奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド・・・世に背を向け道を探求する、孤高の藝術家
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第173回
孤高の道を歩きつづければ、一つの道となる。道は金剛界(vajradhatu)を生み出す。世に背を向けて道を探求する、孤高の藝術家。媚びず、妥協せず、諦めず、絶望を超えて、理想を求めて歩きつづける。思想家が、孤高の道を歩きつづければ、一つの道となる。道は金剛界を生み出す。名誉、利益、地位を求めず、独自の道を歩く孤高の藝術家。運命の永劫回帰を超える藝術家の精神。
「古の人は道の為に道を求め、今の人は名利の為に求む。名の為に求むるは、道を求むる志にあらず。」空海『答叡山澄法師求理趣釈経書』『弘法大師 空海全集』
「また秘蔵の奥旨は、文を得ることを貴ばず。ただ心を以って心に伝うるなり。文はこれ糟粕、文はこれ瓦礫、糟粕と瓦礫を受くれば、則ち粋実と至実とを失う。真を棄てて偽を拾うは、愚人の法なり。」
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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世に埋もれ歴史の闇に隠れた藝術家たち。闇の中に輝く光。闇は闇で追い払うことはできない。闇を追い払うのは光である。
【精緻な生命界の画家、伊藤若冲】
若冲(1716‐1800)は、35歳の時、相国寺にて、僧、大典顕常(1719年‐1801年)に出会う。京都の青物問屋の長男として生まれ、23歳で家業を継ぎ、40歳で家督を弟に譲り画業に専念する。40代前半から『動植綵絵』を10年の歳月をかけて完成する(宝暦7年頃1757年から明和3年1766年)。「千載具眼の徒を竢つ」。千年の後、具眼の士が現われるのを待つ。
若冲の名の由来は、「大盈若冲、其用不窮」『老子』45章。大きく盈ちるは欠けるがごとく、その用は窮まらず。
伊藤若冲は、1000点以上、宋元画を臨写(模写)する。文正「鳴鶴図」、陳伯沖「松上双鶴図」を研究して「白鶴図」を描いた。
【陽明学左派の画家、曾我蕭白】
曽我蕭白(1730‐1781)は、十七歳の時、天涯孤独になり、筆一本で生きるべく絵師を志した。蕭白は、京都の陽明学左派の思想に影響を受け、異端。史上類をみない独創的、創造的藝術を生みだした。卓越した技術をもちながら奇想の極致、『群仙図屏風』を創出した。
『群仙図屏風』1764年、曽我蕭白35歳の作。『群仙図屏風』は日本美術史上類をみない奇想天外な絵画。右隻から、袋に薬草の枝を入れた医師董奉(扁鵲)、簫を吹く簫史、八仙の一人李鉄拐と呂洞賓。左隻に、不気味な子供を連れた林和靖、水盤から魚を取り出す左慈、美人に耳垢を取らせる蝦蟇仙人、彼らを虚ろな表情で眺めている西王母。仙人、唐子、鶴や鯉など不老長寿を願う象徴が散りばめられている。
【滅ぼされた戦国武将の子、岩佐又兵衛】運命の永劫回帰を超える精神の絵巻
織田信長に謀反し滅ぼされた戦国武将・荒木村重の子。美貌の母は、磔に処される。岩佐又兵衛(1578‐1650)、一族滅亡後、母方姓「岩佐」を名乗り、京都で絵師として修業する。北庄(福井)に移住し、20余年を過ごした。寛永14年(1637)、三代将軍徳川家光の娘千代姫の婚礼調度制作を命じられ、江戸に移住、そこで波乱に満ちた生涯を終える。大和絵と漢画双方の高度な技術を完璧に修得、どの流派にも属さない個性的な感覚、後の絵師に大きな影響を与えた。
『山中常盤物語絵巻』は、義経の母、常盤御前が盗賊に殺され、母の仇討を果たす義経の物語。自分の母と義経の母、常盤御前の執念のドラマ。『洛中洛外図屏風』の人間模様は、浮世絵の祖と言われる。運命の永劫回帰を超える精神の絵巻。
【痙攣する老梅の枝、狩野派の異端児、狩野山雪】
