ベルギー幻想美術館 クノップフからデルヴォー、マグリットまで・・・金木犀の香る夜
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
嵐の後、晴れた夕方、美術館に行く。10月9日、金曜日の夜はナイトミュージアム。夜、世界がポール・デルヴォーの幻想世界に溶けていく。幻想美術館、素晴らしい。
■幻想美術館、フランドル絵画の奇想の系譜
世紀末の神秘主義的な幻想絵画、象徴主義の絵画、薔薇十字会、二十人会(レ・ヴァン)、シュルレアリスム。
ありえない超現実世界をの系譜を追求した画家たち。リアリズムに反旗を翻して難解な神秘主義を追究した。
幻の女、世紀末の魔性の女、ファム・ファタル(運命の女)。現実の影に潜む美しい女たち。官能的な幻影の情景。優雅にして甘美な女。絵画の中の桃源郷である。
幻想の港町。海の彼方に幻影の国がある。人間は現実だけでは生きられない。
現代画家・榎俊幸は、ベルギー象徴派に似ていると感じていたが、ジャン・デルヴィルに似ている。
■展示作品
ジャン・デルヴィル「レテ河の水をのむダンテ」「茨の冠」「ジャン・デルヴィル夫人の肖像」
レオン・フレデリック「春の寓意」「アッシジの聖フランチェスコ」
ルネ・マグリット「囚われの美女」
ポール・デルヴォー「水のニンフ」「海は近い」「世界の果て」「よそ行きのドレス」「最後の美しい日々」「ささやき」「ヴァナデ女神への廃墟の神殿の建設」
■姫路市立美術館
姫路市立美術館、ベルギー美術コレクションを350点所蔵。恐るべし、姫路市立美術館。
ジャン・デルヴィル、レオン・フレデリック、ルネ・マグリット、ポール・デルヴォーの膨大な作品を所蔵する。
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19世紀後半から20世紀前半にかけてのベルギーは、本国の何十倍もある植民地からの富が産業革命を加速させ、飛躍的な発展を遂げました。その恩恵は芸術の分野にも及び、多くの優れた画家が輩出し、勢い付いたリベラルな若い実業家たちは新しい芸術を支えました。
しかしながら皮肉にもその芸術の中身は、発展する近代社会における人間の疎外を背景にしたものでした。ある芸術家は空想の世界に、あるいは黄昏の薄暗がりの中に逃げ場を求め、またあるものは過去の世界に心の平安を見出しました。この時代に最も強いメッセージを放っていたのは、象徴主義、シュルレアリスム、表現主義にまたがるこうした内向的な芸術家たちの作品群、つまり「ベルギー幻想美術」だったのです。
ここで特徴的なのは、女性の圧倒的な存在感です。多くは優雅な貴婦人として、あるいは世紀末の魔性の女として、ときには中性的な不思議な魅力を持つ少女として描かれる女性たちは、いわば画家自身の分身として、その目で、あるいは体で、何かを訴えかけ、観る者を彼方へと誘っていきます。一連の作品が醸し出す雰囲気が似ているのは、このような背景を共有しているからなのです。
かくも優れた作品群が日本にまとまって存在していることに敬意を表し、「ベルギー幻想美術館」という名のもとに開催される本展は、ベルギー近代美術の精華を堪能する絶好の機会となることでしょう。
本展は、油彩・水彩・素描・版画など約150点で構成されます。なかでも、100点に及ぶ版画のコレクションは大変見ごたえがあります。
★「ベルギー幻想美術館 クノップフからデルヴォー、マグリットまで」展、
Bunkamuraザ・ミュージアム、9月3日(木)より10月25日(日)まで、姫路市立美術館所蔵ベルギー美術コレクション。
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