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2020年2月

2020年2月 4日 (火)

上村松園と美人画の世界・・・肉体の美と叡智の美

Uemurashoen2020
2009
Hishida-oushoukun
大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第208回
新春の夕暮れ、山種美術館に行く。美しいものが美しいのは何故か。美人の根拠について考える。上村松園「序の舞」(1936)は、近代美人画の頂点といわれる『東西美人画の名作≪序の舞』への系譜』藝大美術館2018。上村松園の美人画は、喜多川歌麿の系譜であると言われる。喜多川歌麿を超える美人画はないのか。上村松園には、円山応挙の影響を受けた作品がある。円山応挙『江口君図』1794、円山応挙『楚蓮香図』1794、上村松園『楚蓮香之図』1924。
1、美とは何か。
生成界の美、叡智界の美。無色界、色界、欲界、天人の美。
「美とは何か」という問いは、プラトン『ヒッピアスMajor』を想起する。ソクラテスはソフィストを問い詰め、ヒッピアスは「何が美しいか」を語る、例えば<美しい乙女><黄金><美しい神々>。ソクラテスは「何が美しいか」ではなく「美とは何か」を問うているのだという。<視覚と聴覚を通じての快楽>を吟味し論駁する。結局アポリアに陥り、無知を宣告して、対話は終了する。ソクラテス「<視覚と聴覚を通じての快楽>が美しいのは、このゆえに、つまりそれが視覚を通じるがゆえにではないだろうからね。なぜといって、もしこのことがそれが美しくあることの原因だとしたら、もう一方の、聴覚を通じての快楽のほうは、けっして美しくはないだろうからだ。」(299E) 『ヒッピアスMajor』
魂の美を描く美人画が存在する。村上華岳『裸婦図』(1920)。菱田春草『水鏡』(1897)『王昭君』(1902)。横山大観『流燈』(1909)。
2、村上華岳『裸婦図』(1920)
村上華岳『裸婦図』、華岳は久遠の美を目ざした。アジャンタ石窟、『モナリザ』の影響があると、美術史家は説明する。村上華岳(明治21年1888—昭和14年1939)。山水と仏画を主題とした作品を多く描き、東西の様式を吸収し、宗教的境地から生れる芸術性の高い、神秘的な日本画を探求した。51歳で死す。村上華岳の師の一人は、竹内栖鳳(1864-1942)である。

3、菱田春草、東京美術学校事件、急進派として懲戒免職。美人画『王昭君』、幻の『雨中美人』
明治31年1898、東京美術学校事件で、急進派として懲戒免職。菱田春草『王昭君』は、悲劇の美女の姿、美しい魂を描く。菱田春草『水鏡』(1897)天人の衰えを水鏡に表現する。菱田春草『黒き猫』(1910)は、『雨中美人』(1910)、六曲一双を描いていたが完成せず、代わりに黒き猫を出品した。翌年、38歳で死す。菱田春草(1874-1911)
4、村上華岳の師、竹内栖鳳(1864-1942)
竹内栖鳳『飛天舞楽図』草稿1911(東本願寺蔵)。栖鳳は、天女を描くことに腐心した。「竹内栖鳳『散華』1914年(大正3)絹本着色 6曲1隻(京都市美術館蔵)。東本願寺から大師堂門の天井絵の依頼を受けた栖鳳は、その題材に飛翔する天女を選びます。この構想は実現しなかったのですが、竹内栖鳳《散華》は、その折に試作として制作されたものです。(山崎妙子)山種美術館」
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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★参考文献
図録『日本美術院創立100周年記念 近代日本美術の軌跡』東京国立博物館1998
村上華岳「裸婦図」・・・魂の見えざる美
https://bit.ly/2UjDGoL
上村松園展・・・美人画の系譜
https://bit.ly/2OoIu8B
村上華岳「裸婦図」・・・崇高なヌード
https://bit.ly/2OlGQo8
上村松園、美人画の粋・・・夏の緑陰の午後
https://bit.ly/2UjE8Dt
竹内栖鳳展 近代日本画の巨人・・・哀愁のイタリア、『ベニスの月』
https://bit.ly/394zM7A
東西美人画の名作《序の舞》への系譜・・・夢みる若い女、樹下美人
https://bit.ly/394A5zg
黒き猫は、37歳で病で亡くなった菱田春草の孤高な姿を思い浮かべる。
細川家の至宝、珠玉の永青文庫コレクション・・・織田信長「天下布武」と菱田春草「黒き猫」
https://bit.ly/2Pjv8Kx
「円山応挙から近代京都画壇へ」藝大美術館・・・円山応挙「松に孔雀図」大乗寺
https://bit.ly/2KEGwyj
「大浮世絵展」・・・反骨の絵師、歌麿。不朽の名作『名所江戸百景』、奇想の絵師
https://bit.ly/34AB3Bz
「没後50年 横山大観」国立新美術館・・・天心と憂愁の詩人、『屈原』悲愴美
https://bit.ly/2OEJ9mq
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上村松園と美人画の世界、山種美術館、1月3日(金)~3月1日(日)

