失われた巨匠たち。悪質な詐欺師が跳梁する偽物の時代。映像の魔術師の死。
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第138回
失われた巨匠たち。悪質な詐欺師が跳梁する偽物の時代。本物志向の時代の終焉。偽物を尊ぶ末人、畜群(Herde)の時代。目先の利益と地位を追求する末人たち。理念と正義が崩壊した時代。「われわれは幸福を発明した。末人たちはそう言ってまばたきする」『ツァラトスゥトラ』序
1、映画の巨匠、映像の魔術師たちの時代の終焉。劣化する文化。
大学事務局上層部と会合で意見交換した。「映画業界で人材育成が失敗した。監督、脚本家、撮影監督、映画制作者の質が低質化、劣化している。これと同じく大学教員、研究者の質が致命的に劣化した」
『シンゴジラ』などの駄作が持て囃される時代。現代で時代を超えて残る映画監督は、ギレルモ・デルトロ『パンズ・ラビリンス』2006『シェイプ・オブ・ウォーター』であるか。
イタリア映画の巨匠たちの時代は終焉した。ヴィスコンティ『ルドヴィヒ 神々の黄昏』『山猫』、フェリーニ『サテリコン』『フェリーニのアマルコルド』『魂のジュリエッタ』、パゾリーニ『王女メディア』。アメリカ映画の巨匠たちの時代も終焉した。
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映像の巨匠たち 1960-2000年
フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini, 1920—1993)イタリア・リミニ生まれの映画監督、脚本家。「映像の魔術師」。
フェリーニ『フェリーニのアマルコルド』1973『魂のジュリエッタ』1964『サテリコン』1969『カサノバ』1976『オーケストラ・リハーサル』1979『そして船は行く』1983『道』1954『カビリアの夜』1957
ピエロ・パオロ・パゾリーニ(Piero Paolo Pasolini, 1922-1975)。イタリアの映画監督、脚本家、小説家、詩人、劇作家、評論家、思想家。パゾリーニ『王女メディア』1969『アポロンの地獄』1967『デカメロン』1971『カンタベリー物語』1972『アラビアンナイト』1974『奇跡の丘』1964
イングマール・ベルイマン(Ingmar Bergman, 1918-2007)。スウェーデンを代表する世界的な映画監督。
イングマール・ベルイマン『叫びとささやき』1972『第七の封印』1957『野いちご』1957『処女の泉』1960『鏡の中にある如く』1961『秋のソナタ』1978。映画藝術の神髄。「神の沈黙」「愛と憎悪」「生と死」のなかに人間の精神の闇を見つめた。
ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti, conte di Modorone, 1906-1976)。イタリアの貴族ヴィスコンティ家の傍流で、父は北イタリア有数の貴族モドローネ公爵、ヴィスコンティは14世紀に建てられた城で、幼少期から芸術に親しんで育った。
『ルードヴィヒ 神々の黄昏』1972『山猫』1963『神々の黄昏』1969『ベニスに死す』1971
フランコ・ゼフィレッリ(Franco Zeffirelli, 1923年2月12日— )ヴィスコンティの弟子。フィレンツェ出身の映画監督・脚本家・オペラ演出家。
『ロミオとジュリエット』1968『ブラザー・サン シスター。ムーン』1972
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アメリカ映画 アルフレッド・ヒッチコック『めまい』1958、ジャック・クレイトン『華麗なるギャツビー』1974、フランシス・フォード・コッポラ『ゴッド・ファーザー』1972『コットンクラブ』1984『ゴッド・ファーザーPARTⅢ』1990、リドリー・スコット『ブレードランナー』1982、スティーヴン・スピルバーグ『レイダース 失われたアーク』1981『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』1989、ブライアン・デ・パルマ『アンタチャブル』1987、クリント・イーストウッド『ミリオンダラー・ベイビー』2004
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★参考文献
『ヴィスコンティ集成 退廃の美しさに彩られた孤独の肖像』1981
