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2009年12月

2009年12月31日 (木)

2009年 展覧会ベスト10・・・薔薇の咲くテラスにて

20090919_1213 1位:「皇室の名宝展」1期、2期、東京国立博物館、

暗闇の中に死蔵されていて、展示されることがまれな日本美術の至宝。伊藤若冲「動植綵絵」30点、全点展示は圧巻。正倉院宝物は、螺鈿琵琶、他、不朽の輝き、日本の誇るべき美の宝庫。1000年の彼方から美が輝いている。

2位:「国宝 阿修羅展」東京国立博物館
 阿修羅像は、正倉院宝物とあわせて、天平文化の意味をかえりみる重要な文化遺産。天平文化は、日本の古典期後期でありバロックである。

3位:「ハプスブルク展」国立新美術館
 ルーカス・クラナッハ「洗礼者ヨハネの首をもつサロメ」、アンドレアス・メラー「11才のマリア・テレジア」は見る価値がある。

4位:「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」国立西洋美術館
 クロード・ロラン、カルロ・ドルチ、バロックの絵画を考える価値ある展覧会。

5位:「古代ローマ帝国の遺産―栄光の都ローマと悲劇の街ポンペイ―」国立西洋美術館
 「豹を抱くディオニュソス」はうっとりるほど美しい。

6位:「聖地チベット」東京都美術館
 「カーラ・チャクラ父母仏立像」は、チベット密教美術の最高傑作。

7位:「美しきアジアの玉手箱、シアトル美術館所蔵名品展」サントリー美術館
 俵屋宗達・本阿弥光悦「鹿下絵和歌巻」の宗達による鹿の絵は、琳派藝術、至高の逸品。

8位:「トリノ・エジプト展」東京都美術館
 「トゥタンカメンとアメン神」は、不滅の美しさ。

9位:「奇想の王国 だまし絵展」Bunkamuraザ・ミュージアム
 だまし絵技術の万華鏡、貴重な展覧会。絵画とは何かを考えさせられる。

10位:「冷泉家展」1期、2期、東京都美術館
 新古今和歌集、俊成、定家の家の書の至宝。冷泉家は、詩歌、言語藝術の神殿である。

■その他、記憶に残る美術展
「ルネ・ラリック展」国立新美術館
「古代カルタゴとローマ展 きらめく地中海文明の至宝」大丸ミュージアム・東京
「ベルギー幻想美術館展」
「加山又造展」
「ゴーギャン展」
「岸田劉生展」
「尼門跡寺院の世界」
「日本の美術館名品展 MUSEUM ISLANDS」東京都美術館
「速水御舟展」

■現代美術・・・薔薇の咲くテラスにて
今年は、銀座のギャラリー枝香庵、薔薇の咲くテラスによく行った。出会った現代美術作家、発見した美術作品で、優れて印象に残る現代美術は、以下の作家である。
榎俊幸、広田稔、諏訪敦、三瀬夏之介、寒河江智花、浅井冴子、北川瑶子、岡本瑛理、土屋仁応、他。
★土屋仁応/Yoshimasa Tsuchiya「夢をたべる獏が夢みる夢 “Dreams a tapir eating dreams dreams of”」(メグミ・オギタ・ギャラリー)、初めて冬の雨の中、迷路のような螺旋階段を上って隠れ家のようなところに見に行った。

■藝術的技巧に止まらず、精神性を追求している藝術のみが美しい。「外極めて美にして、内極めて醜なるものあり。」(北村透谷『万物の声と詩人』)
これからも精神的美を探求する藝術を探していきたい。

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2009年12月28日 (月)

