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2010年1月

2010年1月29日 (金)

世界遺産 アンコールワット展・・・クメールの微笑み

20091227img大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より 
晴れた午後、クメール美術を見に行く。青春の日に読んだ三島由紀夫『癩王のテラス』を思い出す。ジャヤヴァルマン7世の苦悩と偉大、バイヨン寺院、王の「肉体」と「精神」との対話。生と死の謎を考えた若き日。七つの頭のナーガ(蛇)を光背にもつ仏陀が、クメールの微笑みを湛えている。アルカイク彫刻のような、神秘的な微笑みが美しい。森の中の水の都、アンコールワット。滅亡し、密林の中に埋もれた王宮と寺院。800年の眠りから目覚めた、神秘の微笑み。最盛期のアンコール王朝、ジャヤ・ヴァルマン7世の残照がある。
■主な展示作品
「ジャヤヴァルマン7世の尊顔」(国家重要作品・プノンペン国立博物館)
ジャヤバルマン7世(1181~1220)は12世紀後半に統治し、バイヨン寺院、他多くの寺院を建立し、仏教美術を隆盛に導いた王として名高い。その肖像であるアンコール美術の中でも最も雄渾に溢れた作品。聡明だが病に苦しんだ王を思い浮かべる。
「王妃といわれる彫像プラジュニャーパーラミター」(プノンペン国立博物館)
仏教に深く帰依したジャヤバルマン7世の王妃の姿にプラジュニャーパーラミター(般若波羅密多菩薩)のイメージを重ねて作られた肖像、崇高な表情が印象的。
「ナーガをおさえ込むガルダ」(プノンペン国立博物館)
ガルダ(神鷲)は鳥類の王で、ヴィシュヌ神の乗り物とされる。大蛇ナーガを踏みつけている姿である。
「鎮座する閻魔大王ヤマ天」(国家重要作品・プノンペン国立博物館)
「ライ王のテラス」と呼ばれる場所に鎮座していた本像は、その名について長く議論がなされてきたが、最近尻部に刻まれた碑文から、「閻魔大王」であることが明らかとなった。三島由紀夫が戯曲「癩王のテラス」を著すきっかけになった像として名高い。
「美しい尊顔の禅定するプラジュニャーパーラミター」(シハヌーク・イオン博物館)
バンテアイ・クデイで出土した仏像のほとんどは、廃仏毀釈にあっていたためか、頭部と胴体が切断されたものが多い。頭部からだけでも、その完成度の高さがうかがい知られる。
「盛装したナーガ上の仏陀像」(シハヌーク・イオン博物館)
首部が切断されておらず、完好な状態で出土した仏陀像。豪華な装身具をまとった姿が華やかな雰囲気。
「七つ頭のナーガに見守られた禅定仏尊顔」(シハヌーク・イオン博物館)
蛇王ムチリンダが、禅定する仏陀を雨から守るために地中から現れて七つの頭を広げたという仏伝をあらわした姿。瞑想する仏の表情が美しい。
「黒の貴婦人と呼ばれていた女神立像」(プノンペン国立博物館)
この女神像は、クメール人の女性をモデルにしたと考えられる。生命感に溢れた瑞々しい造形から、当時の人々の息吹、これを作り上げた仏師の心。
「リアム・ケー」(ラーマーヤナ)(プノンペン国立博物館)
ヒンドゥ叙事詩の1つ。16世紀から17世紀に編まれたリアム・ケーは、現在でも寺院の浮き彫りや壁画、影絵芝居の題材である。
*「世界遺産 アンコールワット」図録参照。「アンコールワットとクメール美術の1000年展」1997を参考にした。
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「アンコール遺跡群」はカンボジア王国にある東南アジア最大規模の文化遺産で、1992年にユネスコの世界遺産にも登録されました。この文化遺産は、600年にわたる栄華の大寺院、そこにはアンコール時代に製作されたヒンドゥー教の神像や仏像が数多く安置されていました。それらの彫像は、世界の最高傑作として高い評価を得ています。アンコール王朝は、6世紀頃からクメール民族によってこの地に開かれ、ヒンドゥー教、仏教の美術が花開きました。特に9世紀に入りアンコールの地が王都になると、神々を祀る寺院が歴代の王によって数多く建立されました。この建造物の中で最も有名なものが、12世紀にスーリヤヴァルマン2世(1113~50年頃)により創建された、世界の至宝「アンコールワット」です。
 本展では、プノンペン国立博物館、シハヌーク・イオン博物館から、アンコール王朝最盛期の彫像作品と民族工芸品を中心に60余点を一堂に展覧いたします。出展作品の中には、2001年に上智大学アンコール遺跡国際調査団がバンテアイ・クデイ遺跡で発掘した仏像11点が含まれ、本展最大の見どころとなっています。ほかに三島由紀夫が戯曲の題材にしたと言われる、砂岩の丸彫による大彫像「鎮座する閻魔大王ヤマ天」など、日本初公開となる圧巻な彫刻や繊細な浮き彫り作品なども多数含まれています。数々の発掘によりアンコール王朝の歴史が書き換えられたという、その至高の精華が一堂に会します。ベールにつつまれたその歴史に触れ、アンコールの遺跡に息づく神々の息吹を感じてください。
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★「世界遺産 アンコールワット展」
(財)岡田文化財団、上智大学創立100周年記念事業
【東京】12月27日から1月18日まで、日本橋三越本店
http://www.mitsukoshi.co.jp/store/1010/angkorwat/
★展覧会、全国巡回の日程・会場
【山梨】 山梨県立博物館    2010年2月4日~3月22日
【石川】 大和香林坊店     2010年3月26日~4月13日
【岡山】 岡山県立美術館    2010年4月20日~5月30日
【群馬】 群馬県立近代美術館  2010年6月5日~7月4日
【福岡】 福岡市博物館     2010年7月10日~8月29日
【熊本】 熊本県立博物館    2010年10月19日~12月5日
【大分】 大分県立芸術会館   2010年12月11日~2011年1月23日
【京都】美術館「えき」KYOTO  2009年10月9日~11月3日