篠山起信『ヴィスコンティの遺香―華麗なる全生涯を完全追跡』1982
岩本憲児編『フェリーニを読む 世界は豊饒な少年の記憶に充ちている <ブック・シネマテーク11>』フィルムアート社1994
川本英明『フェデリコ・フェリーニ 夢と幻想の旅人』鳥影社2005
三木 宮彦(著)『ベルイマンを読む―人間の精神の冬を視つめる人 <ブック・シネマテーク8>』1986
2018年2月3日
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2、美術書の終焉。カタログ時代。技術と物、軽佻浮薄を求める人々。末人は、精神の美を求めない。
秋の午後、代官山のカフェで、美術書の女性編集者と企画会議をした。
美術編集者の説明によると「美術書の出版社で、売れるのは、画集、カタログ、作品集、ガイドブック、その類。美術の表面的な皮層を解説する商品が限界。商品が売れないと出版社は生きていけない。美術書は、売れない。」美術編集者は、憂い嘆く。
「美術書は、なぜ売れないのか」
この国の読者は、美術の表面的な皮層のみを見ていて、深い真実を見ない。「エリーザベトはカネと地位のあるハプスブルグ家のフランツ・ヨーゼフに嫁入りして幸せだと大衆は思っている」「ゴッホのアルル時代の作品は色彩豊かで華やかで美しい。なぜ作品を生みだしたのか大衆は考えない」「メディチ家はカネと権力があるからルネサンスを生みだしたと大衆は思っている」と私は答える。
美術編集者は「なぜその作品が生まれるのか、を問う書はあまり存在しない」と指摘する。人気があるのは、『怖い絵』「ネコ展」「カワイイ展」などである。と美術編集者はいう。
大衆に圧倒的な人気があるのは、若冲、北斎、運慶、阿修羅像、印象派、これは群衆を瞬殺する必殺技である。
美術史家が、研究し解説するのは、技術と物と歴史的事実。書物の内容は、物カタログと案内書が主である。大衆とは別の意味で、皮層である。
ルネサンスの美の深層まで探求する美術史家は、アンドレ・シャステル、ケネス・クラーク、清水純一、僅かの学者である。
塩野七生の「ルネサンス、ローマ帝国史」は、誤謬が多いが、何を以って、真偽を判断するのか。それを指摘する人は少ない。早稲田大の古代史教授は、黙殺する。
このような現代の状況の中で、朝井まかて『眩くらら』(2016)は、傑出している。葛飾応為。北斎の三女、お栄。北斎の工房で絵を描いていたお栄は、二十二歳の時に、水油屋の次男で町絵師の吉之助と結婚する。家事も夜の相手もせず、只管、絵を描くお栄は、吉之助と衝突し、家を飛び出す。出戻って、工房に復帰したお栄は、才能豊かな善次郎(渓斎英泉)への密かな恋に悩む。葛飾応為は、光と影の世界を描く。*葛飾応為『月下砧打美人図』『吉原格子先之図』『夜桜美人図』『三曲合奏図』
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魂の深淵、美の精神史
美術編集者は「なぜこの書物の構想を計画したのですか」と私にたずねる。
「私は、藝術家の魂の深淵、理念を探求する精神史のドラマを、描きたい」と答えた。
思想の歴史は、戦いの歴史である。物質主義と本質主義の思想の戦いの歴史である。*大久保 正雄『ことばによる戦いの歴史としての哲学史』
2017年12月18日
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参考文献
思想の歴史は、戦いの歴史である。物質主義と本質主義の思想の戦いの歴史である。*大久保 正雄『ことばによる戦いの歴史としての哲学史』
大久保 正雄『ことばによる戦いの歴史としての哲学史 理性の微笑み』理想社
http://bit.ly/2BGiuwX
孫崎享×大久保正雄『国家権力の謎』第11回
http://bit.ly/2vO4qzC
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 美のイデアへの旅』
大久保正雄『藝術と運命との戦い、運命の女』
Franco Zeffirelli,Romeo and Juliet, 1968
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夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。気が向いたらお読み下さいませ。
投稿: omachi | 2018年3月 3日 (土) 09時39分