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2016年8月13日 (土)

質疑応答、島薗進×大久保正雄『死生学 人の心の痛み』ソフィア文化芸術ネットワーク

20160529022016052901【質疑応答】島薗進×大久保正雄『死生学 人の心の痛み』ソフィア文化芸術ネットワーク。上智大学2016年5月29日。https://t.co/6w4A3WzvSe
島薗進先生に、死生学について、比較宗教学、哲学を踏まえて質疑応答しました。
1、他界からの訪問者、2、輪廻転生、3、人はどのようにして他の人の痛みを感じることができるようになるか、4、ギリシア人の死生観、5.幸せとは何か、6、仏教の根本前提、7、空海のことば『答叡山澄法師求理趣釈経書』、8、比叡山焼き討ち
下記に要旨を記録します。
――
ある時、突然、病気が発症し救急車で運ばれ、生死を彷徨い三か月入院しました。虎の門病院分院で、退院する最後の日、ナースが部屋にやってきて「あなたの退院は私が担当します。あなたは、人の苦しみがわかる人だから、苦しかったでしょう」と言われ、涙があふれた。病院で過ごした日々を思い出した。生老病死、運命、幽明界につて病院で深く考えた。星空は金剛界曼荼羅、イデア界のように、私にみえた。
島薗先生への質問と回答の要旨は下記の通りです。
―――――
1、【他界からの訪問者】
大久保正雄「他界からの訪問者」の物語、「他界憧憬」について。(宮澤賢治『風の又三郎』。
「純粋な魂が、天界からやってきて、この世で苦難を経験し、天界へ帰って行く」という世界観がある。様々な文学、哲学にある。と考えられる。このような考えを現代人は、共感できない。これが現代人の魂の衰退の一つ現れだと思います。
例えば、サン・テグ・ジュペリ『星の王子さま』、プラトン、ウィリアム・ブレイク、ダンテ、空海。純粋な魂が、天界からやってきて、この世で苦難を経験し、天界へ帰って行く。藝術家、思想家は「生死の彼方から見た生の視点」がある。倫理的意識がある。異界からやってきて、異界に帰って行く。魂の物語。天界の魂が、何かの原因で、地上に降りてきて、地上で経験し、地上の苦難を経て、天界に帰って行く。*プラトン生と死の対話編『饗宴』『パイドン』『パイドロス』。空海『秘蔵宝鑰』生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終りに冥し。
島薗進「MortalなものとImmortalなものがある。近代人はImmortalなものを感じることができない。これに対して、ファンタジーが有効な方法である。宮澤賢治はアンデルセンから影響を受けた。」

 

2、【輪廻転生】
大久保正雄「世界の宗教の中で、輪廻転生の思想をもつ人々がいる。他方もたない人々がいる。宗教学からみると、世界観はどのように違うのか。どのような原因、背景が考えられるますか。
輪廻転生の思想は、インド人の死生観、ギリシア人の死生観、古代エジプト人の死生観にある。仏教は、無我説であるが、同時に、輪廻転生説に立つ。これは仏教の根本的問題であるといわれる。空海は、即身成仏、速疾成仏であり、目標が高く困難である。(末木文美士『仏典をよむ』第九章210-212)「永遠の生」の思想は、死の思想である。(末木文美士『仏典をよむ』第九章214)。現代人は、仏教の輪廻転生説を考えることができない。
島薗進「沖縄人の死生観では、海の彼方に死者の世界がある。死後、融けた生命に帰ってくる。生命のプールがある。回帰的宇宙観がある。」

 

3、【人は、どのようにして、他の人の痛みを感じることができるようになるか】
大久保正雄「人は、どのようにして、他の人の痛みを感じることができるようになるか。」
日本人は、人に痛みに共感することができない、といわれる。日本人は、英国人、中国人よりはるかに下位。OECDのある調査で世界最下位。「自力で生きていけない人たちを助けるべきだとは思わない人、日本38%、米28%、英8%。」http://linkis.com/bit.ly/TiIW
死をむかえる人の心の痛みに応えることができるのか。「他人の痛みは、分かるのか。他人の痛みは、分からない」 (ウィトゲンシュタイン『哲学的探究』(Philosophische Untersuchungen)「私的言語論」「痛み」)
人の心の痛みを感じる心は、慈悲心が必要。非常に難しい。
島薗進「人の痛みを感じる心を教えるのは難しい。人の痛みを感じることができるためには、教養が必要です。教養よりも子供の時の経験が大切でしょう。日本人は臓器移植に否定的な人が多いが、背後には科学の力への過信への疑問がある。」

 

