アルブレヒト・デューラー版画・素描展・・・線の藝術、騎士と死と悪魔
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
紅葉舞う冬の夕暮れ、枯葉降りつもる森を歩いて美術館に行く。銀杏の実が前夜の嵐で沢山落ちている。
時を経てデューラーを見ると藤田嗣治「平和の聖母礼拝堂」シャペル・フジタの雄渾なデッサンの美しい線を思い出す。「デューラー水彩・版画・素描」展(1992東京ステーションギャラリー)を見たのは18年前、「デューラー版画展」(西武美術館1980)を見たのは30年前である。
アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer:1471-1528)は、金銀細工師の緻密、彫刻家の造形、ルネサンスの古典主義と写実を融合した版画家である。父はハンガリーからニュルンベルクに移住した金銀細工師。アルブレヒトは19才の時旅に出て、遍歴時代(1490-1494)をへて結婚。アルブレヒトは2度イタリアに旅行し(1494-1495,1505-1507)、イタリア・ルネサンスの影響を受けた。傑作『1500年の自画像』に結実する。1511年『大受難伝』と『マリアの生涯』の二つの木版シリーズを完成し、『黙示録』シリーズ第二版とともに出版。『受難伝』には木版画『大受難伝』『小受難伝』、銅版画『受難伝』の3種がある。ラファエロ・サンティ、ジョヴァンニ・ベリーニ、ロレンツォ・ディ・クレディ、レオナルド・ダ・ヴィンチを含む有名な藝術家と親睦を図った。1513年から1514年、銅版画の傑作『騎士と死と悪魔』、『メランコリアI(メレンコリアI)』、『書斎の聖ヒエロニムス』を発表した。
■デューラーの三大書物「キリスト伝」「マリアの生涯」が西洋美術館にて展示され、「ヨハネ黙示録」は藝大美術館で展示されている。
デューラーの三大銅版画「騎士と死と悪魔」「書斎の聖ヒエロニムス」「メレンコリアI」は西洋版画の最高傑作とよばれる。
『メランコリアI』は「美とは何かを追求する藝術家、有翼の女性が見つめるものが美である」「憂鬱質」を表わすとされるが、解釈は分裂している。『騎士と死と悪魔』は死と悪魔と戦いながら真理を探究する姿を表しているようである。
*参考文献、池上浩生・中山三善編、千足伸行監修『デューラー展:水彩・素描・版画』デューラー展実行委員会1992
■展示作品
「ネメージス、運命の女神」1502
「受胎告知」1503年頃 ペン、褐色インク、水彩31.2×20.4cm ベルリン国立版画素描館
「聖家族」1492/93年 ペン、褐色インク29.0×21.4cm ベルリン国立版画素描館
「マクシミリアン1世の凱旋門」1515-17年(1559年印刷)、木版49枚(341.0×294.1cm)、なぜ凱旋門を版画で作らねばならないのか、疑問の作品。西洋版画の一大奇観である。
「騎士と死と悪魔」1513エングレーヴィング国立西洋美術館
「書斎の聖ヒエロニムス」1514年エングレーヴィング24.9×18.9cm国立西洋美術館
「メレンコリアI」1514エングレーヴィング国立西洋美術館
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■アルブレヒト・デューラー版画・素描展〔宗教・肖像・自然〕
「絵画芸術とは、教会に奉仕するものであり、それゆえキリストの受難を描くものである。それはまた人間の姿を死後の世界にも伝えるものである。大地、水面および星辰の測定は、絵画によって提示されることで理解されやすくなる」
――ドイツ・ルネサンスを代表する画家アルブレヒト・デューラー(1471-1528)は、自身で構想した芸術理論書『絵画論』のなかに、そう記しています。同書は結果として未完のまま終わりましたが、残された草稿からは、デューラーに固有の芸術観をうかがい知ることができます。上の一節は、『絵画論』の草稿中、画家の資質や訓練方法などについて論じた「画学生の糧」と呼ばれる章に記されている言葉です。デューラーはここで、芸術において重要なのは「宗教」「肖像」そして「自然」という3つの主題であることを明らかにしていきます。まさにこの3点こそが、デューラーの芸術を支える理念だったといっても過言ではないでしょう。本展覧会では、これらの主題が実際の作品においてどのように視覚化されたかを見て行くことで、デューラーの芸術の本質に迫ろうとするものです。
出品される版画・素描作品は、オーストラリア、メルボルン国立ヴィクトリア美術館からの105点を中心に、国立西洋美術館の所蔵版画49点、さらにベルリン国立版画素描館からの3点の素描を加えた計157点です。メルボルンのデューラー・コレクションは、トーマス・D・バーロウ卿が個人で収集した、刷りの質の極めて高い重要なコレクションとして知られています。国立西洋美術館では、1972年に「デューラーとドイツ・ルネッサンス」展を開催して以来、これほど多くのデューラー版画を展示したことがありませんでした。また、当館が収集してきたデューラー版画を一堂に展示するのも初めてのことです。ぜひ、この機会に、デューラーの精緻な版画芸術をご鑑賞ください。国立西洋美術館
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アルブレヒト・デューラー版画・素描展、国立西洋美術館2010年10月26日(火)~2011年1月16日(日)
★デューラー「騎士と死と悪魔」1513
★デューラー「メレンコリアI」1514
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「黙示録―デューラー/ルドン」展、東京藝術大学大学美術館展示室2、2010年10月23日(土)-12月5日(日)
デューラーの版画「黙示録」連作(1498年)に焦点を当て、その革新性と後世への影響をたどる展覧会。
★デューラー「黙示録」1498より
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