聖地チベット、ポタラ宮と天空の至宝・・・優雅で妖艶な密教美術

Tibet_2009091902大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より 
枯葉舞う冬の夕暮れ、美術館に行く。チベット密教は至高の地に展開した、魂の奥の院である。標高四千メートルの高地チベット。
魂の至高の境地を探求する後期密教経典『カーラチャクラ・タントラ』、その思想を表現する仏像、図像、曼荼羅の華麗な世界である。迷える大衆を仏教に引き入れるため憤怒相を現す仏、人を迷わせる明妃ダーキニー、智慧と慈悲の合一を示す雌雄が抱擁する歓喜仏、仏教の究極の形態の一つがここにある。
■展示作品
「グヒヤサマージャ坐像タンカ」ポタラ宮、15世紀
後期密教経典のうち、最も早い8-9世紀頃に成立した『秘密集会タントラ』(グヒヤサマージャタントラ)の主尊。
「カーラチャクラ父母仏立像」14世紀前半、シャル寺
チベット密教美術の最高傑作。方便である慈悲の象徴である父と、空の智慧(般若)の象徴である母が抱き合う姿は一体となうことで悟りの世界に到達するという教えを象徴する。後期密教における忿怒尊。4つの顔にはそれぞれ3つの眼があり、24本の腕には金剛杵、鈴、斧、弓、索などが見られ、ヴィシュヴァマーター妃と抱き合っている。男性仏と女性仏が一体化して到達する悟りの境地を表現する。
「カーラチャクラマンダラ・タンカ」清代・17−18世紀、ノルブリンカ城
時間と空間を統合した究極のマンダラ世界。中央の意輪の最内部には、主尊カーラチャクラと、明妃のヴィシュヴァマーターが父母仏、周囲の八葉蓮弁には8人の女神が配されている。一番外側の第三重の身密マンダラでは大蓮華が12個描かれ、1年を象徴する。
★チベット密教美術は、インド後期密教の到達点である経典、無上瑜伽タントラ、『秘密集会タントラ』、『ヘーヴァジラ・タントラ』、『カーラチャクラ(時輪)タントラ』の世界を見える形象によって表現する。
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参考文献

聖地チベット、ポタラ宮と天空の至宝・・・優雅で妖艶な密教美術

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■展示構成
序章 吐蕃王国のチベット統一
7世紀初め、ソンツェンガンポがチベット高原を統一し吐蕃王国を建設。仏教国の唐とネパールから二人の妃を迎えた。
第一章 仏教文化の受容と発展
7世紀末のティソンデツェン王の時代に仏教が吐蕃王国の国教とされると、周辺仏教国から僧侶、仏像、経典がチベットに流入した。
第二章 チベット密教の精華
9世紀中頃ランダルマ王が仏教を廃し、その後暗殺されたのを契機に吐蕃王国は混乱し滅亡。仏教も迫害される。10-11世紀頃からチベットは再び仏教(後期密教)を受け入れる。後期密教では守護、護法の面が際立ち、精巧かつ豪華なチベット密教美術の表現が盛んになる。
第三章 元・明・清との往来
13世紀、蒙古の西蔵進攻に際し、サキャ派の指導者サキャ・パンディタとその甥パクパは侵略を阻止しただけでなく、パクパは仏教界の頂点に立ち、チベットの行政権とモンゴル全体の仏教行政権を獲得した。チベット仏教とモンゴル帝国の緊密な関係が生まれ、チベット様式の文化が元・明・清の各王朝で作られた。
第四章 チベットの暮らし
各地の寺院ではチャム(跳神舞)が行われ、護法や忿怒神の仮面をつけた僧が舞う。医療において究極の目的は煩悩からの解脱にあり、薬師如来が医学を講釈することになる。
■密教史
日本密教は、6-7世紀頃にインドから中国に伝わり、9世紀に空海、最澄によって伝えられた。「中期密教」と呼ばれ、『大日経』に説かれる胎蔵マンダラと『金剛頂経』に概略が説かれる金剛界マンダラを重視した。
これ対して、チベット密教は、8世紀以降にインドからチベットに伝わり、教義が整理された。「後期密教」と呼ばれ、瑜伽タントラ、無上瑜伽タントラと呼ばれる密教経典が流行した。その本尊の多くは、多面多臂で恐ろしい形相をしており、配偶女尊と抱き合う忿怒歓喜仏の姿が多くとられている。主な宗派としてカギュ派、サキャ派、ゲルク派、シチェー派がある。(cf.『聖地チベット』図録、展示資料より)
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★聖地チベット-ポタラ宮と天空の至宝-
上野の森美術館、2009年9月19日(土)-2010年1月11日(月・祝)
公式サイト:http://www.seichi-tibet.jp/

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2009年12月24日 (木)

