冷泉家 王朝の和歌守展・・・夢の浮き橋
俊成、定家の書をみると、新古今の名歌に酔った日々が心に蘇る。新古今は文学史に燦然と輝く星、名作の源泉である。藤原俊成、藤原定家の絶唱が書かれた書。千載和歌集、新古今和歌集は、11世紀末から12世紀、諸行無常の乱世に架かる夢の浮き橋である。日本文化の根源、歴史そのものである。俊成の書は大きく鋭く屈曲した流麗で美しい筆跡、巨匠の書であり、定家の書は繊細な詩人の筆跡である。定家の名歌が心に蘇る。
春の夜の夢のうきはしとだえして嶺にわかるるよこぐものそら
移香の身にしむばかりちぎるとてあふぎの風のゆくへ尋ねむ
かきやりしその黒髪のすぢごとにうちふす程はおも影ぞ立つ
大空はうめのにほひに霞みつつくもりもはてぬ春の夜の月
梅の花にほひを移す袖のうへに軒漏る月の影ぞあらそふ
白妙のそでのわかれに露おちて身にしむ色のあきかぜぞ吹く
見渡せば花ももみぢもなかりけり浦のとまやのあきの夕ぐれ
駒とめて袖うちはらふかげもなし佐野のわたりの雪の夕ぐれ
藤原俊成、定家を祖とする「和歌の家」、京都・冷泉家の至宝を紹介する「冷泉家 王朝の和歌守(うたもり)展」、上野の東京都美術館。定家筆の国宝「古今和歌集 嘉禄二年本」など平安、鎌倉時代から受け継がれる国宝、重要文化財438点以上。古典マニア、必見。
■展示作品
「拾遺愚草」藤原定家自筆 鎌倉時代前期:定家の自撰歌集、歌数は2885首。
「古来風躰抄」藤原俊成自筆 建久8年(1197):俊成の著した歌学書で、84歳の時の書写。著者自筆本でこれほど古いものは世界的にも稀有。
「明月記(めいげつき)」第九 建仁3年春記 藤原定家自筆 鎌倉時代前期:
「古今和歌集」嘉禄二年本、藤原定家筆 嘉禄2年(1226):定家65歳のときの書写。
「隠岐本 新古今和歌集」(おきぼん)筆者未詳 鎌倉時代前期:「隠岐本」とは、後鳥羽院が配流先の隠岐で、もとの「新古今和歌集」をみずから精撰抄出した。
「後撰和歌集」天福二年本、藤原定家筆 天福2年(1234):定家は『後撰和歌集』も10回近く書写したが、現存はこの一冊のみ。
「千載和歌集」室町時代前期、重文。
「詠歌大概」仮名本甲、二条為藤。
■展示構成
第1章 家祖(かそ)文学史に輝くスターたち
第2章 明月記(めいげっき)定家の自筆の日記 800年前の息づかい
第3章 勅撰集(ちょくせんしゅう)宮廷文化の精華 最高水準の和歌が集結
第4章 私家集(しかしゅう)「歌の家」の必須資料
第5章 歌書(かしょ)と物語 貴族の教養 第一は歌の心得
第6章 宮廷と宸翰(しんかん)極彩華麗な宮廷の香り
―――――――
和歌-やまとうた-は長期にわたり日本文芸の首座を占めつづけてきました。なかでも天皇や院の命で編まれる勅撰和歌集は宮廷文化の華であり、その撰者になることは、歌人にとってこのうえない名誉でした。冷泉家は、三代つづけて勅撰撰者となった藤原俊成、定家、為家を祖に持ち、歴代が宮廷や武家の歌道師範をつとめた家柄です。京都御所にほど近い、現存最古の公家住宅である同家の蔵には、800年の伝統のなかで集積されてきた勅撰集、私家集(個人歌集)、歌学書、古記録などが収められ、いまなお「歌の家」として尊崇を集めています。それらの書物は「冷泉家時雨亭叢書」として刊行され、このほど全84巻の叢書が完結したのを機に、冷泉家が守り伝えてきた貴重な典籍や古文書類の精髄をお目にかけるのが本展です。俊成筆『古来風躰抄』、定家筆『古今和歌集 嘉禄二年本』『後撰ごせん和歌集 天福二年本』『拾遺愚草』『明月記』の国宝5点をはじめ、展示替を交え約400点もの国宝・重要文化財が公開される初めての機会です。また、天皇の書「宸翰」も披露されます。天皇から授かった御衣表装された華麗な作品群は、観る者を一気にみやびな世界へといざなうことでしょう。
■「冷泉家 王朝の和歌守(うたもり)展」東京都美術館
2009年10月24日(土)~12月20日(日)
作品保護のため、前期と後期で全作品を入れ替える。
前期:2009年10月24日(土)~11月23日(月・祝)
後期:2009年11月25日(水)~12月20日(日)
http://www.asahi.com/reizei/
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