地中海 四千年のものがたり・・・藝術家たちの地中海への旅
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
人が本当に見ることができるのは心によってだけである。本質は、目で見えない。美しい夕暮れ。美しい魂に、幸運の女神が舞い降りる。美しい守護霊が救う。美しい魂は、輝く天の仕事をなす。*大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』より
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地中海は、藝術家、思想家たちを魅了してきた。
燦めきの海、エーゲ海の旅は、美しい思想を思い出す。美しい思いは美しい人を引き寄せる。最高の藝術作品は美しい人生である。エフェソスの幻のアルテミス神殿に佇むと、ヘラクレイトスの思想を思い出す。
紀元前6世紀、ピュタゴラスは、サモス島からイタリアのクロトンへ旅した。紀元前4世紀、プラトンは、イタリアへ旅した。
ローマ皇帝は、ギリシアに魅せられ、地中海を旅した。15世紀、ルネサンス人は、ギリシアとローマ帝国の藝術に憧れた。愛の女神ヴィーナスの国。
17世紀、画家クロード・ロラン(1600-1682)はイタリアで生涯を終えた。18世紀、ギャヴィン・ハミルトン(1723-98)は、イタリアと古代彫刻に魅せられイタリアで生涯を終えた。フランス革命の画家たち、ダヴィッド、アングル、フランソワ・ジェラールは、イタリアに魅せられ旅した。
ゲーテは、1786年イタリアに旅立ち、『イタリア紀行』(Italienische Reise,1816-1817)を書いた。スタンダールは、イタリアに憧れ、1799年、陸軍少尉としてイタリア遠征し、『イタリア紀行 ローマ、ナポリ、フィレンツェ』("Rome, Naples et Florence",1817)を書いた。スタンダールは、軍人となっても馬に乗る事も剣を振るう事も出来ず女遊びと観劇に現をぬかした。『恋愛論』("De l'amour", 1822)を書き、第一の結晶作用、情熱恋愛、恋愛至上主義、「己の全存在を賭けての愛」を主張した。
ドイツ古典主義の詩人アウグスト・フォン・プラーテン(August Graf von
Platen-Hallermunde,1796-1835)は、バイエルン出身だがイタリアを永住の地と定め、シチリアのシラクサで死んだ。詩集『ベネチアのソネット』(1825)『トリスタンとイゾルデ』(1825)を残した。
ロマン主義の詩人バイロン(1788-1824)は、イタリア、ギリシアに憧れ、『チャイルド・ハロルドの遍歴』(Childe Harold's Pilgrimage, 1812)を書き、1823年ギリシア独立戦争へ身を投じる。詩人シェリー(1792-1822)は、ギリシアに憬れ、『縛を解かれたプロメテウス』(Prometheus Unbound)を書き、地中海で死んだ。
リルケ(1875-1926)は、アドリア海に臨む孤城ドゥイノの館に滞在し、イタリア、エジプト、スペインを旅し『ドゥイノの悲歌』(1923)『オルフォイスへのソネット』(1923)を書いた。
ニーチェ(1844-1900)は、1879年から1889年まで様々な都市を旅し、哲学者として生活した。夏はスイス、サンモリッツ近郊ジルス・マリア、冬はイタリアのジェノヴァ、ラパッロ、トリノ、フランスのニースで過ごした。『ツァラトゥストラかく語りき』(Also sprach Zarathustra, 1883-91)、『善悪の彼岸』(Jenseits von Gut und Böse, 1886)、哲学書はこの10年間に書かれた。
地中海は、知恵と愛、幸福、美の国である。愛の女神ヴィーナスの国である。
哲学者たち、藝術家たちは何を求めて旅したのか。藝術家たちが地中海を旅したのは何故か。
(大久保正雄『地中海紀行』)
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■「トロイアの王子パリスに、スパルタのヘレネを引き合わせる愛の女神ヴィーナス」
パリスの審判、トロイア戦争の原因の有名な場面である。
ギャヴィン・ハミルトン(1723-98)Gavin Hamilton (1723, Lanarkshire – 4 January 1798, Rome)。新古典主義の画家。1740年代グラスゴー大学とローマで学ぶ、1756年ローマにもどり、イタリアで生涯を終えた。イタリアに魅せられ、40年イタリアに暮らし、古代彫刻「アルテミス」「パリス」などローマ彫刻を発掘した。
ギャヴィン・ハミルトンは、1785年、レオナルド「岩窟の聖母」the National Gallery, London, of Leonardo da Vinci's Virgin of the Rocksを購入し、ロンドンへ送った。
「トロイアの王子パリスに、スパルタのヘレネを引き合わせる愛の女神ヴィーナス」の絵を2度、描いている。
(参考文献 大久保正雄『地中海紀行』)
"Venus giving Paris Helen as his wife" ,by Hamilton (1782-1784), held by the Palazzo Braschi, Rome
"Vénus présentant Hélène à Pâris", 1777-80, Musée du Louvre
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ルーヴル美術館展 ―地中海 四千年のものがたり―
La Méditerranée dans les collections du Louvre
東京都美術館 企画展示室/2013年7月20日(土)~9月23日(月・祝)
http://louvre2013.jp/
http://t.co/UzLTzJnLAH
展示構成
「序 地中海世界—自然と文化の枠組み」
「Ⅰ 地中海の始まり―前2000年紀から前1000年紀までの交流」
「Ⅱ 統合された地中海―ギリシア、カルタゴ、ローマ」
「Ⅲ 中世の地中海―十字軍からレコンキスタへ(1090-1492年)」
「Ⅳ 地中海の近代―ルネサンスから啓蒙主義の時代へ(1490-1750年)」
「Ⅴ 地中海紀行(1750-1850年)」
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★ギャヴィン・ハミルトン「トロイアの王子パリスに、スパルタのヘレネを引き合わせる愛の女神ヴィーナス」1777-80年頃 Vénus présentant Hélène à Pâris, 1777-80, Musée du Louvre
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