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2009年5月

2009年5月30日 (土)

国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア・・・帝政末期、移動派の画家、イワン・クラムスコイ『忘れえぬ女』

Russia2009Iwan_kramskoy_portrait_of_a_woman_2大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より         
五月晴れの午後、美術館に行く。革命前の世界が蘇る。ロシア革命(1917年)前、帝政末期の矛盾と格差社会、移動派の偉大な作家たちの存在した時代。現代は悲劇の存在しない時代である。現代の作家たちは、軽薄であると感じる。
白樺並木、丸屋根の教会、ライ麦畑、輝く雪原、亜麻色の髪の乙女たち、文豪トルストイ、チェーホフの風格ある肖像。パーヴェル・トレチャコフの愛した移動派(移動展派)の絵画が展示されている。
■イワン・クラムスコイ「忘れえぬ女」=見知らぬ女1883年
トルストイ『アンナ・カレーニナ』のヒロイン、アンナ、ドストエフスキー『白痴』のナスターシャであると推定されているが解答はない。イワン・クラムスコイは、この絵の制作中、『トルストイの肖像』を制作していた。
ペテルブルクのアニチコフ橋に馬車を止めている。高慢にみえるが運命を見据えているのか、彼女の瞳は彼方に何をみているのか。
気高く憂いを含む潤んだ瞳、長く黒い睫毛、帽子の房飾り、漆黒のドレス、艶やかなリボン。彼女は貴族か、富豪の令嬢か。気高い、憂いをもつ美女は魅力的である。ただ幸福なだけの自己満足的な女は魅力がない。藝術は憂いをもつ美女を追求する。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
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★展示作品の一部
イワン・クラムスコイ「忘れえぬ女」=見知らぬ女1883年
イワン・シーシキン「木陰で休む家畜の群れ」1864年
イワン・シーシキン「森の散歩」1869年
ワシーリー・マクシモフ「嫁入り道具の仕立て」1866年
アレクセイ・コルズーヒン「修道院の宿舎にて」1882年
イワン・クラムスコイ「髪をほどいた少女」1873年
イリヤ・レーピン「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」1887年。*彼女はリストの弟子、チャイコフスキーが曲を献呈したピアニスト。
ニコライ・ゲー「文豪トルストイの肖像」1884年
ヨシフ・ブラース「文豪チェーホフの肖像」1898年
ワシーリー・ポレーノフ「モスクワの中庭」1877年
イリヤ・レーピン「秋の花束」1892年
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展示構成
第1章:叙情的リアリズムから社会的リアリズムへ
第2章:日常の情景
第3章:リアリズムにおけるロマン主義
第4章:肖像画
第5章:外光派から印象主義へ
展示作家。イワン・クラムスコイ、アルヒーブ・クインジ、イサーク・レヴィタン、ウラジーミル・マコフスキー、ワシーリー・ポレーノフ、イリヤ・レーピン、アレクセイ・サヴラーソフ、イワン・シーシキン、ワシーリー・スリコフ、アレクセイ・ヴェネツィアーノフ、ワシーリー・ヴェレシャーギン、ヨシフ・ブラース、他。
■移動派
トレチャコフ美術館所蔵絵画から、19世紀後半の移動派(移動展派)の作品を主体に紹介するものである。移動派は、1870年にイワン・クラムスコイ、G.ミャソエドフ、ニコライ・ゲー、ヴァシーリー・ペロフらの提唱により、官製芸術の中心地であるペテルブルク美術アカデミーに対抗して、民主主義的な理想のために闘うロシアの前衛的な芸術集団として結成された。
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ロシア美術の殿堂、モスクワの国立トレチャコフ美術館は、中世から現代に至る約10万点の作品を所蔵しています。なかでも19世紀後半から20世紀初頭にかけてのロシア美術の作品は、創始者トレチャコフが熱心に収集した同時代の傑作が揃っています。本展は、所蔵作品の中からロシア美術の代表的画家、レーピンやクラムスコイ、シーシキン等による38作家による75点の名品で構成されます。19世紀半ばからロシア革命(1917年)までの人々の生活、壮大なロシアの自然、美しい情景を描いた作品を中心に、チェーホフ、トルストイ、ツルゲーネフ等の文豪の肖像画も併せてご紹介する。リアリズムから印象主義に至るロシア近代美術の流れを辿る展覧会である。
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★ 国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア、Bunkamuraザ・ミュージアム
2009年4月4日(土)~2009年6月7日(日)
http://www.bunkamura.co.jp/old/museum/lineup/09_tretyakov/index.html

