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2019年3月

2019年3月31日 (日)

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「祝福されし乙女」・・・藝術家と運命との戦い、ロセッティ最後の絵画

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大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第177回
藝術は悲しみと苦しみから生まれる。絵を描くのは美的活動ではない。この敵意に満ちた奇妙な世界と我々の間を取り次ぐ、一種の魔術なのだ。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティDante Gabriel Rossetti (1828-82)は、運命との戦いの果てに、生涯の最後に、3枚の絵を残した。
「祝福されし乙女」「ムネモシュネ」「プロセルピナ」(1876-1882) 3部作である。「祝福されし乙女」は、地上の恋人と死んだ女の霊的交流をえがく。「ムネモシュネ」は記憶の女神、「プロセルピナ」は冥界とこの世を行き来する。
ロセッティ(1828-82)は、ラファエル前派(1848-53)から脱出して、『ウェヌス・ウェルティコルディア』(1863-1868)をへて、運命の女の主題に耽溺する。
ウェヌスは、トロイの王子「パリスの審判」で選んだアプロディーテ。【ペレウスの饗宴】「神々の饗宴」でエギナ島の王ペレウスと海の女神テティスとの結婚式に招待されなかった不和の女神エリスが「最も美しい女神に」と書いた手紙とリンゴを使いのヘルメスに持たせて送り込ませた。黄金の林檎をめぐって3人の女神が争う。【女神の争い】三女神は最も美しい装いを凝らしてトロイの王子パリスの前に立った。女神は贈り物を約束する。ヘラは世界を支配する力、アテナはいかなる戦争にも勝利を得る力、アプロディーテは最も美しい美女、それぞれ与える約束をした。パリスの審判。『キュプリア』
藝術は悲しみと苦しみから生まれる。絵を描くのは美的活動ではない。この敵意に満ちた奇妙な世界と我々の間を取り次ぐ、一種の魔術なのだ。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
――
★参考文献
【藝術と魔術】藝術は悲しみと苦しみから生まれる。絵を描くのは美的活動ではない。この敵意に満ちた奇妙な世界と我々の間を取り次ぐ、一種の魔術なのだ。敵との闘争における武器なのだ。いかなる創造活動も、はじめは破壊活動だ。パブロ・ピカソ

「ラファエル前派の軌跡展」三菱一号館美術館・・・ロセッティ、ヴィーナスの魅惑と強烈な芳香
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「祝福されし乙女」・・・藝術家と運命との戦い、ロセッティ最後の絵画

ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢・・・愛と美の深淵
https://bit.ly/2MGcs9l
孤高の思想家と藝術家の苦悩、孫崎享×大久保正雄『藝術対談、美と復讐』
https://bit.ly/2AxsN84
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「妻(1862没)の遺体とともに埋葬した詩稿を69年発掘し、70年《詩集》を刊行。《詩集》の〈天国の乙女〉は地上の恋人と死んだ女の霊的交流をえがき《バラッドとソネット》(1881)には〈白い船〉〈王の悲劇〉のほかに、名高い連作ソネット集〈生命の家The House of Life〉の大部分を収めた。そこには,絵画における理想の女性像である妻およびジェーンとの愛の葛藤に悩み精神的救済をもとめる詩人の姿が浮彫になっている。」出典『世界大百科事典』【ロセッティ】The House of Life
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Rossetti 『祝福されし乙女』(1875-1878)
ロセッティの詩から絵画が生みだされた唯一の作品である。
Dante Gabriel Rossetti – The Bower Meadow1872
「祝福されし乙女」The blessed damozel
The blessed damozel leaned out
From the gold bar of Heaven;
Her eyes were deeper than the depth
Of waters stilled at even;
She had three lilies in her hand,
And the stars in her hair were seven.
天に召されし乙女、天国の
黄金の欄干から身を乗り出して
その目は夕暮れの
深い淵より深く
手に三本の百合の花を、
髪に七つの星を戴いて
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ロセッティ『プロセルピナ』Rosetti,Proserpina(1874、第8版1882)。8枚の絵画を描いた。
「ムネモシュネ」と「プロセルピナ」はF・R・レイランド(ホイッスラーの孔雀の間をもつ大富豪)のドローイング・ルームにかけられていた。1892年。この二枚の中央が「祝福されし乙女」。
Six Rossetti paintings as hung in Leyland's drawing room, 1892. Proserpine hangs fourth from the left.
https://en.wikipedia.org/wiki/Proserpine_(Rossetti_painting)
――
ロセッティ『ムネモシュネ』Mnemosyune(1876-1881)。記憶の女神、ゼウスと9夜を共にして、9人のムーサイを生む。黄泉の国で、レーテ(忘却)川と対をなす池(記憶)の化身。亡くなった魂が転生する際に、レーテ川で生前のことを思い出せなくなるのに対し、ムネモシュネの池の水を飲むことにより転生を止めさせる。
――
ロセッティ「プロセルピナ」Proserpine(1874)冥界の女王であり冥界の囚われ人である。地下と地上、2つの世界で半年ずつ過ごさなければならないという宿命を持ち、地下においてはプルートーの妻として過ごし、地上においては春の女神として花々を咲かせる。
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ロセッティ『ウェヌス・ウェルティコルディア』(1863-1868)
お前に渡そうと林檎の実を手にしながら
胸のうちでは渡さずにおくと決めたかのよう
思いに耽りつつ、その目はお前の魂のうちに
見える物の跡をたどっている。
たぶんこう言うのだ、「見よ、かの者は心安らかなり。
ああ!その唇には林檎を――その胸には
 つかの間の快楽のあと、突き刺さる投げ矢を――
その足はとこしえにさまよい歩かしめよ!」
しばし彼女の眼差しは静かにはにかむ。
だが、魔力を及ぼす実を与える時には
 プリュギアの若者を見た時の如く目は燃え上がる。
そうして、彼女の鳥の張り詰めた喉は悲しみを予告し
彼女の遠い海は一枚貝のように呻き
彼女の暗い木立を貫いてトロイの光が打つ。
(松村伸一訳)『D.G.ロセッティ作品集』岩波文庫、ロセッティ,D.G.【著】/南條 竹則/松村 伸一【編訳】
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★ ラスキン生誕200年記念「ラファエル前派の軌跡展」
三菱一号館美術館、2019年3月14日~6月9日
あべのハルカス美術館、2019年10月5日(土)~12月15日(日)

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2019年3月28日 (木)

「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」・・・空海、理念と象徴

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大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第176回
桜の森を歩いて博物館に行く。白象にのる帝釈天騎象像、六面六臂六足の大威徳明王騎牛像、七頭の獅子に乗る大日如来、鳥獣にのる金剛界五仏、幻の密教空間が蘇る。東寺、講堂における立体曼荼羅の意味は何か。金剛界曼荼羅、『即身成仏義』『理趣経』に謎を解く鍵がある。空海(774-835)が追求した理念は何か。
【旅する思想家、美への旅】空海は理念を探求して旅した。空海の24歳の苦悩は『聾瞽指帰』に刻まれている。空海、プラトン、玄奘三蔵、李白、王羲之、嵯峨天皇、ロレンツォ・デ・メディチ、理念に向かって旅する旅人。理念を追求する人は、この世の闇の彼方に美を求める。

