世界遺産 アンコールワット展・・・クメールの微笑み
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
晴れた午後、クメール美術を見に行く。青春の日に読んだ三島由紀夫『癩王のテラス』を思い出す。ジャヤヴァルマン7世の苦悩と偉大、バイヨン寺院、王の「肉体」と「精神」との対話。生と死の謎を考えた若き日。七つの頭のナーガ(蛇)を光背にもつ仏陀が、クメールの微笑みを湛えている。アルカイク彫刻のような、神秘的な微笑みが美しい。森の中の水の都、アンコールワット。滅亡し、密林の中に埋もれた王宮と寺院。800年の眠りから目覚めた、神秘の微笑み。最盛期のアンコール王朝、ジャヤ・ヴァルマン7世の残照がある。
■主な展示作品
「ジャヤヴァルマン7世の尊顔」(国家重要作品・プノンペン国立博物館)
ジャヤバルマン7世(1181~1220)は12世紀後半に統治し、バイヨン寺院、他多くの寺院を建立し、仏教美術を隆盛に導いた王として名高い。その肖像であるアンコール美術の中でも最も雄渾に溢れた作品。聡明だが病に苦しんだ王を思い浮かべる。
「王妃といわれる彫像プラジュニャーパーラミター」(プノンペン国立博物館)
仏教に深く帰依したジャヤバルマン7世の王妃の姿にプラジュニャーパーラミター(般若波羅密多菩薩)のイメージを重ねて作られた肖像、崇高な表情が印象的。
「ナーガをおさえ込むガルダ」(プノンペン国立博物館)
ガルダ(神鷲)は鳥類の王で、ヴィシュヌ神の乗り物とされる。大蛇ナーガを踏みつけている姿である。
「鎮座する閻魔大王ヤマ天」(国家重要作品・プノンペン国立博物館)
「ライ王のテラス」と呼ばれる場所に鎮座していた本像は、その名について長く議論がなされてきたが、最近尻部に刻まれた碑文から、「閻魔大王」であることが明らかとなった。三島由紀夫が戯曲「癩王のテラス」を著すきっかけになった像として名高い。
「美しい尊顔の禅定するプラジュニャーパーラミター」(シハヌーク・イオン博物館)
バンテアイ・クデイで出土した仏像のほとんどは、廃仏毀釈にあっていたためか、頭部と胴体が切断されたものが多い。頭部からだけでも、その完成度の高さがうかがい知られる。
「盛装したナーガ上の仏陀像」(シハヌーク・イオン博物館)
首部が切断されておらず、完好な状態で出土した仏陀像。豪華な装身具をまとった姿が華やかな雰囲気。
「七つ頭のナーガに見守られた禅定仏尊顔」(シハヌーク・イオン博物館)
蛇王ムチリンダが、禅定する仏陀を雨から守るために地中から現れて七つの頭を広げたという仏伝をあらわした姿。瞑想する仏の表情が美しい。
「黒の貴婦人と呼ばれていた女神立像」(プノンペン国立博物館)
この女神像は、クメール人の女性をモデルにしたと考えられる。生命感に溢れた瑞々しい造形から、当時の人々の息吹、これを作り上げた仏師の心。
「リアム・ケー」(ラーマーヤナ)(プノンペン国立博物館)
ヒンドゥ叙事詩の1つ。16世紀から17世紀に編まれたリアム・ケーは、現在でも寺院の浮き彫りや壁画、影絵芝居の題材である。
*「世界遺産 アンコールワット」図録参照。「アンコールワットとクメール美術の1000年展」1997を参考にした。
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「アンコール遺跡群」はカンボジア王国にある東南アジア最大規模の文化遺産で、1992年にユネスコの世界遺産にも登録されました。この文化遺産は、600年にわたる栄華の大寺院、そこにはアンコール時代に製作されたヒンドゥー教の神像や仏像が数多く安置されていました。それらの彫像は、世界の最高傑作として高い評価を得ています。アンコール王朝は、6世紀頃からクメール民族によってこの地に開かれ、ヒンドゥー教、仏教の美術が花開きました。特に9世紀に入りアンコールの地が王都になると、神々を祀る寺院が歴代の王によって数多く建立されました。この建造物の中で最も有名なものが、12世紀にスーリヤヴァルマン2世(1113~50年頃)により創建された、世界の至宝「アンコールワット」です。
本展では、プノンペン国立博物館、シハヌーク・イオン博物館から、アンコール王朝最盛期の彫像作品と民族工芸品を中心に60余点を一堂に展覧いたします。出展作品の中には、2001年に上智大学アンコール遺跡国際調査団がバンテアイ・クデイ遺跡で発掘した仏像11点が含まれ、本展最大の見どころとなっています。ほかに三島由紀夫が戯曲の題材にしたと言われる、砂岩の丸彫による大彫像「鎮座する閻魔大王ヤマ天」など、日本初公開となる圧巻な彫刻や繊細な浮き彫り作品なども多数含まれています。数々の発掘によりアンコール王朝の歴史が書き換えられたという、その至高の精華が一堂に会します。ベールにつつまれたその歴史に触れ、アンコールの遺跡に息づく神々の息吹を感じてください。
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★「世界遺産 アンコールワット展」
(財)岡田文化財団、上智大学創立100周年記念事業
【東京】12月27日から1月18日まで、日本橋三越本店
http://www.mitsukoshi.co.jp/store/1010/angkorwat/
★展覧会、全国巡回の日程・会場
【山梨】 山梨県立博物館 2010年2月4日~3月22日
【石川】 大和香林坊店 2010年3月26日~4月13日
【岡山】 岡山県立美術館 2010年4月20日~5月30日
【群馬】 群馬県立近代美術館 2010年6月5日~7月4日
【福岡】 福岡市博物館 2010年7月10日~8月29日
【熊本】 熊本県立博物館 2010年10月19日~12月5日
【大分】 大分県立芸術会館 2010年12月11日~2011年1月23日
【京都】美術館「えき」KYOTO 2009年10月9日~11月3日
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