ギリシア美術・・・美と復讐
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
夏の午後、せみ時雨の中、「古代ギリシャ展」国立西洋美術館に行く。紺碧のエーゲ海、輝くギリシア彫刻の美、夏のギリシアの海の色を思い出す。
失われたプラクシテレス「クニドスのアプロディーテ」(BC360)、至高の美神の幻影がローマ時代の複製彫刻から蘇る。
ギリシア文化の極致に、美と復讐の美学がある。ギリシアの哲学者は精神の美を探究した。ギリシア悲劇は正義の実現と復讐の成就のドラマを構築した。アイスキュロス「オレステイア3部作」、エウリピデス『オレステス』、ソポクレス『エレクトラ』には、「復讐の達成による正義の実現」が、人類の歴史に永遠に刻まれている。ギリシア文明が腐敗し爛熟した時代、権力と大衆の無知、虚偽と悪が顕現した。
ギリシアの美術館、イタリアの美術館でみた、ギリシアの神々が美しく蘇る。アルテミシオンのポセイドン、ヴェルベデーレのアポロン、ラオコーンは輝くように美しい。
■神々の復讐
ギリシアの神々は、苦難と復活の物語に彩られている。
ディオニュソスは、ゼウスとセメレの子である。幼子ディオニュソスは、嫉妬する女神ヘラの迫害を受けて彷徨い、葡萄の樹を発見し、女神レアによって狂気から癒され秘儀を伝授される。秘儀と葡萄を世界中を遍歴する。そして故国テーバイで母セメレの復讐を信女たちによって遂げる。(注1)
アポロンは、ゼウスとレトの子である。レトは、女神ヘラの嫉妬を受け迫害され地を追われる。レトはデロス島でアポロンを出産する。「竪琴と弓が私の持ちもの。ゼウスの誤りない意を人間たちに伝えよう」(注2)音楽の神、弓矢の神、予言の神である。アポロンはデルポイで大蛇(ピュトン)を射殺しその信託所にすまう。
エロスは、アプロディーテの子で愛の矢を放つ。(注3)アポロンはエロスが弓を張っているのを見てエロスに「私なら野獣にも敵にも狙い違えず傷を負わせることができる」という。(注4)エロスは「私の弓はあなたをも射ることができる」といい返す。(注4)エロスは、金の矢と鉛の矢を持っていた。金の矢は「恋の思いを駆り立てる」。鉛の矢は「恋を嫌わせ逃れようとさせる」。エロスはアポロンを金の矢で射た。そしてエロスは美女ダプネを鉛の矢で射た。ダプネはアポロンから逃げつづけ父に「私の美しさを失くして下さい」と願うと、月桂樹に変身してしまった。(注4)エロスの矢は最強である。
英雄ヘラクレスは、母アルクメネがゼウスの子を産んだため女神ヘラの迫害を受け、二匹の蛇を揺り篭に送られたが、絞め殺した。ヘラの復讐により狂気につかれ、呪縛を解く方法をデルポイの信託に伺うと、エウリュステウスに使え12の難業を命じられる。12年にわたって怯懦名王に仕え、何行を果たした後、デイアネイラを妻とするが、デイアネイラは誤解からネッソスの血を塗りこめた毒の衣を着せ、非業の死を遂げる。最後は天界に迎えられ地上の苦悩から救われる。世界の非条理と不屈の意志の象徴である。
■「擬人化した葡萄の木とディオニュソス(バッカス)像」大理石AD150-200 Dionysos, British museum.
ディオニュソスと葡萄の木の精が見つめ合う。酒の神バッカスが、両性具有的な女性的な優美な曲線をもち、ぶどうの木の精と調和を奏でる。限りなく美しい。
■ディオニュソス
有名な彫刻は下記の作品がある。
プラクシテレス作「ヘルメスと幼子ディオニュソス」(Hermes and the Infant Dionysus by Praxiteles, (Archaeological Museum of Olympia)
葡萄酒と豹が属性である。
「ディオニュソス」(2nd century Roman statue of Dionysus, after a Hellenistic model (ex-coll. Cardinal Richelieu, Louvre)
■参考文献
村田数之介「ギリシア美術」新潮社1974
ジャン・シァルボノー岡谷公二訳『ギリシア・アルカイク美術』(人類の美術)新潮社1972
ジャン・シァルボノー村田数之介訳『ギリシア・クラシック美術 前480-330』(人類の美術)新潮社1973
フランソワ・ヴィラール, ロラン・マルタン岡谷公二『ギリシア・ヘレニスティク美術―前330-前50』(人類の美術)新潮社1975
カール・ケレーニイ高橋英夫訳『ギリシアの神話 神々の時代』中央公論社1974
『ギリシア悲劇全集』岩波書店1990
『世界古典文学全集8巻 アイスキュロス・ソポクレス』筑摩書房 1964
*注、略。
■「大英博物館 古代ギリシャ展-THE BODY究極の身体、完全なる美」国立西洋美術館2011年7月5日(火)~9月25日(日)
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-098c.html
http://www.nmwa.go.jp/
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