【東寺、講堂における立体曼荼羅】五智如来と明王の象徴は何を意味するのか。1、五智如来、大日、宝生、阿弥陀、不空成就、阿閦。2、五菩薩、金剛波羅密、金剛宝、金剛法、金剛業、金剛薩埵。3、五大明王、不動明王、降三世、軍荼利、大威徳、金剛夜叉。4、四天王、持国天、増長天、広目天、多聞天。5、二天、梵天、帝釈天。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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【空海、理念と象徴、密蔵深玄翰墨難載。更仮図画開示不悟】密教の理念は、象徴によって表現される。「法は本より言(ごん)なけれども、言にあらざれば顕われず。真如は色(しき)を絶すれども、色を待ってすなわち悟る。(略)密蔵深玄にして翰墨(かんぼく)に載せがたし。さらに図画を仮りて悟らざるに開示す。種々の威儀、種々の印契(いんげい)、 大悲より出でて一覩(いっと)に成仏す。経疏に秘略にしてこれを図像に載せたり。密蔵の要、実にここに繋(かかれり)。伝授受法、これを棄てて誰ぞ。『御請来目録』
【物の興廃は必ず人に由る。人の昇沈は定めて道に在り。空海】物の栄えるか衰えるかは、それに関わる人の人柄と能力と智慧と努力による。また人の成功・失敗、浮き沈みは、その人が歩む道による。不正な道を歩いて栄える者には天罰が下る。口先、外面だけの人には、天罰が下る。「物之興廃必由人 人之昇沈定在道」空海『綜藝種智院式』『性霊集』
【空海、波瀾の遣唐船、謎の生涯】24歳で『聾瞽指帰』を書く。57歳で『秘蔵宝鑰』を書く。大学入学18歳から31歳、遣唐使、留学僧、入唐まで、大学中退、山林修行、謎の12年間。宝亀5年(774)6月15日生まれる。承和2年(835) 4月22日入定、62才。
24歳で『聾瞽指帰』797年を書く。57歳で『秘蔵宝鑰』830年
【空海、聖なる者は悪を滅ぼす】『理趣経』第三段。金剛手よ、もし理趣を聞きて受持し読誦することあらば、たとえ三界の一切の有情を害するも悪趣に堕せず。
――
【密教は、法身、大日如来が説いた教え】【仏陀の身体には、三身(法身・報身・応化身)がある】法身、大日如来。報身、仏陀となるための因としての行を積み、その報いとしての完全な功徳を備えた仏身。仏陀釈迦牟尼、応化身。
「仏に三身(法身・報身・応(化)身)あり。教は二種(顕教・密教)なり。応化の開説を名づけて顕教という。ことば顕略にして機に逗えり。法仏の談話これを密蔵(密教)という。ことば秘奥にして実説なり。」空海『弁顕密二教論』
空海『即身成仏義』。六大、無碍にして常に瑜伽たり。 四種の曼荼羅、各々離れず。三密加持すれば速疾に顕わる。重々たる帝網、名付けて即身という。
【因陀羅網】インドラ、すなわち帝釈天の宮殿を飾っている網。その網の結び目には宝玉がついており、それぞれが互いに反映している。華厳宗の説く、すべての事物が無限に交渉し、通じあっているとする事事無礙法界の比喩としてよく用いられる。『華厳五教章』
――
【空海と嵯峨天皇】大同4年(809)、4月3日神野親王が践祚、13日に即位式を挙げ嵯峨天皇となる。即位。7月16日、空海は、太政官符により高雄山寺に入住勅許。弘仁7年(816)嵯峨天皇から高野山を修行の地として賜り、金剛峯寺を開創した。空海は、弘仁14年(823)に嵯峨天皇より東寺を賜る。真言密教、真言陀羅尼宗の根本道場、教王護国寺とした。空海(774-835)は62歳で入定。嵯峨天皇(786-842)は、7年後世を去る。
――
参考文献
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」・・・空海、理念と象徴
https://bit.ly/3fyOaYF