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2009年5月24日 (日)

ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画・・・バロックの世紀、17世紀

Louvre2009大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より 
緑深い五月、森の緑陰を歩いて、美術館に行く。17世紀ヨーロッパ絵画は、イタリア・バロック、カラヴァッジョの影響の下に展開した。
イタリアは、カラヴァッジョ、カラッチの時代である。
■17世紀ヨーロッパの巨匠は、スペイン:ベラスケス、フランドル:ルーベンス、ヴァン・ダイク、ロレーヌ:ラ・トゥール、オランダ:レンブラント、フェルメール、ハルス、ロイスダール、フランス:プッサン、クロード・ロラン。オランダ絵画の黄金時代を迎えた。
■カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio:1571-1610)、カラヴァッジョ派の特徴は明暗の対比、闇の様式である。その影響が、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール、レンブラント、初期フェルメールに濃厚に存在する。クロード・ロランは、イタリア・バロック古典主義アンニバーレ・カラッチ(Annibale Carracci:1560-1609)の風景画に影響を受けた。
フェルメール「レースを編む女」は、静かな室内で手紙を読み、物思いに耽る女性を描いたフェルメールの一連の作品、17世紀オランダ風俗画の代表作。右手下に置かれた小さな書物は聖書であり、レース編みが女性の勤勉さを象徴する。光のある空間、一瞬の中の永遠を表現している。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「大工ヨセフ」幼子キリストがもつ蝋燭がただ一つの光源である。炎の光はキリストの顔を照らし出し幼子の左手を透かして観る者に届く。光と闇の空間が、一本の蝋燭によって照らされる。静寂と神秘にみちた世界である。
カルロ・ドルチ「受胎告知 天使」は天使の甘美な美しさを湛えている。閉館後の美術館、時のたつのを忘れて若い女性がうっとりと見惚れている。魂を魅せられている。
■展示作品
Ⅰ.「黄金の世紀」とその陰の領域
フランス・ハルス「リュートを持つ道化師」1624年頃
ル・ナン兄弟「農民の家族」
フェルメール「レースを編む女」1669年−1670年頃、油彩・カンヴァス(板に貼付)24cm × 21cm
フランス・プルビュス(子)「マリー・ド・メディシスの肖像」1610年
Ⅱ.旅行と「科学革命」
クロード・ロラン「グリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス」1644年
ディエゴ・ベラスケスとその工房「王女マルガリータの肖像」1654年
ペーター・パウエル・ルーベンス「ユノに欺かれるイクシオン」1615年頃
ヨアヒム・ウテワール「アンドロメダを救うパルセウス」1611年
Ⅲ.「聖人の世紀」、古代の継承者
シモン・ヴェーエ「エスランの聖母」1640-50年頃
カルロ・ドルチ「受胎告知 天使」1653-55年頃
カルロ・ドルチ「受胎告知 聖母」1653-55年頃
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「大工ヨセフ」1642年頃
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「6人の人物の前に現れる無原罪の聖母」1662-65年頃
ウィレム・ドロスト「バテシバ」1654年
ヤーコプ・ヨルダーンス「4人の福音書記者」1625-30年頃
グェルチーノ「ペテロの涙」1647年
■17世紀は、肖像画、風俗画、静物画、風景画、あらゆる分野の絵画が豊饒に実る黄金の世紀である。
とらさんの「Art & Bell by Tora」によると「黄金の世紀は、革命の時代であり、経済の革命、芸術の革命、信仰の革命(キリスト教内部)が同時に進行し、ヨーロッパに均衡と調和を齎した古典時代であったが、20世紀以降の現代は、変動・紛争・対立の時代である。その両者を比較し、考察することがこの展覧会の目的」である。
http://cardiac.exblog.jp/10424751/
――――――――――
「黄金の世紀」と呼ばれる17世紀ヨーロッパは、レンブラント、ベラスケス、フェルメール、ルーベンス、プッサン、ラ・トゥールといった優れた画家を、綺羅星のごとく輩出しました。本展ではこれらの画家の作品をはじめ、ルーヴル美術館が誇る17世紀絵画の傑作を展示いたします。
華やかな宮延文化が栄えた17世紀は、貧困や飢餓といった陰の領域、大航海時代、科学革命と富裕な市民階級の台頭、かつてないほどの高まりをみせた聖人信仰など実に多様な側面をもっています。それらは画家たちの傑出した才能と結びつき、数々の名作を生みました。本展は17世紀の絵画を通じ、様々な顔をもつこの時代のヨーロッパの姿を浮かび上がらせようという意欲的な試みでもあります。フェルメールの名作《レースを編む女》をはじめ、出品される71点のうち、およそ60点が目本初公開。さらに30点あまりは初めてルーヴル美術館を出る名品です。まさに「これぞルーヴル」、「これぞヨーロッパ絵画の王道」といえる作品群を堪能していただく貴重な機会となることでしょう。
★「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」国立西洋美術館
2月28日(土)~6月14日(日)
http://www.ntv.co.jp/louvre/
★★★★★★★★★★

