「大日如来」・・・ギリシア美術から密教美術へ
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
せみ時雨の真夏の午後、森を歩いて友人と、国立西洋美術館と東京国立博物館に行く。
ギリシア美術から、平安初期の密教美術、十三世紀の運慶まで、同時に見ることができるのは類まれなる邂逅である。ギリシア彫刻に刻まれた不滅の光輝、密教彫刻に刻まれた不屈の精神が輝いている。悪の嵐が吹き荒ぶとき、疾風怒濤の時代を生きて耐えぬいた、不羈奔放の精神が存在する。悪と戦い、正義を追求する不屈の精神が時を超えて蘇る。
金剛界の大日如来が智拳印を結んで、闇のなかで瞑想している。
■ギリシア美術から「空海と密教美術」への旅
ギリシア彫刻をみてから、浄瑠璃寺「広目天」、運慶「大日如来坐像」をみる。古代ギリシアから『空海と密教美術』へ、時を超える旅である。激震と動乱の大地にあって、人類史の風雪を耐えた美との僥倖の邂逅である。九世紀の密教彫刻には、白鳳美術、天平美術の精華が凝縮されている。ヘレニズム時代のギリシア美術から、紀元前1世紀ガンダーラ彫刻、アジャンタ石窟(ヴィハーラ窟、グプタ様式)、北魏様式、南梁様式(6世紀)、白鳳美術、天平美術、仏教美術の歴史を、一瞬のうちに回想する。
■失われた美の幻影
この世に残されたローマ時代のコピーをみると、時の彼方から、失われたプラクシテレス「クニドスのアプロディーテ」(BC360)が浮かび上がる。運慶の大日如来をみると、東寺講堂の失われた「大日如来」(承和6(839)年)の面影が蘇る。
東寺の失われた「大日如来」(承和6(839)年)は、空海入滅の年完成された「五智如来」の一つである。運慶「大日如来」をみると、幻の大日如来の彫刻が蘇る。運慶は、建久8年(1197)東寺講堂の仏像の大規模な修復を行った。東寺の大日如来坐像は、七頭の獅子の台座の上に乗っていたと推定される。≪注「中心毘瑠遮那如来。頭載五智宝冠、坐七獅子座上結跏趺坐、結界法印」(善無畏訳『尊勝仏頂修瑜伽法儀軌』巻上)≫
■「大日如来坐像 厨子入」(鎌倉時代初期、栃木、光得寺所蔵)、「大日如来坐像」(鎌倉時代初期、真如苑所蔵)は、運慶「大日如来坐像」(奈良、円城寺、1176年作)に似ている。「大日如来坐像 厨子入」は四頭の獅子の上に乗っている。台座の七頭の獅子に乗っていたと推定される。密教仏は、動物の上に乗った如来、菩薩が多い。
■「大英博物館 古代ギリシャ展-究極の身体、完全なる美」国立西洋美術館、2011年7月5日(火)~9月25日(日)http://t.co/2V6tVM4
「空海と密教美術展」東京国立博物館、2011年7月20日(水)-9月25日(日) http://t.co/afSbLQQ
「運慶とその周辺の仏像」東京国立博物館本館2階14室、2011年7月12日(火)-2011年10月2日(日)
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