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2013年8月 8日 (木)

和様の書・・・典麗、優美、華麗、繊細な世界

20150713大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
三跡の一人、藤原佐理の『離洛状』をみると、流麗で奔放な文字の流れが美しい。奔放不羈の精神を感じる。李白の詩を想起する美しさである。李白失脚の原因になった『清平調詞』二を思い出す。「一枝の濃艶露香を凝らす。雲雨巫山枉げて斷腸。借問す漢宮誰か似るを得ん。可憐の飛燕新粧に倚る。」京洛を離れた藤原佐理は、六点の作品が残っている。五点が詫び状である。(大久保正雄『魂の美学』)
書の美しさは、文字の美しさだけではなく、心の美しさ、磨き上げられた精神の美しさを現わす。鍛え上げられた技のみならず、洗練された精神にこそ美はある。精神の美しさは、知恵、勇気、節制、正義、不屈の魂にある。李白、プラトン、空海の精神を思い出す。美しい魂と美しい肉体をもって生きた詩人たち、思想家たち。(大久保正雄『魂の美学』)
琳派の書、『鹿下絵和歌巻』本阿弥光悦筆、絵俵屋宗達は、新古今和歌集の世界を、書と絵で現わす美しい至宝である。
国宝『本願寺本三十六人家集』『古今和歌集』(元永本)藤原定実筆は、料紙と散らし書きの書が絶妙の美的世界を現出する。
「古今和歌集(高野切)」は、典麗、優美、華麗、繊細な世界。仮名の最も美しく完成された姿である。
「鹿下絵和歌巻」本阿弥光悦筆、絵、俵屋宗達(17世紀、五島美術館)は、様々な鹿の姿態を金銀泥のみを使用して描いた下絵に、本阿弥光悦(1558―1637)が『新古今和歌集』より二十八首を選び、散らし書きした巻物の断簡。図は雄鹿とそれを振り返る雌鹿を描き、「思ふことさしてそれとはなきものを秋の夕べを心にぞとふ」後鳥羽院宮内卿『新古今和歌集』巻第四「秋歌上」第365番の和歌を散らし書きした部分である。
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主な展示作品
国宝「竹生島経」平安時代・10世紀後半~11世紀初 東京国立博物館蔵
国宝「扇面法華経冊子」(巻第一、観普賢経)平安時代・12世紀。大阪・四天王寺蔵
国宝「古今和歌集 巻第二十(高野切)」伝紀貫之筆、平安時代・11世紀。
国宝『古今和歌集』(元永本)藤原定実筆。平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵。[展示期間:2013年7月13日(土)~9月8日(日)]
『古今和歌集』の現存最古の完本です。元永3年の奥書から「元永本」と呼ばれ、14種類もの文様を摺り出した日本製の唐紙(からかみ)を色とりどりに配置した調度手本(ちょうどてほん)。藤原行成の曾孫・定実(?~1077~1119~?)が、散らし書きも駆使しながら、全2帖を見事に書き上げた。
国宝「本願寺本三十六人家集」(貫之集上、順集) 貫之集上:藤原定実筆、順集:藤原定信筆。平安時代・12世紀 京都・西本願寺蔵
[展示期間:貫之集上 2013年7月13日(土)~8月12日(月)、 順集 2013年8月13日(火)~9月8日(日)]
歌仙36人の家集を粘葉装(でっちょうそう)の冊子本全37帖(現存)に書写。中国製・日本製の唐紙(からかみ)、染紙 (そめがみ)などを使って破り継ぎ、切り継ぎなどしながら、金銀箔や下絵を施した美麗な装飾料紙。当代一流の能書20人が分担執筆しており、調度手本の最高傑作。
「四季草花下絵和歌巻 」本阿弥光悦筆。江戸時代・17世紀 個人蔵。[展示期間:2013年7月13日(土)~8月4日(日)]
国宝「白氏詩巻」藤原行成筆、平安時代・寛仁2年(1018) 東京国立博物館蔵
国宝「平治物語絵詞 六波羅行幸巻、詞書:伝藤原教家筆。鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵 平治元年(1159)に起きた平治の乱を題材とする『平治物語』を絵巻化。美しい色彩と、群像表現が巧み、動乱の緊迫した状況を見事に描く。詞書きは一筆で、その書風には、藤原忠通の曾孫・教家の弘誓院流の影響がある。
「鹿下絵和歌巻」本阿弥光悦筆、絵、俵屋宗達(17世紀、五島美術館)。
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わが国の書の歴史は、漢字の伝来以来、中国の書法の影響を受けて発展しつつ、遣唐使廃止の頃になると国風文化が広まり、筆致に柔らかみが加わります。平安時代中期には、小野道風・藤原佐理・藤原行成の三跡(さんせき)と呼ばれる能書が登場し、繊細、典雅な「和様(わよう)の書」が完成します。併行して、万葉仮名、草仮名(そうがな)を経て女手(おんなで、平仮名)が成立し、「高野切(こうやぎれ)」に代表される日本独自の仮名の美が生まれました。 以後、日本の書は、仮名と漢字が融合した和様の書を中心に展開します。なかでも藤原行成の子孫は、宮廷の書役(かきやく)を長く勤め、その書はのちに世尊寺流と称され、書道史上に重要な位置を占めました。室町時代は多くの書流が型を踏襲した没個性の書となりますが、江戸時代に入り、本阿弥光悦、近衞信尹など上代様を展開させたダイナミックな書が生まれ、以降は「御家流」とよばれる実用の書が一般に普及します。
この展覧会は、こうした和様の書の魅力とともに、宮廷文学や料紙(りょうし)工芸など、書に関わる多様な日本文化に触れていただく機会となります。
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特別展「和様の書」
東京国立博物館 平成館 特別展示室   2013年7月13日(土) ~ 2013年9月8日(日)
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1602
http://wayo2013.jp/
「鹿下絵和歌巻」本阿弥光悦筆、俵屋宗達絵。

Kouetsu_2013_2

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