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2010年1月26日 (火)

「木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン」・・・人と時間と空間の出会い

20091128   12月25日夕暮れ、恵比寿ガーデンプレイスに行く。大きな樅の木とバカラのシャンデリアが煌めき、華やかなクリスマスの街が輝いている。人と時間と空間の出会いは一期一会である。
「スナップショットの名手」と呼ばれた木村と「決定的瞬間」という言葉を広めたブレッソンの展覧会である。木村伊兵衛は、1954(昭和29)年にパリを訪ねてブレッソンと会い、影響を受けた。
■演出されたような人物配置、奇跡としか言いようのないゆるぎない構図。
しかし、静止の前の動きの瞬間を切り取ったかのようである。Image à la sauvette(掠め取られた瞬間)と訳されている。
ブレッソン『決定的瞬間』(英題 The Decisive Momentフランス版原題 Image à la sauvette(逃げ去る映像)1952年出版)が展示されている。
■いにしえの巨匠たちの肖像
1950年代の藝術家たち、アンリ・マティス、谷崎潤一郎らのポートレイトは、品格があり、時代の精神が封じ込められている。これと比べると、現代の作家、藝術家は軽薄の極みである。
■アンリ・カルティエ=ブレッソン(Henri Cartier-Bresson, 1908- 2004)は、主にストリート写真を撮ったが、芸術家や友人たちを撮ったポートレイトもある。2004年8月3日、95歳で南フランス・プロヴァンスの別荘で死去した。
木村伊兵衛(1901-1974)は報道・宣伝写真やストリートスナップ、ポートレート、舞台写真などにおいて数多くの傑作を残している。
二人は、街角、広場、ポートレートを撮った。1950年代の時間が閉じ込められている。世界が貧しかった時代、市民の息づかいが感じられる。二人は日本とフランスの写真史の巨匠であり、同時代を生きた2人には交流があり、互いを撮った写真も残っている。
決定的瞬間とは「外界の現実と写真家の内面が出合う瞬間がある、何の変哲もないものにもそういう瞬間が見つかる。」ことである(cf.スナップショットの創始者たち、産経新聞2009.12.23記事、参照)
■主な展示作品
木村伊兵衛
「本郷森川町」「浅草」1953「ローマ」「セーヌ附近」「霧のメニール・モンタン、パリ」1954「谷崎潤一郎」1950「宇野浩二」1953「永井荷風」1954
アンリ・カルティエ=ブレッソン
「シエナ、イタリア」1933「サンラザール駅裏、パリ」1932「天使と尼僧」「アンリ・マティス」1951
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木村伊兵衛(1901~1974)とアンリ・カルティエ=ブレッソン(1908~2004)は、日本とヨーロッパと活躍した場は異なりますが、ともに近代的写真表現を切り拓いた写真家として重要な存在です。この二人は、ともに「ライカ」というカメラを人間の眼の延長としてとらえ、揺れ動く現実の諸相を切り取り、それまでになかった新しい「写真」のあり方を証明したといえるでしょう。二人の作品には普遍的ともいえる共通性を見て取れますが、その一方で、日本とヨーロッパというそれぞれが生きた現実の違いも、微妙ではありながら決定的な差異として見て取れることも重要な事実です。
本展では、木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソンという偉大な二人の写真家の個性を堪能するだけではなく、近代的写真表現が絶対的普遍的でありながら、同時にいかに個別的相対的なものであったということを見ようとするものです。木村伊兵衛作品は東京都写真美術館のコレクションを中心に、またアンリ・カルティエ=ブレッソン作品は当館のコレクションを中心に国内各美術館の所蔵作品も含め、全体で153点をご紹介いたします。
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★木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン 東洋と西洋のまなざし
東京都写真美術館11月28日(土)-2月7日(日)
http://www.syabi.com/details/kimura.html

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2010年1月17日 (日)

