法華寺「十一面観音」の美・・・純粋な魂に舞い降りる
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
観世音菩薩は、純粋な美しい魂を護り救う。傷つき血と涙を流しながら、この世を生きている人。孤独な戦いの日々。いつ夜明けはくるのか。美と理想を追求する、純粋な魂に、観世音菩薩が舞い降りる。この世は血に塗れた、殺し合いの競争の修羅場。人間は日々殺し合いに明け暮れる。観世音菩薩は、苦しむ人々の声なき声を観じて救うために舞い降りる。観世音菩薩、守護精霊は、傷ついた純粋な魂に舞い降りる。聖なる精神は、聖なる目的を達成するために、敵を滅ぼさねばならない。
法華寺「十一面観音」は、第52代嵯峨天皇橘嘉智子皇后の容姿を表している。橘嘉智子は美貌の皇后として名高い、手が異常に長いという伝説がある。嘉祥三年(850年)5月4日、65歳でこの世を去る。観世音菩薩となった檀林皇后は何を守るのか。
■十一面観音
十一面観音は、その深い慈悲により衆生から一切の苦しみを抜き去る功徳を施す菩薩である。観音菩薩の変化身の一つである。
十一面観音(ekadaśamukha)の容姿は、通例、頭頂に仏面、頭上の正面に菩薩面(3面)、左側に瞋怒面(3面)、右側に狗牙上出面(3面)、背面に大笑面(1面)をもつ。右手を垂下し、左手には蓮華を生けた花瓶を持っている。(玄奘訳『十一面神咒心経』に基づく)。
『十一面観自在菩薩心密言念誦儀軌経』によれば、
10種類の現世での利益(十種勝利)と4種類の来世での果報(四種功徳)をもたらすと言われる。病気にかからない、一切の怨敵から害を受けない、毒薬や虫の毒に当たらず、悪寒や発熱等の病にならない、一切の凶器によって害を受けない、不慮の事故で死なない。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
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観世音菩薩(観自在菩薩Avalokiteśvara)は、生けるものの苦しみを観ている。観世音菩薩はあまねく衆生を救うために相手に応じて、仏身、梵王身、比丘尼身、天身、声聞身、など、三十三の姿に変身する(『法華経』「観世音菩薩普門品、第二十五」観音経)。
観世音菩薩の海潮音が聞こえる。「妙音、観世音、梵音、海潮音は、かの世間の音に勝る。この故にすべからく常に念ずべし。」「妙音観世音 梵音海潮音 勝彼世間音 是故須常念」(『法華経』「観世音菩薩普門品」第二十五)
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十一面観音の美
十一面観音はその深い慈悲により衆生から一切の苦しみを抜き去る功徳を施す菩薩であるとされ、女神のような容姿にデザインされる。
2つの仏像が、美しい。十一面観音 法華寺(平安時代、国宝)。十一面観音 向源寺(渡岸寺)(平安時代、国宝)
近江、十一面観音。
近江には、十一面観音が多いことが知られている。高野山の寺院に泊まった時、滋賀の十一面観音をめぐる旅をしている人に出会った。白洲正子『十一面観音巡礼』は、聖林寺の十一面をはじめに、羽賀寺、薬師寺、智識寺、月輪寺と辿って、最後に渡岸寺に到る。
■「十一面観音立像」法華寺(平安時代) 比類なき美しさ。
艶麗な容姿は、光明皇后を表すといわれ、光背は、蓮の未開の花と葉、他に例をみない形式である。
「天竺の仏師・問答師が光明皇后の姿を模してつくった」という伝承をもつが、実際の制作は平安時代初期、九世紀前半、弘仁貞観時代。空海と嵯峨天皇の文化である。伝承は『興福寺濫觴記』にみられる。法華寺は、聖武天皇の創建、総国分尼寺である。
仏の三十二相八十種好の一つである「正立手摩膝相」を表し、顔貌表現、胸部と大腿部の量感を強調したプロポーション、太いひだと細く鋭いひだを交互に刻む翻波式衣文は平安初期彫刻特有の様式。和辻哲郎『古寺巡礼』、亀井勝一郎『美貌の皇后』はこの像を豊満な女体に例えて絶賛している。
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秘仏 法華寺 国宝十一面観音立像特別開扉
法華寺の本尊、木造十一面観音立像(国宝)の特別開扉が行われます。光明皇后がモデルとされ、はっきりした目鼻立ち、長い右手や動きのあるポーズ、特徴的な光背など、仏教彫刻としても優れた評価を得ています。慈光殿では国宝の阿弥陀三尊像と童子像が同時公開されるほか、国史跡名勝庭園も特別公開中です。
2012年10月25日~11月12日 9:00~17:00
奈良市 法華寺 0742-33-2261
http://event.jr-odekake.net/event/122765.html
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〒 : 630-8001奈良市法華寺町882 TEL : 0742-33-2261
URL : http://www.hokkeji-nara.jp/
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「十一面観音立像」法華寺(平安時代 9世紀、弘仁貞観時代)
法華寺「十一面観音」の美・・・純粋な魂に舞い降りる
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