ美術館、国立西洋美術館に作品があります。
投稿: leonardo | 2008年12月 4日 (木) 14時36分