画家、榎俊幸の世界・・・象徴と幻想の美

Ibaraki榎俊幸の絵画には、山本冬彦コレクションで出会った。淡く妙なる色調、象徴と幻想の世界はこの世ならぬ美を湛えている。榎俊幸の絵画は、リアリズムを追求することによってイデアリズムを追求している。価値基準の崩壊した現代藝術において、稀なる美の世界である。
人物画、「茨と帛」「THE PEARL」1997年、「COCOON」2000年、「孔雀舞」2003年には、リアリズムを通して魂の美、幻想的な美の追求がある。
幻獣、聖獣をえがく作品群がある。「鳳凰図」2005年、「麒麟図」「昇龍図」2006年、「秋鳳図」2007。幻獣、瑞獣をえがく画家は、聖なる価値、聖なる幸福を探求している。二条城で展示された「龍門の瀧」2009年は、聖なる価値の探求の系譜にある。
現代は価値の基準が崩壊した時代である。現代藝術において、美を追求する絵画は少ない。榎俊幸は「外界に対する目を閉じ、内なる目を開く」ことを探求する。見える形を追求することによって見えざる美を探求する。「相対的な上下関係ではなく、絶対的な高みに昇りたいと願っている」と思われる。「鳳凰図」「秋鳳図」「茨と帛」がこの上なく美しい。
目に見えない観念、内面を、具体的な形あるものを通して表現することを象徴という。榎俊幸の世界は、象徴派の世界を想起する。現代の象徴派である。ギュスターブ・モロー「一角獣」1885-1888、ジャン・デルヴィル「死せるオルフェウス」1893「茨の冠」1892を思い出す。
榎俊幸ホームページ
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展覧会
■「不空」榎俊幸・中堀慎治 二人展
Gellery 香染美術 2010年1月21日(木)~2月20日(土)
AM11:00~PM7:00 日・祝日休廊
http://kan-hikari.blogspot.com/
■山本冬彦コレクション展
2010年1月14日(木)~2月21日(日)休館日:月曜日
佐藤美術館
http://homepage3.nifty.com/sato-museum/index.html
★榎俊幸「茨と帛」「THE PEARL」1997年

★画像は、榎俊幸さんの許可を得て掲載しています。
Perl

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2010年1月12日 (火)

印象派、ポスト印象派、オンパレード 2010

2010012011 東京は、世界で最も美術展の多い都市である。しかし日本でとくに多いのは印象派、オルセー美術館展である。

2010年は、印象派、ポスト印象派の美術展のオンパレード。9つの美術展がある。
オルセー美術館からの作品の展示が3つある。
「ルノワール展」「マネとモダン・パリ」「オルセー美術館展 ポスト印象派」
その他、印象派、ポスト印象派の美術展が6つある。
■印象派、ポスト印象派
1/20~4/5   ルノワール展、国立新美術館
1/16~3/14  イタリアの印象派 マッキアイオーリ展 庭園美術館
4/6~7/25   マネとモダン・パリ、三菱一号館
4/17~6/20  ボストン美術館展、森アーツセンターギャラリー
5/26~8/16  オルセー美術館展 ポスト印象派2010、国立新美術館
4/20~7/25  印象派はお好きですか?ブリヂストン美術館
10/1~12/20  ゴッホ展─こうして私はゴッホになった─、国立新美術館、ファン・ゴッホ美術館とクレラー=ミュラー美術館のコレクション
7/2~9/4    ポーラ美術館コレクション展:印象派とエコール・ド・パリ、横浜美術館
9/18~12/31  ドガ展、横浜美術館
印象派マニアにとっては至福の時だろう。印象派マニアは、心ゆくまでご覧下さい。
■黄金時代のイタリア美術
黄金時代のイタリア美術の展覧会は少ない。2010年は、

「ボルゲーゼ美術館展」1月16日(土)~4月4日(日)

「ナポリ・宮廷と美─カポディモンテ美術館展 ルネサンスからバロックまで」国立西洋美術館6/26~9月/26、

「ウフィッツィ美術館展、ヴァザーリの回廊」損保ジャパン東郷青児美術館9/11~11/14、である。

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2010年1月 1日 (金)

新年明けましておめでとうございます・・・火の鳥のように

01 新年明けましておめでとうございます。
様々な場所で、出会った皆さま、ご協力頂いた皆さま、ありがとうございました。感謝しています。今年もよろしくお願いします。
■火の鳥・・・死と再生の象徴
その身を炎に焼かれても灰の中から蘇ると言い伝えられる不死鳥。火の鳥、フェニックス、鳳凰。
いかなる逆境にあっても決して絶滅することのない生命力の象徴、
肉体が滅びようとも精神は生き残るという強い意志、不屈の魂の象徴。死と再生の象徴である。
■不屈の魂
北斎の不屈の意志のように、逆境の時代を生きたレオナルドのように、絶望の中を生きる不屈の魂がある。
世界は逆境の時代である。しかし、死の灰の中から蘇り、創造する魂は美しい。「人は幸運の時には偉大に見えるかもしれないが、真に向上するのは不運の時だけである。」(Friedrich Schiller)

いかなる状況下でも、私は学問と藝術を探求して行きたいと思います。
2010年がみなさまにとって素敵な年になりますように。
新しい年が、良い年でありますように、祈ります。
★北斎「鳳凰図屏風」1835ボストン美術館蔵cf.『江戸の誘惑』朝日新聞社2006

Boston_edonoyuuwaku_20060301 

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