金剛界曼荼羅の五仏、五智如来、転識得智
https://t.co/MIXigqe3xH
密教経典『理趣経』・・・空海と金剛界曼荼羅
https://bit.ly/2H2diKc
空海『即身成仏義』、大日如来の知恵 五智如来の知恵
https://bit.ly/2O8YtbU
無我説と輪廻転生、仏教の根本的矛盾・・・識體の転変、種子薫習。名言種子、我執種子、有支種子
https://bit.ly/2U9rO6s
六観音菩薩「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」東京国立博物館、・・・純粋な美しい魂に舞い降りる
https://bit.ly/2C0ZL2f
関根俊一『仏尊の事典、壮大なる仏教宇宙の仏たち』1997
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展示作品の一部
国宝「立体曼荼羅」東寺講堂、平安時代、承和6年(839)。2、五菩薩、3、五大明王、4、四天王、5、二天、
重要文化財 弘法大師像(談義本尊)賛 伝後宇多天皇筆 鎌倉時代・14世紀 東寺蔵
国宝 風信帖(第一、第二、第三通) 空海筆 平安時代・9世紀 京都・東寺蔵
国宝 空海撰「請来目録」最澄筆、平安時代9世紀、東寺蔵
国宝 金剛密教法具 中国 唐時代・9世紀 京都・東寺蔵
国宝 金剛密教法具 金剛盤、金剛五鈷鈴、金剛五鈷杵、中国 唐時代・9世紀 京都・東寺蔵
蘇悉地儀軌契印図 1巻 中国 唐時代 咸通5年(864年)東寺蔵
国宝 降三世明王(五大尊像)平安時代・大治2年(1127)東寺蔵
国宝 十二天屛風 平安時代・建久2年(1191) 京都・東寺蔵
国宝 両界曼荼羅図、金剛界、胎蔵界、(西院曼荼羅[伝真言院曼荼羅]) 平安時代・9世紀 京都・東寺蔵
国宝 兜跋毘沙門天立像 中国 唐時代・8世紀 京都・東寺蔵 平安京の羅城門に安置
重要文化財 五大虚空蔵菩薩坐像、金剛虚空蔵菩薩、法界虚空蔵菩薩 中国 唐時代・9世紀 東寺蔵
後七日御修法(ごしちにちみしほ)。1月8日から7日間、宮中真言院で行われた真言宗の重要な儀式。元日から7日までの節会の後、7日間の修法から後七日といい、真言院御修法、後七日法ともいう。834年(承和1)空海が勅命により大内裏中務省において始行、同年空海が上奏、唐の不空の例にならって宮中に真言院が造立された。慶応3年1867年以降、現在は、東寺、灌頂院において行われる。『国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅』図録P65
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特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」 / 平成館 特別展示室 2019年3月26日(火) ~ 2019年6月2日(日)
国宝 帝釈天騎象像 平安時代・承和6年(839) 東寺蔵
東寺(教王護国寺)は、平安京遷都に伴って、王城鎮護の官寺として西寺とともに建立されました。唐で新しい仏教である密教を学んで帰国した弘法大師空海は、823年に嵯峨天皇より東寺を賜り、真言密教の根本道場としました。2023年には、真言宗が立教開宗されて1200年の節目を迎えます。空海のもたらした密教の造形物は、美術品としても極めて高い質を誇り、その多彩さや豊かさはわが国の仏教美術の中で群を抜いています。本展は、空海にまつわる数々の名宝をはじめ、東寺に伝わる文化財の全貌を紹介するものです。空海が作り上げた曼荼羅の世界を体感できる講堂安置の21体の仏像からなる立体曼荼羅のうち、史上最多となる国宝11体、重文4体、合計15体が出品されるほか、彫刻、絵画、書跡、工芸など密教美術の最高峰が一堂に会します。東寺が1200年にわたり、空海の教えとともに守り伝えてきた至宝をご堪能ください。https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1938

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★「国宝 東寺-空海と仏像曼荼羅」、東京国立博物館、
3月26日(火)~6月2日(日)
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1938

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2019年3月16日 (土)