ルーヴル美術館展、17世紀ヨーロッパ絵画・・・図像学の講義。クリュセイスを探す

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2009年5月 8日 (金)

ルーヴル美術館展 美の宮殿の子どもたち 国立新美術館・・・愛の神、エロス

Louvre2009大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
春風の吹く4月の晴れた夕暮れ、美術館に行く。愛の神、エロスの像に見惚れてたたずむ若い女性がいる。
「古代エジプトのハトホル神に授乳するイシス女神」、「愛の神、エロス、クピド、アモール」、赤像式スタムノス「蛇を絞め殺す幼児ヘラクレス」、「キリストとマリア、聖母子像」、「東方三博士の礼拝」、「アンティステリア祭、酒神ディオニュソスの祭」、「眠るエロス」、「画家の亡くなった娘への思い」、<子どもの図像>をめぐる四千年の文化史である。
ドニ・フォワヤティエ「アモール」(19世紀)に、見惚れてたたずむ若い女性がいる。ギリシアのペンテリコン大理石の肌が美しい。翼あるエロスは弓と矢をもつ。その矢で射貫かれると愛を抱く。女性は矢で射貫かれたのである。
Denis Foyatier (1793‐1863),Amour
■展示作品
ヤン・ファン・ハンスベルヘン「授乳する女性」1675
ジャン=バティスト・ドフェルネ「悲しみにくれる精霊」大理石
ジャン=フレデリック・シャル「生のはかなさへの思い」1806
ジャン=バティスト・ルイ・ロマン「無垢」
ジョシュア・レイノルズ「マスター・ヘア」1788
ペーテル・パウル・ルーベンス「母と二人の子どもと召使」
フェルディナント・ボル「山羊の引く車に乗る貴族の子どもたち」
ジャック・フランソワ・サリ「髪を編んだ少女の胸像」
ジョシュア・レノルズ「マスター・ヘア」
ピエール=ジャン・ダヴィッド・ダンシェ「テレーズ・オリヴィエ」
ベラスケス工房「フランス王妃マリー=テレーズの幼き日の肖像」
ティツィアーノ「聖母子と聖ステバノ、聖ヒエロニムス、聖マウリティウス」
ペーテル・パウル・ルーベンス「少女の顔」
「子どものサテュロス」ローマ帝国時代
ドニ・フォワヤティエ(1793-1863)「アモール」
「子どもの音楽家のフリーズ」
デュショワゼル「アモール」
フランソワ・ブーシェ「アモールの標的」
■展示構成
1.誕生と幼い日々
2.子供の日常生活
3.死をめぐって
4.子供の肖像と家族の生活
5.古代の宗教と神話のなかの子ども
6.キリスト教美術のなかの子ども
7.空想の子ども
ルーヴル美術館の7部門のセクション(古代エジプト美術部門、古代オリエント美術部門、古代ギリシャ・エトルリア・ローマ美術部門、彫刻部門、美術工芸品部門、絵画部門、素描・版画部門)から合計約200点が出品されている。古代エジプト中王国から19世紀半ばまで、4000年の歴史を展望する。絵画や彫刻の他、古代エジプトの少女のミイラ、衣服や靴や玩具、書字板、エマイユの封蝋入れ、メダル。様々な形態で作られた子供のイメージ。
■ルーヴル美術館展 美の宮殿の子どもたち、国立新美術館
L'enfant dans les collections du musée du Louvre
2009年3月25日(水)-6月1日(月)
http://www.asahi.com/louvre09/

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