ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界・・・大きな魚は小さな魚を食らう、聖アントニウスの誘惑
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
灼熱の夏の午後、熱風吹き荒ぶなか、美術館に行く。熱帯夜47日、記録的な猛暑である。
ピーテル・ブリューゲル(1525/30-1569)には、ヒエロニムス・ボッシュ『快楽の園』(1480年-1500年プラド美術館)の影響が濃厚である。プラド美術館でみた『快楽の園』の超現実的世界を思い出す。『快楽の園』に溢れる視覚的イメージの奔流の源泉はどこにあるのか。
16世紀は諺の黄金時代と呼ばれる。ブリューゲルの版画は、17世紀オランダの寓意画、フェルメール(1632-1675)の風俗画に影響を与えた。七つの美徳シリーズに見られるように、目にみえない抽象的な概念を視覚化する。美徳は目にみえない。美徳に対して、悪徳は目にみえる。七つの悪徳「傲慢、激怒、怠惰、貪欲、大食、嫉妬、邪淫」は人間の醜さを象徴するイメージとして視覚化できる。「燃えている家で自分の体を温めるエゴイスト」「盲人が盲人を導けば二人とも穴に落ちる」「大きな魚は小さな魚を食う」これらの諺には現代にも生きる人間の醜さに対する洞察がある。七つの大罪には、人間の醜さの寓意と風刺が克明に描かれている。人間の世界は悪に満ちあふれている。
七つの美徳は、ギリシアの四元徳「知恵、勇気、節制、正義」に、後世、キリスト教の徳「信仰、希望、愛」が加えられたものである。「知恵、勇気、節制、正義」はプラトン『国家』が出典である。『国家』において探求された主題である。
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展示作品の一部
ブリューゲル「聖アントニウスの誘惑」The Temptation of St. Anthony.1556
ブリューゲル「大きな魚は小さな魚を食らう」1557
■展示構成
序 章 Prologue
第1章 雄大なアルプス山脈の賛美と近郊の田園風景への親近感
The Homage to the Landscape
第2章 聖書の主題や宗教的な寓意を描く
Biblical Subjects and Religious Allegories
「七つの罪源シリーズ」(傲慢、激怒、怠惰、貪欲、大食、嫉妬、邪淫)
「七つの美徳シリーズ」(信仰、希望、愛徳、正義、剛毅、賢明、節制)
第3章 武装帆船やガレー船の驚くべき表現力
The Detailed Expression of the Armed Ships
第4章 人間観察と道徳教訓の世界
The World of Moral Allegories and Fools
第5章 諺を通じて知る「青いマント」の世界
The World of the “Blue Cloak” observed through Proverbs
第6章 民衆文化や民話への共感
The Compassion for Popular Culture and Tales
第7章 四季や月暦表現で綴る市民の祝祭や農民の労働
Labors and Feasts from the Cycle of Seasons and Months
最終章 Epilogue
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「ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界」
★Bunkamuraザ・ミュージアム2010年7月17日(土)-8月29日(日)
★新潟市美術館 9月4日~10月17日
★美術館「えき」KYOTO 10月22日~11月23日
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