「ラファエル前派の軌跡展」・・・ロセッティ、ヴィーナスの魅惑と強烈な芳香

Dante_gabriel_rosetti_venus_1868Prerafael20180大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第175回
春の花の匂いが庭に満ちる。沈丁花の花が香る道を歩いて美術館に行く。ロセッティ「ウェヌス・ウェルティコルディア」(1868)、「祝福されし乙女」(1875-1878)、「ムネモシュネ」(1876-1881)、3点が強烈な魅力を放つ。薔薇の強烈な芳香のようである。ロセッティは、詩人であり、画家である。詩集『生命の家』と神話の世界を絵画によって表現、象徴的世界を創造した。
1848年、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ジョン・エヴァレット・ミレイらはラファエル前派同盟を結成した。彼らの精神的な指導者となり、19世紀の英国美術の発展に大きな影響を与えた思想家、ジョン・ラスキンの生誕200年記念展覧会。ラスキンは、ミレイを高く評価したが、その後、どうような物語が展開したのか。

ラファエル前派、愛の迷宮、運命の女、
ロセッティとジェーン・バーデン、ロセッティと4人の女
ジェーン・バーデンは、ロセッティ「プロセルピナ」のモデルである。ロセッティ、モリス、ジェーンの間には、不思議な三角関係がある。1859年、25歳のウィリアム・モリス(1834-96)は、19歳のジェーン・バーデン(1839-1914)と結婚する。ロセッティは、エリザベス・シダル(1829-62)と1860年に結婚したが、彼女は1862年亡くなる。エリザベスは、ミレイ「オフィーリア」のモデルである。ロセッティの次のモデルは、ファニー・コンホース、その次のモデルは、アレックス・ワイルディングである。ロセッティ(1828-82)は、ジェーンを愛しつづけ、多彩な愛と藝術の果てに、53歳で死ぬ。エリザベス・シダルは32歳の若さで死ぬが、ミレイ67歳、モリス62歳の死後、ジェーン・バーデンは、74歳まで生きる。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』

ラファエル前派、愛の迷宮、運命の女
ジョン・エバレット・ミレイとエフィー・グレイ
ミレイ(1829-96)は、史上最年少の11歳でロイヤル・アカデミー付属学校に入学、「神童」と騒がれる。『両親の家のキリスト』(1849-50)とラファエル前派に対する批判の中で、21歳のミレイは苦悩する。ミレイは、友人の仲介で権威ある評論家ラスキンに擁護を嘆願した。ラスキンは「タイムズ」紙上で彼らを擁護する文章を発表、ラファエル前派(Pre-Raphaelites Brotherhood)を支援する。ジョン・ラスキンは、美術評論家、ロマン派文学を愛好し『近代絵画論』1834を著し名を成す。ミレイは『オフィーリア』(1851-52)を描く。
ジョン・ラスキンの妻エフィーは、ミレイと出会い、結婚する。ミレイは、1855年にエフィー・グレイ(1828-97)と略奪結婚した。エフィー24歳。ラファエル前派の愛の迷宮である。
ジョン・ラスキンの妻でありながら、ラスキンの友人である画家ミレイと恋に落ちたエフィー・グレイ。ヴィクトリア朝時代の著名な2人の男を翻弄し、前代未聞のスキャンダルを起こした。エフィーは2人の偉大な男、ラスキンとミレイにとってファム・ファタール(運命の女)。
ミレイ(1829-96)は67歳で死を迎える。死の間際、ヴィクトリア女王から「何かできることはないか」とメッセージが届けられた。ミレイはすぐさまエフィーの謁見許可を懇願。その願いは受け入れられ、翌日、エフィーはウィンザー城に召喚された。女王に正式な拝謁を許され、言葉を賜り、結婚から41年目にしてようやく名実ともにエフィー・ミレイとなる。(参考文献cf.映画『Effie Gray』2014、BBC「Desperate Romantics」2009)
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
大久保 正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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■展示作品の一部
ロセッティ「ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)」Rossetti ,Venus verticordia,1863-68、 油彩/カンヴァス、83.8×71.2 cm、ラッセル=コーツ美術館 (C) Russell-Cotes Art Gallery & Museum, Bournemouth
ロセッティ「祝福されし乙女」Dante Gabriel Rossetti ,The Blessed Damozel, (1875-1878)
ロセッティ「ムネモシュネ」Rossetti ,Mnemosyune, (1876-1881)
エドワード・バーン=ジョーンズ「慈悲深き騎士」863年、水彩、100.3×69.2 cm、 バーミンガム美術館
エドワード・バーン=ジョーンズ「赦しの樹」(1881-82)
エドワード・バーン=ジョーンズ「ペレウスの饗宴」(1872-81) Edward Burne-Jones 「The Feast of Peleus」(1872-1881)。エギナ島の王ペレウスと海の女神テティスとの結婚式に招待されなかった不和の女神エリスが「最も美しい女神に」と書いた手紙とリンゴを使いのヘルメスに持たせて送り込ませる。
エドワード・バーン=ジョーンズ「嘆きの歌」1866年、水彩・ボディカラー/カンヴァスに貼った紙、47.5×79.5 cm、ウィリアム・モリス・ギャラリー
© William Morris Gallery, London
フレデリック・レイトン「母と子(サクランボ)」1864-65年頃、油彩/カンヴァス、48.2×82 cm、 ブラックバーン美術館
モリス・マーシャル・フォークナー商会「シンデレラ(連作タイル画)―「灰かぶり」と呼ばれていた娘がガラスの靴を与えられ、やがて王女となる物語」1863-64年、6枚の錫釉陶器タイルからなるパネル、56×138 cm、リヴァプール国立美術館、 ウォーカー・アート・ギャラリー (C) National Museums Liverpool, Walker Art Gallery
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★参考文献
ラファエル前派展 英国ヴィクトリア朝絵画の夢・・・愛と美の深淵
https://bit.ly/2MGcs9l
「ザ・ビューティフル ― 英国の唯美主義 1860‐1900」・・・大英帝国の黄昏
https://bit.ly/2wvtgG5
「ジョン・エヴァレット・ミレイ展」・・・愛の美と死
https://bit.ly/2MP7hTJ
「バーン・ジョーンズ展―装飾と象徴―」・・・眠れる森の美女
https://bit.ly/2PnusXj
「ロセッティ展:ラファエル前派の夢」Bunkamuraザ・ミュージアム、1990
英国ヴィクトリア朝絵画の巨匠「ジョン・エヴァレット・ミレイ展」・・・愛の美と死
https://bit.ly/3jw0YDE

