国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア・・・帝政末期、移動派の画家、イワン・クラムスコイ『忘れえぬ女』
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
五月晴れの午後、美術館に行く。革命前の世界が蘇る。ロシア革命(1917年)前、帝政末期の矛盾と格差社会、移動派の偉大な作家たちの存在した時代。現代は悲劇の存在しない時代である。現代の作家たちは、軽薄であると感じる。
白樺並木、丸屋根の教会、ライ麦畑、輝く雪原、亜麻色の髪の乙女たち、文豪トルストイ、チェーホフの風格ある肖像。パーヴェル・トレチャコフの愛した移動派(移動展派)の絵画が展示されている。
■イワン・クラムスコイ「忘れえぬ女」=見知らぬ女1883年
トルストイ『アンナ・カレーニナ』のヒロイン、アンナ、ドストエフスキー『白痴』のナスターシャであると推定されているが解答はない。イワン・クラムスコイは、この絵の制作中、『トルストイの肖像』を制作していた。
ペテルブルクのアニチコフ橋に馬車を止めている。高慢にみえるが運命を見据えているのか、彼女の瞳は彼方に何をみているのか。
気高く憂いを含む潤んだ瞳、長く黒い睫毛、帽子の房飾り、漆黒のドレス、艶やかなリボン。彼女は貴族か、富豪の令嬢か。気高い、憂いをもつ美女は魅力的である。ただ幸福なだけの自己満足的な女は魅力がない。藝術は憂いをもつ美女を追求する。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
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★展示作品の一部
イワン・クラムスコイ「忘れえぬ女」=見知らぬ女1883年
イワン・シーシキン「木陰で休む家畜の群れ」1864年
イワン・シーシキン「森の散歩」1869年
ワシーリー・マクシモフ「嫁入り道具の仕立て」1866年
アレクセイ・コルズーヒン「修道院の宿舎にて」1882年
イワン・クラムスコイ「髪をほどいた少女」1873年
イリヤ・レーピン「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」1887年。*彼女はリストの弟子、チャイコフスキーが曲を献呈したピアニスト。
ニコライ・ゲー「文豪トルストイの肖像」1884年
ヨシフ・ブラース「文豪チェーホフの肖像」1898年
ワシーリー・ポレーノフ「モスクワの中庭」1877年
イリヤ・レーピン「秋の花束」1892年
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展示構成
第1章:叙情的リアリズムから社会的リアリズムへ
第2章:日常の情景
第3章:リアリズムにおけるロマン主義
第4章:肖像画
第5章:外光派から印象主義へ
展示作家。イワン・クラムスコイ、アルヒーブ・クインジ、イサーク・レヴィタン、ウラジーミル・マコフスキー、ワシーリー・ポレーノフ、イリヤ・レーピン、アレクセイ・サヴラーソフ、イワン・シーシキン、ワシーリー・スリコフ、アレクセイ・ヴェネツィアーノフ、ワシーリー・ヴェレシャーギン、ヨシフ・ブラース、他。
■移動派
トレチャコフ美術館所蔵絵画から、19世紀後半の移動派(移動展派)の作品を主体に紹介するものである。移動派は、1870年にイワン・クラムスコイ、G.ミャソエドフ、ニコライ・ゲー、ヴァシーリー・ペロフらの提唱により、官製芸術の中心地であるペテルブルク美術アカデミーに対抗して、民主主義的な理想のために闘うロシアの前衛的な芸術集団として結成された。
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ロシア美術の殿堂、モスクワの国立トレチャコフ美術館は、中世から現代に至る約10万点の作品を所蔵しています。なかでも19世紀後半から20世紀初頭にかけてのロシア美術の作品は、創始者トレチャコフが熱心に収集した同時代の傑作が揃っています。本展は、所蔵作品の中からロシア美術の代表的画家、レーピンやクラムスコイ、シーシキン等による38作家による75点の名品で構成されます。19世紀半ばからロシア革命(1917年)までの人々の生活、壮大なロシアの自然、美しい情景を描いた作品を中心に、チェーホフ、トルストイ、ツルゲーネフ等の文豪の肖像画も併せてご紹介する。リアリズムから印象主義に至るロシア近代美術の流れを辿る展覧会である。
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★ 国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア、Bunkamuraザ・ミュージアム
2009年4月4日(土)~2009年6月7日(日)
http://www.bunkamura.co.jp/old/museum/lineup/09_tretyakov/index.html
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