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2020年2月 1日 (土)

レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年記念「夢の実現」展・・・レオナルドの夢、ルネサンスの夢

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大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第207回
レオナルドの夢、ルネサンスの夢。レオナルドは、生涯で完成させた作品、現存する作品は16点の絵画である。多くは未完成の状態か損傷があり、完全な姿で残る作品は4点。『モナリザ』『ヨハネ』『岩窟の聖母』『白貂を抱く貴婦人』。レオナルド『マギの礼拝』(ウフィッツィ)の完成予想はどうなるか、夢がどう実現されるのか。レオナルドの夢、美術史家、池上英洋先生の夢。壮観な展示、壮大なプロジェクト。1月17日シンポジウムも、論者たちが自由闊達、談論風発、知識の楽しみ。
失われた幻の名画『レダと白鳥』がある。これはレオナルド唯一のルネサンス絵画である。フォンテーヌブロー宮殿で消えた、この原作はどこにあるのか。
美術史家に、これからの探求を希望したい。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
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1、「1974年のレオナルド」藤井匡 「モナリザ展」東京国立博物館
2、「レオナルドの神秘思想」池上英洋
【レオナルド『ヨハネ』1513-16】遺作、最後の作品、レオ10世=ジョバンニ・デ・メディチの注文か。『饗宴』アンドロギュノス、両性具有、男女一体。グノーシス主義、善悪二元論、魂と肉体、追求すべきは肉体からの解放としての死。『ユダの福音書』『神名論』、Unum。フランソワ1世、フォンテーヌブロー宮殿の装飾回廊。フィチーノ『ヘルメス文書』ピコ『人間の尊厳について』。【アナロギアと終末観】レスター手稿(池上訳)水のスケッチ、草のスケッチ。葉脈→血管→河川。幹→柱→背骨。ヌムール公ジュリアーノ・デ・メディチが死去、フランスへ旅立つ。レオナルド「水は神的存在」、システィーナ礼拝堂、最後の審判、レオナルド「世界の終末」が描かれた可能性がある、1516-19。
3、「《モナリザ》と解剖学」布施英利
【レオナルドの解剖学は受け継がれた】【回内と回外】「最後の晩餐」は見事に回内と回外で、左右、分かれる。【レオナルドの微笑み】モナリザは微笑んでいない。微笑みには二つの微笑み。「モナリザ」は部分がバラバラ、左右、各部。部分の再構成が微笑みを構成する。
4、「レオナルドとスコラ哲学」原基晶【レオナルド『絵画論』メルツィが編纂】レオナルド「プネウマ」アリストテレス説。
5、「レオナルドとカラヴァッジョ」宮下規久朗
【レオナルド『最後の晩餐』は、ミラノ派に影響】カラヴァッジョはミラノ出身。ジャン・ピエトリーニ『最後の晩餐』。ミラノ派静物画。カラヴァッジョ『果物籠』『果物をもつ少年』。フランチェスコ・メルツィ『フローラ』。マルコ・ペロッツィ『サリヴドール・ムンディ』 。レオナルド「キスをする子供たち」、ベルナルディーノ・ルイーニ『聖家族と幼児ヨハネ』(プラド美術館蔵)。
1500年、レオナルド、ヴェネツィアに行く。ヴェネツィア派に影響、スフマート。レオナルドの「振り向くポーズ」。ジョバンニ・ベッリーニ工房、ジョルジョーネ「眠れるヴィーナス」、ジョルジョーネ1510死す。
6、「レオナルドと賢者の石」茂木健一郎
【レオナルド「モナリザ」、生きた証し】レオナルド、画家である、万能の天才ではない。茂木健一郎Magnum Opus。現代の日本は、低劣。超写実絵画は、薄っぺらい。 『動植綵絵』は、伊藤若冲の畢生の大作magnum opusである。もし『動植綵絵』がなかったら、伊藤若冲は超絶技術の奇想の画家ではあったろうが、今の若冲ではなかったろう。生きものへの祈り。
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池上英洋『レオナルド・ダ・ヴィンチ 生涯と芸術のすべて』筑摩書房、2019