「ラファエル前派の軌跡展」三菱一号館美術館・・・ロセッティ、ヴィーナスの魅惑と強烈な芳香
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「祝福されし乙女」・・・藝術家と運命との戦い、ロセッティ最後の絵画

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「ラファエル前派の軌跡展」三菱一号館美術館
1848年、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティらが結成したラファエル前派兄弟団は、英国美術の全面的な刷新をめざして、世の中にすさまじい衝撃をもたらしました。この前衛芸術家たちの作品は、観る者の心に訴えかけ、広く共感を呼びました。人々は、社会の基盤が移りゆくなかで、彼らの芸術に大きな意義を見出したのです。
その精神的な指導者であるジョン・ラスキンは、あらゆる人にかかわる芸術の必要性を説く一方で、彼らとエドワード・バーン=ジョーンズやウィリアム・モリスら、そして偉大な風景画家J.M.Wターナーとを関連づけて考察しました。
本展では、英米の美術館に所蔵される油彩画や水彩画、素描、ステンドグラス、タペストリ、家具など約150点を通じて、彼らの功績をたどり、この時代のゆたかな成果を展覧します。
1 ヴィクトリア朝の英国を代表する芸術家が一堂に ターナー、ロセッティ、バーン=ジョーンズ、モリス 
ラスキンの生誕200年を記念する本展には、かれが見いだし、当時のアート・シーンの中心へと引き上げた、前衛芸術家の作品がつどいます。 ターナー《カレの砂浜―引き潮時の餌採り》、ロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》、バーン=ジョーンズ《赦しの樹》などの傑作が、海を越えて一堂に会します。
https://mimt.jp/
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★ラスキン生誕200年記念「ラファエル前派の軌跡展」
三菱一号館美術館、2019年3月14日~6月9日
あべのハルカス美術館、2019年10月5日(土)~12月15日(日

