マウリッツハイス美術館展、フェルメール『真珠の耳飾りの少女』・・・ヤン・ステーン「牡蠣を食べる娘」
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
ふり向く少女、真珠の耳飾り、青いターバン、みつめる目のまなざし、濡れた唇、振りむく一瞬、唇からことばを言いかけているようである。すべては謎である。意味不明である。ラピスラズリを原料とするウルトラマリンが美しい。
『真珠の耳飾りの少女』(Het meisje met de parel, Girl with a Pearl Earring)『青いターバンの少女』は、1665年~1666年、フェルメール33歳から34歳の頃の作品。
フェルメール(1632年-1675年)は、妻と11人の子供を残して、42または43歳で没した。カレル・ファブリティウスの弟子という説がある。ピーテル・デ・ホーホとともにデルフト派と呼ばれる。
フェルメールの絵画は、緻密な室内空間の描写、物質の質感、窓から差し込む光が、特質である。意味を失った寓意画、室内画が、冷たい写実によって生み出されている。『真珠の耳飾りの少女』は、グイド・レーニ『ベアトリーチェ・チェンチの肖像』(1599年)に似ているといわれる。
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物欲に溺れる女、食欲に溺れる女、性欲に溺れる女。フェルメールのテーマは、欲望に溺れる女である。ヤン・ステーン「牡蠣を食べる娘」の若い娘の世界である。
■展示作品の一部
ヤーコプ・ファン・ライスダール「漂白場のあるハールレムの風景」
メインデルト・ホッペマ「農家のある森」
ヤン・ボト「イタリア風の風景」
ペーテル・パウル・ルーベンス「聖母被昇天」(下絵)
フランス・ハルス「笑う少年」1625年頃
レンブラント・ファン・レイン「自画像」1669年頃
レンブラント「スザンヌ」
レンブラント「シメオンの賛歌」
ヤン・ブリューゲル(父)「四季の精から贈り物を受け取るキュベレと、それを取り巻く果実の花輪」
アーレント・デ・ヘルデルの「シメオンの賛歌」
ヘラルト・テル・ボルフ「手紙を書く女」1655年頃
ピーテル・クラースゾーン「ヴァニタスの静物」
ファブリティウスの「ごしきひわ」
ヤン・ステーン「親に倣って子も歌う」1668-1670年頃
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ヤン・ステーン「牡蠣を食べる娘」Jan Steen: Oestereetstertje 1656-1660年頃 マウリッツハイス美術館
牡蠣は媚薬
牡蠣を食べる若い娘。艶めかしく蠱惑的で挑発的な視線をみる者に向ける。若い娘が手に取りへ運ぼうとする<牡蠣>は、17世紀、精力剤(媚薬)として好まれた食材。娘の魅惑的な表情や娘の背後の寝台は艶かしい。観る者にエロティックな連想を抱かせる。ヤン・ステーンは、女性画、女性の愛の絵画を、得意としている。
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17世紀のオランダやフランドルは、西洋美術史に大きな影響を及ぼした巨匠たちを、数多く輩出しました。本展では、17世紀オランダ・フランドル絵画の世界的コレクションで知られるオランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館から、名品48点を選りすぐって紹介します。最晩年の「自画像」をはじめ一挙に6点が並ぶレンブラントは壮観です。そのほか、フランス・ハルス、ルーベンス、ヤン・ブリューゲル(父)ら、巨匠たちの息もつかせぬ傑作の数々を堪能する格好の機会です。
17世紀オランダ・フランドル絵画
17世紀初頭、オランダは新教国としてスペインから独立し、世界的な海洋貿易を背景に未曽有の繁栄を謳歌します。新興の市民階級は絵画の新たな買い手となり、鑑賞に教養を要する宗教画や歴史画よりも、親しみやすい風俗画、風景画、静物画などを好みました。この時代は、レンブラントやフェルメールら多数の巨匠が輩出し、オランダ絵画の黄金時代と呼ばれています。
一方、現在のベルギーを中心とするフランドル地方でも、バロックの巨匠ルーベンスやヴァン・ダイクが活躍しました。オランダとは異なり、カトリック勢力の最前線であったことから、祭壇画など大規模な宗教画も多数残されました。
オランダの政治的中枢を担う第3の都市ハーグの中心地に位置し、所蔵作品は約800点と小規模ながら、選りすぐりの名品を所蔵し、「王立絵画館」の呼称で親しまれています。なかでも、世界にわずか三十数点しか現存しないフェルメール作品を3点所有するなど、17世紀オランダ・フランドル絵画の質の高さは比類のないものです。
「マウリッツ」の名は、代々オランダ総督を務め、のちに王室となるオラニエ家の傍系、ナッサウ伯ヨーハン・マウリッツ(1604-79)に由来します。ヨーハン・マウリッツは、当時植民地だったオランダ領ブラジル総督を務めた人物で、その邸宅が1822年から美術館として使われています。火災に遭いながらも、外観は17世紀に建設された当時の面影を残しています。優美な古典主義様式と個人邸宅の親しみやすさとが相まって、コレクションと見事な調和を果たしているのが特徴です。
マウリッツハイス美術館では、本展を開催する2012年から大規模な増改築工事がスタートします。リニューアルオープンは、2014年ごろを予定しています。
http://www.asahi.com/mauritshuis2012/
http://www.tobikan.jp/museum/2012/mauritshuis2012.html
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■マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝 東京都美術館
Masterpieces from the Royal Picture Gallery Mauritshuis
2012(平成24)年6月30日(土)~9月17日(月)
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