美しきアジアの玉手箱、シアトル美術館所蔵名品展・・・琳派の美、『鹿下絵新古今和歌巻』
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
『鹿下絵和歌巻』、新古今の世界と琳派の創始者たちの出会いがあり、圧巻の美しさである。
宗達が画いた流麗な鹿と洗練された光悦の筆になる新古今の名歌が生みだす極美の世界。この美しい絵巻の全貌をみる千歳一遇の機会である。鹿のみを描いた巻物に「新古今集」巻四秋の歌28首を書写した作品。17世紀前半を代表する二人の芸術家による共同作品、また桃山時代の美意識を示す至高の作品。必見。
★『鹿下絵和歌巻』本阿弥光悦書・俵屋宗達画。一巻 紙本金銀墨書 1610年代(桃山-江戸時代)
■本阿弥光悦書・俵屋宗達画による『鹿下絵和歌巻』シアトル本
「1935年に、当時の所蔵者であった三井の益田鈍翁がこの《鹿下絵和歌巻》を半分に切り、後半がシアトルに保存されているのである。前半は国内で更に細かく切られて各所に分散され、中には現在行方不明の部分もある。益田鈍翁は佐竹本《三十六歌仙》を細切れにした張本人でもあるが、数奇者の風上にも置けない不埒な男である。」とToraさんは書いている。日本人コレクターの破廉恥な振る舞いは、国辱である。
展覧会には通期で展示されるシアトル本1巻の他、山種美術館、サントリー美術館、個人蔵、五島美術館、MOA美術館本が展示される。
傷みがはげしかったシアトル本は、2003年から1年かけて東京国立文化財研究所の在外日本古美術品修復協力事業で修復された。全巻の復元は、SeattleArtMuseumによって行われた。下記参照。
★POEM SCROLL with DEER (known as Deer Scroll) was created by two prominent artists: calligrapher Hon’ami Kōetsu and painter Tawaraya Sōtatsu.
http://www.seattleartmuseum.org/exhibit/interactives/deerscroll/sam_deer.htm
書かれている28首の和歌は下記である。
1.西行法師:こころなき身にも哀はしられけり 鴫たつ沢の秋の夕暮(山種)
2.藤原定家:見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦のとまやの秋の夕暮(個人)
3.藤原雅経:たへてやはおもいあり共如何にせむ むぐらの宿の秋の夕暮(サントリー)
4.宮内卿:おもふ事さしてそれとはなき物を 秋のゆうふべを心にぞとふ(五島)
5.鴨長明:秋かぜのいたりいたらね袖はあらじ 唯我からの露のゆふぐれ(MOA)
6.西行法師:覚束な秋はいかなるゆへのあれば すずろに物の悲しかるらん(サンリツ服部)
7.式子内親王: それながらむかしにもあらぬ秋風に いとゞ詠(ながめ)を賤(しづ)のをだまき(MOA)
8.藤原長能:日暮(ひぐらし)の鳴く夕暮ぞうかりける いつも尽きせぬおもひなれ共(MOA)
9.和泉式部:秋来ればときはの山のまつかぜも うつる斗(ばかり)に身にぞしみける(MOA)
10.曾禰好忠:あきかぜのよそに吹きくるをとは山 何のくさきかのどけかるべき(MOA)
11.相模:暁の露はなみだもとゞまらで うらむるかぜの声ぞのこれる(MOA)
12.藤原基俊:たかまどのゝぢのしのはらすゑさはぎ そゝや木枯け吹きぬ也(MOA)
13.右衛門督通具:深草の里の月影さびしさも すみこしまゝの野辺の秋かぜ(所蔵者不明)
14.皇太后宮太夫俊成女:おほあらきのもりの木の間をもりかねて 人だのめなる秋の夜の月(MOA)
15.藤原家隆朝臣:有明の月待宿の袖の上に 人だのめなるよゐの稲妻(MOA)
16.藤原有家:かぜ渡るあさぢがすゑの露にだに やどりもはてぬよゐのいなづま(個人蔵)
17.左衛門督通光:むさし野や行共(ゆけども)秋のはてぞなき 如何成(いかなる)風の末に吹らむ(シアトル)
18.前大僧正慈円:いつまでか涙曇らで月は見し 秋まちえても秋ぞ恋しき(シアトル)
19.式子内親王:ながめわびぬ秋より外の宿もがな 野にも山にも月やすむらむ(シアトル)
20.円融院 御歌:月影は初秋風と更行(ふけゆけ)ば 心づくしに物をこそおもへ(シアトル)
21.三条院 御歌:あしびきの山のあなたにすむ人は またでや秋の月をみるらむ(シアトル)
22.堀河院 御歌:しきしまやたかまど山の雲間より ひかりさしそふ弓張の月(シアトル)
23.堀河右大臣:人よりも心の限詠(ながめ)つる 月は誰共わかじ物故(シアトル)
24.橘為仲朝臣:あやなくてくもらぬよひをいとふ哉 しのぶの里の秋の夜の月(シアトル)
25.法性寺前関白太政大臣:風吹ばたまちるはぎのしたつゆに はかなくやどる野辺の月哉(シアトル)
26.従三位頼政:今宵だれすゞふく風を身にしめて よし野たけの月を見るらむ(シアトル)
27.大宰大弐重家:月みればおもひぞあへぬ山高み いずれの年の雪にか有乱(シアトル)
28.藤原家隆朝臣:にほの海や月の光のうつろへば 波の華にも秋は見えけり(シアトル)Art & Bell by Tora、参照。
■展示作品 とくに素晴らしい逸品
烏図、六曲一双、江戸時代、17世紀前半
山水図、尾形光琳、二曲一双、江戸時代、18世紀初期
山水図、紀楳亭、二曲一双、江戸時代、1780年代
浦島蒔絵手箱 鎌倉時代 14世紀
玳玻天目茶碗 吉州窯 南宋時代 十三世紀
葛飾北斎、五美人図、1804-18
墨梅図、楊煇筆、一幅、中国 元時代 14世紀後半
インドラ坐像、一軀、ネパール、マッラ王朝、13世紀頃、シアトル美術館蔵
インドラ坐像は、帝釈天の神秘と艶麗な容姿とが一体となって美しく、素晴らしい。
――――――――――
1933年、アメリカ西海岸の湾岸都市シアトルに設立されたシアトル美術館。同館が長い歴史の中で育んだ7,000件におよぶ日本・東洋美術コレクションから、鎌倉時代の名宝「浦島蒔絵手箱」、シアトル美術館を代表する江戸時代初期の屏風「烏図」をはじめ、時代もジャンルも多岐にわたる選りすぐりの名品約100件を一堂に公開します。
同館のコレクションがアメリカ国外でまとまったかたちで公開されるのは世界で初めて。
★美しきアジアの玉手箱、シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術館名品展
サントリー美術館、7月25日(土)~9月6日(日)
神戸市立博物館2009年9月19日-12月6日
山梨県立美術館2009年12月23日-2010年2月28日
MOA美術館2010年3月13日-5月9日
福岡市美術館2010年5月23日-7月19日
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/09vol04/index.html
美しきアジアの玉手箱、シアトル美術館所蔵名品展・・・琳派の美、『鹿下絵新古今和歌巻』
http://
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (3)
最近のコメント