宮下規久朗「ヴェネツィア 海の都の美をめぐる」「藝術新潮」2011.11 10-91頁
宮下規久朗『闇の美術史 カラヴァッジョの水脈』岩波書店、2016
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(cf.清水純一『ルネサンス 人と思想』、
清水純一『ルネサンスの偉大と頽廃 ジョルダーノ・ブルーノの生涯と思想』
清水純一『ジョルダーノ・ブルーノ研究』
イヴァン・クルーラス『ロレンツォ豪華王 ルネサンスのフィレンツェ』)
(cf.アンドレ・シャステル『ルネサンス精神の深層-フィチーノと芸術-』)
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★参考文献
孤高の藝術家、ミケランジェロ・・・メディチ家の戦いと美の探求、プラトンアカデミー
https://bit.ly/3aX26KN
メディチ家の容貌、ルネサンスの美貌 理念を追求する一族
http://bit.ly/2kSINKR
「レオナルド×ミケランジェロ展」三菱一号館美術館・・・レオナルド「レダと白鳥」
https://t.co/K67IitKt5r
ルネサンス年代記 ボッティチェリ ルネサンスの理念
https://t.co/mjMEiIw7xi
ルネサンス年代記 レオナルド最後の旅、フランソワ1世
https://t.co/UMusFWGFOz
大久保正雄「愛と美の迷宮、ルネサンス、メディチ家と織田信長」
https://t.co/J6q12oMYUX
大久保正雄「メディチ家とプラトン・アカデミー イタリア・ルネサンスの美と世界遺産」
https://t.co/yxlgRpwirV
ラファエロ、1505年、レオナルドに会う
https://bit.ly/2vxQDB1
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池上英洋先生がレオナルド作とした16点は何か。
1)《ジネヴラ・デ・ベンチ》
ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
2)《受胎告知》
ウフィツィ美術館蔵
3)《ブノワの聖母》
エルミタージュ美術館蔵
4)《カーネーションの聖母》
アルテ・ピナコテーク蔵
5)《サルヴァトール・ムンディ》
個人蔵(ルーヴル・アブダビ美術館に寄託展示予定)
6)《聖ヒエロニムス》
ヴァチカン絵画館蔵
7)《聖アンナと聖母子》
ルーヴル美術館蔵
8)《白貂を抱く貴婦人》
クラクフ、チャルトルスキ美術館蔵
9)《ラ・ベル・フェロニエール》
ルーヴル美術館蔵
10)《ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)》
ルーヴル美術館蔵
11)《洗礼者ヨハネ》
ルーヴル美術館蔵
12)《糸巻きの聖母》(ランズダウン版)
個人蔵
13)《岩窟の聖母》第一ヴァージョン
ルーヴル美術館蔵
14)《岩窟の聖母》第二ヴァージョン
ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵
15)《東方三博士の礼拝》
ウフィツィ美術館蔵
16)《最後の晩餐》
サンタ・マリア・デッレ・グラーツィエ教会修道院蔵
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「夢の実現」展、代官山ヒルサイド・フォーラム、2020年1月5日(日)~1月26日(日)
レオナルドのさまざまな顔 ―その多面性をひもとく、代官山ヒルサイドプラザホール
2020年1月17日(金)開場12:30/開演13:00~16:00 http://leonardo500.jp/event 
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★Adoration Of The Magi  Filippino Lippi 1496 Uffizi Gallery

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