エル・グレコ展・・・天上界と地上界の融合、 「昨夜私は永遠を見た」
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
梅の花咲く、上野の森に行く。エル・グレコ『無原罪のお宿り』1613サンタ・クルス美術館所蔵、圧倒的な迫力で、聖母の誕生の教義と地上のトレドの風景が融合している、神秘的なトレドの風景を思い出す。あの時、マドリッドで『トレド眺望』1599メトロポリタン美術館をみた。
トレドで『オルガス伯の埋葬』、マドリッドでエル・グレコ展(El Greco,Thyssen-Bornemisza Museum.1999)をみてから歳月が流れた。スイス航空でチューリッヒに行き、ポルトガルのリスボンへ飛行した。早春のイベリア半島への飛行。マドリッドで、エル・グレコ展を見たのは、1999年、春である。早春のスペインは、アーモンドの白い花が咲き、春の匂いがパエリアの魚介類に立ち込めていた。バルセロナ郊外の巍巍たる山に聳えるモンセラート修道院、モンセラート美術館で、エル・グレコ作品をみた。再びエル・グレコをめぐる旅に、旅立つのはいつだろうか。
私は、エル・グレコをめぐって、トレド、マドリッド、ヴェネツィア、ローマ、クレタ島を旅した。地中海、エーゲ海の旅である。ロドス島からクレタ島に飛行し、カンディア(イラクリオン)の港がみえるホテルに泊まった。
トレドの夕暮れは、エル・グレコの、闇を切り裂くような光と残照の闇に包まれて神秘的な美しさである。トレドの丘の上のホテル「アルフォンソ6世」から、荒涼たる平原を見下ろすと、迷路のような都市が孤立した城のように立っている。
一人で、マドリッドの夕闇を歩いていると『エル・グレコ展 変容と同一』、ティッセンボルネミサ美術館(Thyssen-Bornemisza Museum)に遭遇し、スペイン美人の館員に導かれて世界中から集められたエル・グレコの傑作に出会った。偶然の僥倖である。ティッセンボルネミサ美術館の館員は、香水の匂いを漂わせて、微笑みながら、語りかけてきた。
写実と幻想、地上と天上が融合した壮大な祭壇画に、眩暈を感じる。エル・グレコの絵画には、霊的体験と地上の憂愁がある。エル・グレコの炎のように揺らめく人物、神秘的な光が、心を魅了する。壮大な祭壇画に、トレドの街が描き込まれている。
エル・グレコ(El Greco、1541- 1614)は、16世紀の画家で、ルネサンス末期のヴェネツィア派の画家の影響を受け、マニエリスムの先駆である。
エル・グレコをみると、形而上詩人を思い出す。
17世紀のイギリスの形而上詩人(metaphysical
poets)、ジョン・ダン、アンドリュー・マーヴェル、ヘンリー・ヴォーン(Henry
Vaughan 1621-1695)の形而上的世界、光と神秘に通じる世界がある。17世紀、ヤコブ・ベーメ『アウローラ』、エマヌエル・スウェーデンボルグ『天界と地獄』(鈴木大拙訳)のような神秘主義的空間を思い出す。
「昨夜私は永遠を見た。純粋で無限の光の大きな輪のような」(ヘンリー・ヴォーン「世界」). “I saw Eternity the other night/Like a great ring of pure and endless light.” – Henry Vaughan, “The World”
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★参考文献
大久保正雄『エル・グレコと形而上詩』
神吉敬三『巨匠たちのスペイン』毎日新聞社1997年
松原典子、大高保二郎『もっと知りたいエル・グレコ―生涯と作品』東京書籍2012年
『エル・グレコ展』図録 マドリッド 1999年
『エル・グレコ展』図録、東京都美術館、2013年
https://bit.ly/2wQnvD3
■主な展示作品
「白貂の毛皮をまとう貴婦人」=『グレコの愛人ヘロニマ・デ・ラス・クエバス』(1577-90年 グラスゴー美術館)
「聖アンナのいる聖家族」(1590-95年 タベラ施療院 トレド)
「無原罪のお宿り」(1607-1613年 サン・ニコラス教区聖堂 サンタ・クルス美術館所蔵 トレド)
「フェリペ2世の栄光」(1579-1582年、エル・エスコリアル修道院、スペイン)
「悔悛するマグダラのマリア」(1576年頃、ブダペスト国立西洋美術館Museum of Fine Arts, Budapest)
「聖マルティヌスと乞食」(1599年頃、奇美博物館、台南、台湾)
「修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像」(1611年、ボストン美術館)
「受胎告知」(1576年頃)ティッセン=ボルネミッサ美術館、マドリードMuseo Thyssen-Bornemisza, Madrid
「福音書記者聖ヨハネ」(1607年 エル・グレコ美術館 トレド)龍の入った聖杯をもつ
「聖パウロ」(1607年 エル・グレコ美術館 トレド)大剣をもつ聖パウロ
「聖ペテロ」(1607年 エル・グレコ美術館 トレド)鍵をもつ聖ペテロ
「聖衣剥奪」(1605年 サント・トメ教区聖堂 オルガス)
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■エル・グレコ展El Greco’s Visual
Poetics
スペイン美術黄金期に活躍し、スペイン三大画家の一人にも数えられる巨匠エル・グレコの回顧展を開催します。
16世紀~17世紀のスペインでは、多くの芸術家が活躍し、ベラスケスやゴヤなどの巨匠が次々現れました。ギリシャ出身の画家ドメニコス・テオトコプーロス、通称“エル・グレコ”(1541-1614)はヴェネツィア、ローマでの修行を経てスペイン・トレドにたどり着き、多くの作品を制作しました。モデルの人となりを掘り下げるような独自の肖像画や、揺らめく炎のように引き延ばされた人物像が特徴的な宗教画は、当時の宗教関係者や知識人からは圧倒的な支持を得ました。後世になってもグレコの作品は、ピカソら20世紀の巨匠たちから高く評価されています。
展覧会は初期の名作「受胎告知」(1576年頃)や、聖女を美しくも崇高に描いた宗教画「悔悛するマグダラのマリア」(1576年頃)、肖像画の代表作「修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像(1611年頃)のほか、世界初公開の「聖マルティヌスと乞食」(1599年頃)や、高さ3メートルを超える祭壇画の大作「無原罪のお宿り」(1607-1613年)など、宗教画家だけでなく、肖像画家や教会建築の演出家としてのグレコの顔を紹介。油彩画50点以上で多彩な画業の全貌を網羅します。世界中から名品ばかりが集結する本展は、日本でグレコの全てを知ることが出来る奇跡的な機会と言っても過言ではありません。
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★エル・グレコ展El Greco’s Visual Poetics、東京都美術館
2013年1月19日(土)~ 4月7日(日)
国立国際美術館、2012年10月16日(火)~ 12月24日(月・休)
★「無原罪の御宿り」(1607-1613年サン・ニコラス教区聖堂サンタ・クルス美術館トレド)
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