速水御舟 ―日本美術院の精鋭たち・・・燃え上がる生命の炎舞
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
速水御舟の花は、死の匂いがする。「花の香りは死の香りである。」(大久保正雄『花盛りの京都、幻の都へ』)
御舟の花は、『炎舞』の焔に集まる蛾の群れのように、生命の頂点で命の焔を燃やし、死の匂いを漂わせる。夏の闇に舞う生命の炎舞は、藝術家の美の頂点であり、生の頂点であった。(大久保正雄『魂の美学』藝術家の愛と死)
Wer die Schönheit angeschaut mit Augen,
Ist dem Tode schon anheimgegeben,
Wen
der Pfeil des Schönen je getroffen,
Ewig währt für ihn
der Schmerz der Liebe!
「美はしきもの見し人は、はや死の手にぞわたされつ。
美の矢にあたりしその人に、愛の痛みは果てもなし。」
(アウグスト・フォン・プラーテン『トリスタン』1825生田春月訳)
速水御舟は、『菊』のような徹底した写実、細密描写から『炎舞』(1925)『名樹散椿』(1929)のような琳派的な象徴的装飾的表現へと展開した。41歳で逝った御舟の頂点は、31歳から35歳であった。
「実在するものは美でも醜でもない。唯真実のみだ。若し我々が確実にその真を掴んだとすれば、そこには美だとか醜だとかと言ふ比較的なものを超えた、より以上の存在を感じなければならない筈だ。或いは夫れをこそ真の美と言ふべきであるかもしれない。」速水御舟☆
☆速水御舟『菊(菊花図)』4曲1双(1921)大正10、紙本金地著色 個人蔵。
速水御舟『絵画の真生命―速水御舟画論』
■主な展示作品
速水御舟『炎舞』(1925)
『牡丹花(墨牡丹)』1934
『白芙蓉』1934年
『昆虫二題』1926年 琳派的、装飾的、幻想的な象徴絵画。『葉陰魔手』では蜘蛛の巣が拡がり蜘蛛に捕えられる。『粧蛾舞戯』では蛾の群れが炎の渦の中に吸いこまれる。
『翠苔緑芝』1928
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山種美術館は、近代・現代の日本画を中心に、とりわけ日本美術院(院展)の画家たちの作品を数多く所蔵しています。2014年に院展が再興100年を迎えることを記念し、当館に縁の深い院展画家、そして当館コレクションの中でも最も重要な院展画家の一人・速水御舟(1894-1935)に焦点をあてた展覧会を開催します。
院展は岡倉天心の精神を引き継いだ横山大観、下村観山らを中心に1914(大正3)年に再興されました。当時の日本画家たちは押し寄せる西洋画に相並ぶ、新時代の日本画を探求しており、再興院展は官展とともに中心的な役割を果たしていました。そのなかでも御舟は第一回目から再興院展に出品し、常に新たな日本画に挑み続けた画家でした。
御舟の約40年という短い人生における画業は、伝統的な古典学習、新南画への傾倒、写実に基づく細密描写、そして象徴的な装飾様式へと変遷しました。一つの画風を築いては壊す連続は、型に捉われない作品を描き続けた、画家の意欲の表れといえるでしょう。
本展では、御舟の芸術の変遷を、再興院展という同じ舞台で活躍した画家たちとの関わりを中心にご紹介いたします。御舟芸術の軌跡は、同門の今村紫紅、小茂田青樹、さらには御舟をいち早く評価した大観、そして安田靫彦、前田青邨など、つながりの深い院展画家たちとの交流や、同時代の院展の動向と密接に関わっていました。当館の誇る御舟コレクションから、古典学習と構成美の集大成《翠苔緑芝》(院展出品作)や、写実により幻想的な世界を表現した《炎舞》【重要文化財】をはじめとする代表作の数々を、同時代の画家たちの作品とともにご覧いただきます。大正期から日本画壇の中心であり続ける再興院展の芸術の神髄に迫ります。
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再興院展100年記念 速水御舟
―日本美術院の精鋭たち― 山種美術館
2013年8月10日(土)~10月14日(月・祝)
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★速水御舟『炎舞』(1925)
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