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2019年3月 5日 (火)

密教経典『理趣経』・・・空海と金剛界曼荼羅

KouboudaisiKongokai2019Matsunagayukei大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第174回
智慧によって、現実の世界と戦う。智慧を世界に実現する。これが金剛界のテーマである。 『般若理趣経』は、「般若の知恵に至るための道筋」、智慧の究極に至る道筋である。
『理趣経』の教主は、大日如来であり、その場所は、欲界、第六天、他化自在天である。三界(無色界、色界、欲界)のうち、欲界の支配者が第六天魔王。織田信長は、第六天魔王と自ら称した1573(元亀4)年。*六道輪廻の天道の最下天が他化自在天。
蓮華が泥から咲きいでて、花は汚れに汚されず、すべての欲もまた同じ。そのままにして人を利す。
不空が763年から771年に訳した、不空訳『大楽金剛不空真実三摩耶経』が読誦されている。サンスクリット語原典『般若波羅蜜多理趣百五十頌』(初会『金剛頂経(真実摂経)』『理趣広経』)の訳とされる。
自性清浄の思想を説く経典であるためこの理趣経をめぐって事件が起こった。(十七清浄句が問題とされた)。
空海と最澄
最澄は、弘仁4年(813年)11月23日、『理趣経』の注釈書である不空の『理趣釈経』を借覧しようとしたが、空海は丁重に断った。空海『答叡山澄法師求理趣釈経書』(『遍照発揮性霊集』)
――
1、五成就
序文、誰が《教主》、いつ《時》、どこで《住処》、誰のために《衆》、どのような内容《信》を説いたかという《五成就》が示される。
『般若理趣経』経典の《教主》は五智(大円鏡智・平等性智・妙観察智・成所作智・清浄法界智)を具えた大毘盧遮那如来であり、《時》はあるとき、《住処》は三界(欲界、色界、無色界)のうち欲界の最頂上にある他化自在天である。
そして、八大菩薩(金剛手、観自在、虚空蔵、金剛拳、文殊師利、纔発心転法、虚空庫、 摧一切魔)を筆頭に、《衆》すなわち数え切れないほど多くの菩薩衆に対して、一切法の清浄句門(現実の一切の世界は自他の対立を離れた清浄な世界である)という《信》が説かれる。
――
2、初段、「妙適清浄の句、これ菩薩の位なり」で始まり、慾箭・觸・愛縛・見・適悅・愛・慢・莊嚴・意滋澤・光明・身樂・色・声・香・味という男女の合体の経過になぞらえた16の清浄の句も菩薩の位である。*(妙適=男女合体の喜び)。
*17清浄句
初段、金剛手を相手に大毘盧遮那が説き、金剛薩埵が「吽」という種字にまとめる。密教の世界では、金剛手も大毘盧遮那も金剛薩埵も同一。
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3、【『般若理趣経』第三段】「金剛手よ、もしこの理趣を聞きて受持し読誦することあらば、たとひ三界の一切の有情を害すも悪趣に堕せず」
空海【聖なる者は悪を滅ぼす】【『理趣経』「第三段」】の教説に関して不空訳『理趣釈』において三界の衆生とは三毒の煩悩と注釈されているが、当該注釈の方向性は空海にも継承され、空海は三界の衆生を害することとは三界の無明を断じることに他ならないとしている。*三毒。貪欲・瞋恚・愚痴。貪瞋痴。
「三界の一切の衆生を害しても、般若理趣の法門を奉じているならば、悪趣に墜ちることは無い」。