山本冬彦コレクション展、佐藤美術館・・・諏訪敦、三瀬夏之介との鼎談

20091102_suwa_atsushi_2コレクター山本冬彦氏のコレクション展が開かれる。山本氏は「銀座の隠れ家」に1300点を所蔵する。諏訪敦、三瀬夏之介、榎俊幸、他、現代作家を発見して支援してきた個人コレクターである。山本氏とは銀座の枝香庵でよく藝術談議に耽る。友人である。藝術的技巧だけでなく精神性の深さを尊ぶ優れたコレクターであり、先見の明をもち、隠れた才能を見いだす名人である。寒河江智花、浅井冴子、他、佐藤美術館では、所蔵作品160点が展示される。
スーパーリアリズムの諏訪敦、現代の奇想派の三瀬夏之介との鼎談がある。
■「山本冬彦コレクション展~サラリーマンコレクター30年の軌跡」
2010年1月14日(木)~2月21日(日)
佐藤美術館(3階展示室・4階展示室・5階多目的スペース)
主催:財団法人佐藤国際文化育英財団、日本経済新聞社
★イベント2 トークショー「コレクターと作家の出会い」ゲスト:諏訪敦・三瀬夏之介
1月24日(日)15:00~ 定員100名
★イベント4 トークショー「蒐集の哲学について」ゲスト:木村悦雄、澤登丈夫、御子柴大三2月11日(木・祝)15:00~ 定員100名
★写真:佐藤美術館、立島惠氏、諏訪敦氏の許可を得て掲載しています。
http://homepage3.nifty.com/sato-museum/index.html

諏訪敦公式サイト

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2009年12月23日 (水)

清方/Kiyokata ノスタルジア―鏑木清方の美の世界・・・美女の姿態

Kiyokata200911_20191101000001
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より 
11月17日、冷たい雨の中、六本木に行く。美人画家は、容貌、目、唇、指先、姿、面影、様々な女の姿態、形象の中に女性美を探求する。鏑木清方には、春信、春章の影響がみられる。浮世絵師、鈴木春信、勝川春章、鳥文斎栄之を好んだ。「春宵」「嫁ぐ人」(鏑木清方記念館)他、明治時代の女学生をみると、風俗画の中に時代の情緒が封じ込められている。清方は、近代日本の美人画家、上村松園、伊東深水と並び称せられる。日本の美人画は、様式化された美を追求する。「初夏の化粧」(大正5)「口紅」(昭和14)、化粧する女が美しい。だが、悩める美女の美しさに美は極まる。「道成寺・鷺娘」(1918福富太郎コレクション)「春の夜のうらみ」(1922新潟県立美術館)がある。内覧会で15年ぶりに、山脇晴子・日本経済新聞文化事業局長に会った。
■悩める美女
「桜姫」(1923新潟県立美術館)は、歌舞伎狂言「清玄桜姫」による作品。僧の清玄が桜姫の容色に道を誤る。桜姫に恋した僧清玄が破門の末、殺されて執念が残り桜姫に纏わりつく物語である。桜姫が身をよじり、おびえて顔を手で覆っている場面が描かれている。悩める美女。身をよじる女の姿は、ミケランジェロの彫刻のようである。日本のバロック。鏑木清方の最高傑作である。
展示構成
第一章 近代日本画家としての足跡
第二章 近世から近代へ-人物画の継承者としての清方
第三章 「市民の風懐に遊ぶ」-清方が生み出す回顧的風俗画
第四章 清方が親しんだ日本美術
第五章 清方の仕事-スケッチ、デザイン
――
近代日本画に大いなる足跡を残した巨匠、鏑木清方(1878~1972)。彼の目は、明治から昭和という激動の時代にあって、なお人々の暮らしに残る、あるいは消えつつあるものを捉え、特に人物画において独自の画境を開いてきました。また、清方は伝統的な日本美術から多くのことを学んでおり、自身の画風にも色濃く反映されています。
本展は、近代に残る江戸情緒、そして自身が学んだ古きよき日本美術という、清方にとっての2つのノスタルジアに焦点をあて、清方芸術の魅力を探ろうとするものです。清方の代表的な名作はもちろん、初公開となる清方作品、清方旧蔵の肉筆浮世絵など、これまでの清方展では紹介されることのなかった作品も出品されます。本展を通じて、近代の日本画家という枠組みを越え、近世以前からの連続的な歴史の中で浮かび上がる、鏑木清方の美の世界をお楽しみください。
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2009_06/display.html
――
★清方/Kiyokata ノスタルジア―名品でたどる 鏑木清方の美の世界―
サントリー美術館
2009年11月18日(水)~2010年1月11日(月・祝)
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/09vol06/index.html

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2009年12月15日 (火)

