東寺・・・空海と『伝真言院曼荼羅』
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
春爛漫、桜満開の京都、醍醐寺の桜が咲き、東寺の紅枝垂れ桜の花吹雪が舞うまで、密教寺院に滞在した。東寺には学生時代から七度訪れたが、両界曼荼羅をかの地で見たことはない。見たのは「創建1200年記念 東寺国宝展」世田谷美術館でである。金剛界曼荼羅と胎蔵曼荼羅が意味するものは何か。春のうららかな光の中で考えた。
■『伝真言院曼荼羅』九世紀後半(東寺蔵)
『伝真言院曼荼羅』〈西院本〉。宮中の真言院で用いられたと伝えられ、金剛界、胎蔵界からなる曼荼羅。東寺に現存する曼荼羅のなかでもっとも古く、極彩色の曼荼羅の最高傑作である。九世紀の作と推定されるが、遠い異国の薫りがする。
「金剛界曼荼羅」は、成身会を中心に、三昧耶会、微細会、供養会、四印会、一印会、理趣会、降三世会、降三世三昧耶会の九会からなる。
「胎蔵曼荼羅」は、中台八葉院を中心に、周囲に、遍知院、持明院、釈迦院、虚空蔵院、文殊院、蘇悉地院、蓮華部院、地蔵院、金剛手院、除蓋障院が、同心円状にめぐり、すべてを囲む外周に外金剛部院(最外院)からなる。
空海が曼荼羅を用いる所以は、恵果阿闍梨の言葉による。「真言秘蔵は経疏に隠密にして、図画を仮らざれば相伝すること能わず。」(空海『請来目録』)
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■「創建1200年記念 東寺国宝展」世田谷美術館1995
東寺は平安京の鎮護を目的として造営され、823年、弘法大師空海に下賜されました。以来、真言密教の根本道場として、また鎮護国家の官寺として、教王護国寺とも呼ばれ、1200年の歴史を経てきました。五重の塔や、縁日「弘法さん」でも有名ですが、そこに息づく文化財、美術品については案外知られていません。古くは平安京の羅城門上に置かれていたという、中国で唐時代に作られた「兜跋毘沙門天立像」、また空海が制作指導したという、立体曼荼羅を構成する講堂内21体の尊像、日本に現存する最古の彩色曼荼羅「両界曼荼羅図(伝真言院曼荼羅)」など、知る人ぞ知る明宝がずらり。
本展では、その「兜跋毘沙門天」「伝真言院曼荼羅」はもちろん、”弘法筆を択ばず” の諺でも知られた、弘法大師自筆の「風信帖」をはじめ、国宝29点、重要文化財88点、重要美術品1点を含む、選りすぐった170点余が公開されます。
インドを発祥の地とし、中国、チベットへも伝播した密教は、広大な宇宙観を特徴とし、今なお、人々を惹きつけてやみません。日本における密教の二大源流の一つ、真言密教を具現する造形表現と、それらが構成する空間を、ぜひ現代に生きる美として御観賞ください。
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参考文献
京都国立博物館他編『創建1200年記念 東寺国宝展図録』朝日新聞社1995
『特別展「国宝 醍醐寺展 山からおりた本尊」図録』東京国立博物館2001
『弘法大師入唐1200年記念「空海と高野山」図録』東京国立博物館2005
松永有慶『密教 インドから日本への伝承』中公文庫1989
ーーーーーーーーーーーーー 「空海と密教美術展」2011年7月20日~9月25日東京国立博物館 ★「弘法大師像」金剛峰寺
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コメント
奥深いもの、貴重なものをみせていただき、どうもありがとうございます。
投稿: りんご | 2011年5月17日 (火) 03時19分