狩野山雪(1589-1651)。16歳で狩野山楽の門人となり、その娘と結婚し養子となった。山楽没によって後を嗣ぎ、京狩野派の第二代となる。探幽ら江戸狩野派の繁栄で狩野派内で孤立化した。疑いを着せられ投獄されて、その2年後に没した。蛇足軒・桃源子の号をもつ。絵画は、大胆な構図、形象の追求、意匠性の強い造形、極めて特異な様相をしめしている。
山雪『老梅図襖』は山雪『群仙図襖』と表裏をなしていた。『老梅図』の構図は、山雪が生みだした曲線と直線の織りなす空間美である。梅の古木は、生命力と運命が戦いをくり広げているようで、うねるような、渦巻くような枝ぶりが美しい。
山雪の草稿を子の永納が完成させた、狩野永納『本朝画史』は日本のヴァザーリ『藝術家列伝』である。
【琳派の彼方へ、鈴木其一】
鈴木其一(1796—1858)。18歳で酒井抱一に弟子入り、尾形光琳に私淑した江戸琳派の祖、酒井抱一の忠実な弟子として代作もつとめた。師の没後は個性的な作風を探求した。自然の景物を人工的に再構成する画風は、師抱一の瀟洒な描写とは一線を画す。群青と緑の美しい『夏秋渓流図屏風』、白銀の『風神雷神図襖』は、19世紀琳派の域を超えて、現代美術のデザインに到達する。
【円山派の異端、長沢芦雪】
長沢芦雪(1754—1799) 。京都・篠山の下級武士の子として生まれ、円山応挙に師事。応挙が創った写生画法を忠実にたどる弟子がほとんどだが、大胆な構図と才気あふれる奔放な筆法で独自の画境を追求。
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長沢芦雪 円山応挙の高弟、天明六年(1786) 33歳、 応挙の代理で赴いた現在の和歌山県南部の禅宗寺院無量寺、にて襖絵を描く。46歳、大坂で客死。
長沢芦雪(1754 – 1799)は江戸時代中期に京都で活躍した画家で、写生画の祖、円山応挙の高弟。応挙には千人の弟子がいた。卓越した描写力に加えて、奇抜な着想と大胆な構図、また人を驚かせ楽しませようというサービス精神や面白みで、独自の世界を展開し人気を博した。絵を描くことが好きで、常に新しい表現や技法を追求、精力的に活動した芦雪。多くの傑作は200年以上経った今も、観る人を魅了してやまない。代表作の《龍・虎図襖》(重要文化財)、奇想の天才絵師、長沢芦雪の魅力に迫る。
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【幕末浮世絵、海に暴れる源為朝、歌川国芳】
歌川国芳(1797—1861)。江戸本銀町生れ。文政末期「通俗水滸伝豪傑百八人之壷個」シリーズで人気。役者絵の国貞、風景画の広重と並び、武者絵の国芳として第一人者となる。戯画、美人画、洋風風景画にも発想の豊かな近代感覚を取り込む。役者絵や風刺画を得意とする。『讃岐院眷属をして為朝を救う図―鰐鮫』『宮本武蔵の鯨退治』、大胆な構図が得意技である。
【白隠慧鶴】
白隠慧鶴(1685—1768) 。臨済宗中興の祖と呼ばれる禅僧。駿州原宿(現在の沼津市)に生まれ、15歳のときに出家。「不立文字(言葉に頼るな)」といわれる禅宗において、白隠は夥おびただしい数の禅画や墨跡を遺している。仏の教えを伝える手段として描かれたユーモラスで軽妙、かつ大胆な書画は、蕭白、芦雪、若冲など18世紀京都画壇・奇想の画家たちの起爆剤となった。(「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」図録)
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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展示作品の一部
伊藤若冲『象と鯨図屏風』寛政7年、1795年 紙本墨画 六曲一双
伊藤若冲《旭日鳳凰図》宝暦5年(1755)、宮内庁三の丸尚蔵館、【展示期間:2/9~3/10】
曽我蕭白《雪山童子図》明和元年(1764)頃、三重・継松寺蔵
曽我蕭白《群仙図屏風》重要文化財、明和元年(1764) 文化庁、【展示期間:3/12~4/7】
