ルーヴル美術館展、17世紀ヨーロッパ絵画・・・図像学の講義。クリュセイスを探す
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
芒種の日、雨の森を歩いて、美術館に行く。美術倶楽部の会合があり、美術史家を招いて、展示室にて鑑賞する。17世紀ヨーロッパ絵画の名画を目のまえに見ながら、美術史家・池上英洋氏によるレクチュアである。ルーヴル美術館による展示構成は分かりにくいので「17世紀ヨーロッパ芸術のパトロネージ」という主題の下に、各部屋を巡りながら講義をきく。
★17世紀の三大権力
バロック絵画をよりよく理解し楽しむために、17世紀の三大パトロン、資金源である「教会、宮廷、商人」によって、テーマを探求する。対抗宗教改革とは何か、そしてそれと連動した文化の特徴とはいかなるものだったか。
1、教会(教皇庁、カトリック教会、イエズス会)イタリア。対抗宗教改革の時代。宗教改革に対抗するプロパガンダ図像。無原罪の御宿り、聖母、使徒。
2、宮廷(絶対王政による君主専制国家、および貴族階級)フランス、スペイン。君主称揚主題、救済実現目的の主題、教育目的。肖像画、歴史画、神話画、宮殿壁画、礼拝堂。
3、商人(17世紀から新たに登場した第3のパトロン)オランダ、イギリス。室内装飾用のニュートラルな主題。集団肖像画、静物画、風景画、風俗画。ヴァニタス(Vanitas)などの寓意図像。
★図像学の講義
ムリーリョ「無原罪の御宿り」のマリアは、熾天使(Seraphim)によって、囲まれている。熾天使は、燃える天使であり、偽ディオニシウス・アレオパギタが定めた天使の九階級のうち最上の天使である。
カラヴァッジョ「果物籠」にはじまるヴァニタスの寓意は「形あるものはすべて壊れる、生あるものは枯れる」、無常を意味する。
ラトゥール「大工ヨセフ」は、一点光源でしかも手を透かしている。カラヴァッジェスキの影響が濃厚だが、カラヴァッジョは天井から光源が照らしている。一点光源。
カルロ・ドルチ「マリア」の唇と袖の赤はイエスの血の象徴である。
クロード・ロランClaude Lorrain「クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス」1644(Odysseus returns Chryseis to her father)。
画中の女性クリュセイスを皆で探して夢中になる。美術館で名画を目のまえに行う、図像学の実践的講義は、果てしなくつづく。
★深夜の宴
夜の美術館で8時半閉館まで耽溺し堪能した。その後、先生と女子大生たちと一緒に宴に向かう。宴は深夜12時までつづいた。「酒杯を傾けて藝術談議をするのは、至福の時間です」と美術マニアの女性はいう。
★「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」国立西洋美術館
2009年2月28日(土)~6月14日(日)
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-9bb1.html
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