「ザ・ビューティフル ― 英国の唯美主義 1860‐1900」・・・大英帝国の黄昏
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
1月29日、朝、美術館に行く。唯美主義、耽美派の美術展。英国は、詩の王国である。帝国の黄昏に咲く最後の美の花、退廃の美である。
19世紀、大英帝国ヴィクトリア朝時代(1837年から1901年)、ロマン主義、ラファエル前派、唯美主義、アート・アンド・クラフト。黄昏にひらく愛と美の花。イギリス美術の黄金時代である。
唯美主義(Aestheticism)は、視覚的美、感覚的美の追求の藝術である。一八六〇年代から、ロセッティ、モリス、ホイッスラーらによって始められ、フレデリック・レイトン、アルバート・ムーアたちのイギリス古典主義「オリンピアの画家たち」によって展開された。唯美主義の美の象徴は、「孔雀の羽」によって表現される(フレデリック・レイトン『パヴォニア』1858-59年)。産業革命後、世界の工場と化し大英帝国の繁栄のなかで蔓延した物質主義に抵抗して藝術至上主義「藝術のための藝術(Art for Art’s sake)」を主張した。ウィリアム・モリスの「生活と藝術を一致させる」アーツ・アンド・クラフト運動へと展開し、華麗な装飾藝術を生みだした。19世紀末オスカー・ワイルド、ビアズリーの世紀末藝術のデカダンスへと解体して行く。
「現代は労働過剰で教育不足の時代だ。人々は勤勉になるあまり、完全に知性を失っている。」「自分を愛することは、一生のロマンスのはじまり。」オスカー・ワイルド
■展示作品
ダンテ・ガブリル・ロセッティ「愛の杯」1867国立西洋美術館
フレデリック・レイトン『パヴォニア』(1858-59年 個人蔵)
フレデリック・レイトン「さくらんぼ」(1864-65年ブラックバーン美術館)
アルバート・ムーア「真夏」(1887年ラッセル=コート美術館)
アルバート・ムーア「花」(1881年テート・ギャラリー)
アルバート・ムーア「夢みる人々」(1850-82年バーミンガム美術館)展示中止
ウィリアム・モリス「タイル・パネル」1876ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館
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19世紀半ばに興ったイギリスの唯美主義に焦点をあて、絵画から宝飾品に至るまでの幅広い作品を集めた展覧会です。
産業革命の成功で繁栄するヴィクトリア朝時代のイギリスで、功利主義に異を唱え、物事の美しさを主張する人々が前衛芸術家たちの中から生まれてきました。その作品には、物語や教訓ではなく、視覚・触覚的な悦びを重視し、絵画や工芸だけでなく日用品のデザインまでをも華やかにしていきます。古代ギリシャやジャポニズムの影響も受けており、ロセッティやホイッスラーは扇や染付の収集に力を入れました。パトロンたちは唯美主義者たちの作品を購入するほかに、住居や服装を美的に整えるなど、生活様式も取り入れました。やがて、大衆へと浸透し大きな運動へと発展します。
会場では、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の所蔵品をベースに油彩、水彩、素描、家具、工芸、宝飾品など約140点を展示。ラファエル前派を率いたダンテ・ゲイブリル・ロセッティからアルバート・ムーア、オーブリー・ビアズリー、オスカー・ワイルドに至るまで、多様で独創的な美と悦楽の世界を楽しめます。
http://mimt.jp/
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「ザ・ビューティフル ― 英国の唯美主義 1860‐1900」
2014年1月30日(木)~5月6日(火・祝)
三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)
http://mimt.jp/
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