【『般若理趣経』】「たとひ広く積習するも必ず地獄等の趣に堕せず、たとひ重罪を作るとも消滅せんこと難からず(初段)」「たとひ現に無量の重罪を行ずとも必ず能く一切の悪趣を超越す(第二段)」【『般若理趣経』】「金剛手よ、もしこの理趣を聞きて受持し読誦することあらば、たとひ三界の一切の有情を害すも悪趣に堕せず(第三段)」
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4、第十七段「百字の偈」
菩薩勝慧者乃至盡生死恒作衆生利而不趣涅槃
般若及方便智度悉加持諸法及諸有一切皆清浄
欲等調世間令得浄除故有頂及悪趣調伏盡諸有
如蓮體本染不為垢所染諸欲性亦然不染利群生
大欲得清浄大安楽富饒三界得自在能作堅固利
菩薩は勝れし知慧を持ち、なべて生死の尽きるまで恒に 衆生の利をはかり、たえてねはんに趣かず。
般若及方便、智慧の及ばぬものはなし。もののすがた[=有]も、そのもの[=法]も、一切のものは皆清浄し。
欲が世間をととのえて、よく浄らかになすゆえに、有頂天 もまた悪も、みなことごとくうちなびく。
蓮の体は本染にして、垢(く)の為に染せられざるが如く、諸欲の性も亦然(しか)なり。不染にして群生(ぐんじょう)を利す。
そのままにして人を利 大なる欲は清浄なり、大なる楽に富み饒う。三界の自在身につきて、固くゆるがぬ利を得たり
*五秘密菩薩の境地を詩で表現した。
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5、五秘密の悟り、深秘の法門、五秘密の巻、『理趣経』17段、
五秘密の教え。金剛薩堙を欲触愛慢の金剛菩薩が囲む。欲金剛、触金剛、愛金剛、慢金剛の四金剛菩薩を東南西北に配し、欲金剛女、触金剛女、愛金剛女、慢金剛女の四金剛女菩薩を東南・西南・西北・東北に配する集会。
五秘密の教えを図解したのが金剛界曼荼羅「理趣会」である。
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【欲界、六欲天の天人の楽しみ】第六天、他化自在天、他者を楽しませる事を楽しむ。化楽天、自ら楽しみを作り出す。兜率天、宇宙の法則を楽しむ。夜摩天、自然を楽しむ。忉利天、秩序を維持する事を楽しむ。四大王衆天、敵と戦って世界を守る事を楽しむ。
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空海と真言密教 参考文献
空海の旅 旅する思想家、美への旅
https://t.co/HPPpp3e5iL
旅する思想家、孔子、王羲之、空海と嵯峨天皇
https://bit.ly/2zsD05T
金剛界曼荼羅の五仏、五智如来、転識得智、仏陀への旅
https://t.co/MIXigqe3xH
空海『即身成仏義』、大日如来の知恵 五智如来の知恵
https://bit.ly/2O8YtbU
無我説と輪廻転生、仏教の根本的矛盾・・・識體の転変、種子薫習。名言種子、我執種子、有支種子
https://bit.ly/2U9rO6s
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「京都・醍醐寺-真言密教の宇宙-」・・・醍醐寺三宝院、織田信長のために祈祷する
https://bit.ly/2NHbWso 
六道輪廻、六観音菩薩
「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」東京国立博物館、・・・純粋な美しい魂に舞い降りる
https://bit.ly/2C0ZL2f
空海と密教美術展・・・理念と象徴
https://bit.ly/2Dygyvp
密教経典『理趣経』・・・空海と金剛界曼荼羅
https://bit.ly/2H2diKc
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参考文献
松長有慶『密教経典成立史論』法蔵館 1980
松長有慶『秘密の庫を開く 密教教典 理趣経』集英社〈仏教を読む7〉1984
松長有慶『空海-無限を生きる』集英社〈高僧伝4〉 1985
金岡秀友『理趣経』世界古典文学全集、筑摩書房
宮坂宥勝『密教経典』『理趣経』講談社学術文庫
松長有慶『秘密の庫を開く―密教経典 理趣経』集英社
金剛界曼荼羅「理趣会」
http://www.mikkyo21f.gr.jp/mandala/mandala_kongoukai/07.html
http://blogyang1954.blog.fc2.com/blog-entry-1799.html
https://piicats.net/rishunaiyou.htm

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