曽我蕭白 重要文化財『唐獅子図』明和元年(1764)頃 三重・朝田寺
狩野山雪『梅花遊禽図襖』寛永8年(1631)京都・天球院
岩佐又兵衛 重要文化財『山中常盤物語絵巻 第四巻』静岡・MOA美術館
鈴木其一『百鳥百獣図』天保14年(1843年)米国・キャサリン&トーマス・エドソンコレクション
鈴木其一『夏秋渓流図屏風』六曲一双、19世紀、根津美術館
歌川国芳『讃岐院眷属をして為朝を救う図―鰐鮫』『宮本武蔵の鯨退治』
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参考文献
若冲展、東京都美術館・・・『動植綵絵』、妖気漂う美の世界
https://bit.ly/2FWbP7L
蕭白ショック!!曾我蕭白と京の画家たち・・・狂狷の画家、蕭白
https://bit.ly/2NhRBFv
伊藤若冲、アナザーワールド・・・若冲の水墨画
https://bit.ly/2LPQEmr
「若冲と蕪村」・・・黄昏の美術館
https://bit.ly/2RN7FRm
「名作誕生、つながる日本美術」東京国立博物館・・・美の系図、創造のドラマ
https://bit.ly/2ri7dz5
妙心寺展・・・禅の空間、近世障屏画の輝き
https://bit.ly/2OACxXq
「大琳派展―継承と変奏」東京国立博物館・・・絢爛たる装飾藝術、16世紀から18世紀
https://bit.ly/2oRTDSh
ボストン美術館 日本美術の至宝、東京国立博物館・・・美の宴
https://bit.ly/2C5NsU6
辻惟雄『奇想の系譜』1970『奇想の図譜』1989
「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」図録
「生誕300年記念、若冲展」図録
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美術史家・辻惟雄氏(1932-)が、今から約半世紀前の1970年に著した『奇想の系譜』。本展はその著作に基づいた、江戸時代の「奇想の絵画」展の決定版です。『奇想の系譜』で採り上げられたのは、それまで書籍や展覧会でまとまって紹介されたことがなかった、因襲の殻を打ち破った、非日常的な世界に誘われるような絵画の数々でした。
本展では、同書で紹介された、岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳に、白隠慧鶴、鈴木其一を加えた8人の作品を厳選したラインナップになっています。
近年の「若冲ブーム」、「江戸絵画ブーム」、ひいては「日本美術ブーム」の実相をご存知の方も、またこの展覧会ではじめて魅力的な作品に出会うことになる方にも、満足いただける内容を目指しました。奇想天外な発想にみちた作品の数々を紹介し、現代の目を通した新たな「奇想の系譜」を発信する本展において、江戸絵画の斬新な魅力をご堪能ください。
幻想の博物誌:伊藤若冲(1716-1800)
醒めたグロテスク:曽我蕭白(1730-1781)
京のエンターテイナー:長沢芦雪(1754-1799)
執拗なドラマ:岩佐又兵衛(1578-1650)
狩野派きっての知性派:狩野山雪(1590-1651)
奇想の起爆剤:白隠慧鶴(1685-1768)
江戸琳派の鬼才:鈴木其一(1796-1858)
幕末浮世絵七変化:歌川国芳(1797-1861)
https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_kisounokeifu.html
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★「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」、東京都美術館、2月9日(土)~4月7日(日)
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