4、【ギリシア人の死生観】
大久保正雄「ギリシア人の死生観は「人間にとっては、この世に生まれてこないことが幸せであり、生まれてきたら早く死ぬことが幸せである。」。「宮澤賢治『よだかの星』に似ている。これは、現代人の考えと違うと思われる。宗教学者として、どのように考えますか。」「ギリシア悲劇、ソフォクレス『コロノスのオイディプース』(1224-1227)、ソフォクレスに先立つ前6世紀のエレゲイア詩人テオグニス『エレゲイア詩集』」
島薗進「この世に生まれ生きることは苦だという死生観がある。苦しい人生を生きるより、生まれないほうがよい、という考えは、日本人の死生観にある。」

 

5、【幸せとは何か】
大久保正雄「宗教学者が考える「幸せとは何か」。例えば「幸せとは何か。」ホセ・ムヒカの考えは、
幸せとは生きることに喜びを見出すこと。情熱を傾ける何かが必要。歩きつづけることが幸せ。目標に向かって戦う者は幸せ。希望があるから。貧しい人とは少ししか持っていない人ではない、もっともっといくらあっても満足しない人である。『知足』が大切。若い人でも、心が老いた人がいる。
我々は発展するために地球にやってきたのではありません。幸せになるために地球にやってきたのです。2016年4月8日。ホセ・ムヒカ「4つの教訓」 1. 消費主義に支配されるな 2. 歩き続けよ  3. 同じ志を持つ仲間を見つけて闘争せよ 4. 自分の利己主義を抑えよ 
http://news.livedoor.com/article/detail/11393035/
島薗進「私は、ホセ・ムヒカの考えは好きです。しかし、歩くのを止めて、立ち止まってもよいのでは。私は名前が進むですが」

 

6、【仏教の根本前提】
大久保正雄 「『仏教の根本前提』は、何であると考えられますか。プラトン哲学の根本前提は、『魂の不死不滅、輪廻転生、イデアの存在、想起説』。この4つの思想である。と考えらえる。プラトン『パイドロス』魂のミュートスは、4つの前提の上に成り立つ。魂は、一組の馬とその手綱を取る馭者からなり、翼をもち宇宙をかけめぐる。魂が神の行進について行けなくなると、地上に落ち肉体のうちに誕生する。何かを認識することは、かつて魂が見たイデアを思い出す(想起する)ことである。
島薗進「仏教の根本前提のなかで重要なものは縁起説だと思う。原因に縁って結果が起きる。」*
*注 縁起説「原因に縁って結果が起きる」。
*注 十二縁起。無明→行→識→名色→六処→触→受→愛→取→有→生→老死→(無明に繋がる)。
*仏陀は、人生を苦とみた。苦の原因は、十二縁起。

7、【空海のことば『答叡山澄法師求理趣釈経書』】
大久保正雄 「古の人は道の為に道を求め、今の人は名利の為に求む。」空海『答叡山澄法師求理趣釈経書』。(真理の道を究めるために道を探求したが、現代の人は、地位名誉と利益のために道を探求する。) 空海の言葉は、現代の学問の世界にも当てはまる。地位と名誉と利益のために行動する御用学者が極めて多い、例えば原子力安全委員長、斑目春樹氏。宗教学者として、どう思われますか。
*古の人は道の為に道を求め、今の人は名利の為に求む。名の為に求むるは、道を求むる志にあらず。
空海『答叡山澄法師求理趣釈経書』(叡山の澄法師、理趣釈経を求めたるに答うるの書)
島薗進「その通りです。日本人は、狭い道、専門家の道を考える、茶道、書道など。中国の道はより根源的。本質的な人間の道がある。」

 

8、【比叡山焼き討ち】
大久保正雄 「島薗先生は、比叡山の高僧と交流されていますが、【織田信長、比叡山延暦寺、焼き討ち(元亀二、1571年 】根本中堂焼き討ちはなかった、と戦国史研究者が分析している。比叡山延暦寺は、現在どのような見解ですか。最澄空海の時代から7百年後、比叡山は利権団体化した。信長の「天下布武」は、臨済宗妙心寺派の僧沢彦宗恩(たくげんそうおん)の教示による。公家寺家の利権を攻撃することが目的である。浅井朝倉に与する比叡山を明智光秀が攻撃。(*比叡山焼き討ちに関する考古学的調査、滋賀県による、小和田哲男『集中講義 織田信長』)
島薗進 「織田信長は、一向宗(浄土真宗)を徹底的に攻撃した。世俗権力と合体して大衆を動かしたからである。比叡山焼き討ちは、大規模ではなかったと思う」

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