詩人・吉増剛造・・・詩人との出会い

Botticelli_magnificat_2009大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より 
12月9日夕方「詩人・吉増剛造と写真家・港千尋の対談」をきくために、日本経済新聞社、本社2階に行く。詩人伊藤浩子さんが「シビレるおやじ」という吉増剛造である。
予定より前に到着し、「活字ルネサンス」の展示を見るが時間が余り、困った。文化事業局の女性に聞き、会場に入る。室内には、詩人らしい老人が一人で本を読んでいる。* そこで、名刺交換する。詩人に、私の専門は哲学、美学、ギリシア、地中海であることを話す。
■『わたしは燃え立つ蜃気楼』
吉増剛造『わたしは燃え立つ蜃気楼』(1978小沢書店)を学生時代に読んだことを話すと、
「雑誌『理想』からギリシア哲学について書くようにという依頼があり、パルメニデスについて書き、井上忠に会ったんだ。人との出会いが作品になるんだ。」と詩人は言った。
哲学詩人パルメニデス、ギリシア哲学、西脇順三郎、村野四郎「鹿」、塚本邦雄、現代詩の凋落、について、語り合う。
「西脇順三郎は、ギリシアだね。現代詩の没落は、詩人のレベルが下がったからだよ。大学の教育の崩壊が一因だと思う」と詩人は言った。
「人文科学教育、哲学、文学、歴史、古典の教育が崩壊したから、大学教育は水準が低くなったのだと思う」と私は言った。
「今もわたしはハイデガーやヘルダーリンを読みますよ。またどこかで会いましょう。」と詩人は最後に言った。
孤高な修行僧のように、銅版に文字を刻む詩人をみると、18世紀の言葉を思い出す。
孤独は優れた精神の持ち主の運命である。(ショウペンハウエル)
青春の夢に忠実であれ。(フリードリヒ・フォン・シラー)
■「いま、朝焼けにむかって、ギリシャ彫刻のよくにあう、宇宙を想像しながら、黒曜石の丘を登る」(「海の恒星」吉増剛造『黄金詩篇』1970)を思い出した。
■「吉増剛造×港千尋」トークセッション12月9日
日時:12月9日(水)18:30-20:00場所:SPACE NIO
活字ルネサンス「タイポロジック―文字で遊ぶ、探る、創る展覧会」
http://www.typologic.net/
2009年10月16日(金)‐12月18日(金)平日10:00-18:00
SPACE NIO(東京・大手町 日本経済新聞社2F)
監修:港千尋アートディレクション:永原康史
■*港千尋『洞窟へ』せりか書房2001
★ボッティチェリ「マニフィカートの聖母」(Botticelli,Madonna del Magnificat)1483-85

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2009年12月12日 (土)

クエンティン・タランティーノ『イングロリアス・バスターズ』・・・ 映像美が炸裂する復讐譚

Inglouriousbasterds2009_2Inglouriousbasterds2009_3Inglouriousbasterds2009_0大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
冬の夕暮れ、新宿ミラノ座で観る。迫害されたユダヤ人女性によるドイツ軍への復讐、特殊部隊の攻撃が炸裂。鮮烈な映像美とタランティーノ監督のユーモアが不思議な世界を作る。美人女優2人の悲劇的な死が美しい。美女の苦難をみているだけでも楽しめる。歴史的事実を基に作り上げられた、奇想天外なストーリー展開、驚愕の怪作!
■クエンティン・タランティーノ監督『イングロリアス・バスターズ』:INGLOURIOUS BASTERDS
1941年、ナチス占領下のフランスの田舎町で、家族を虐殺されたユダヤ人の娘ショシャナ(メラニー・ロラン)はランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)の追跡を逃れる。
1944年6月、ドイツ占領下のパリ。映画館主のミミュー(メラニー・ロラン)はドイツ軍の英雄フレデリックに言い寄られ、挙げ句ナチスのプロパガンダ映画をプレミア上映させられる羽目になる。
プレミア上映の情報を掴んだイギリス軍は、ナチスを殲滅するため映画館を爆破すべくアルド中尉(ブラッド・ピット)率いるナチス専門殺人部隊“イングロリアス・バスターズ”を動員、スパイのブリジッド(ダイアン・クルーガー)と接触を図らせる。一方ナチスでは“ユダヤ・ハンター”の異名をとるランダ大佐が動き出す。
――
「特攻大作戦」「地獄のバスターズ」の装いを凝らした、ナチスに家族を殺された娘の復讐譚。

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