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2022年5月 5日 (木)

牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児・・・遠い記憶を呼び覚ます風景

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アンドレ・ボーシャン『川辺の花瓶の花』1946年 個人蔵
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藤田龍児『啓蟄』1986年 星野画廊
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藤田龍児『老木は残った』1985年 北川洋氏
大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』279回

百花繚乱、花の匂い漂う紫躑躅咲く道を歩いて美術館に行く。春愁のかぎりを躑躅燃えにけり。
過酷な運命を乗り越えた画家。遠い記憶を呼び覚ます風景。
藤田龍児の絵は、広い野原、山の見える郊外、古い街並み、田舎町。電信柱、工場の煙突、鉄道、バス停。白い犬とエノコログサ、蛇行する道は人生の苦難の象徴。白い犬は、画家自身の分身、藝術家を守る守護精霊である。
過酷な運命を乗り越えた画家。啓蟄。羽音を立て、エノコログサが穂を天に伸ばす。画家の蘇りの光景、春の兆しの神秘的な光景。白い犬を連れた人物が歩いている。
【花吹雪】家の庭に、母が植えた桜が咲き、風に吹かれて、花吹雪となって、部屋に舞う。母の愛犬、トイプードル、高校時代から大学院まで、私を守ってくれたのを思い出す。「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とする」。私は何を残すことができるのか。

*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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戦争による事業破産と半身不随、二人の運命
藤田龍児は、48歳の時、脳血栓で倒れ、53歳で再起する、74歳で死す。アンドレ・ボーシャンは、出征、戦争で破産、妻は精神病となり、園芸業から画家となる、85歳で死す。
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【藤田龍児、48歳の時、脳血栓、画家を断念、53歳で再起、2002年74歳で死す】
藤田龍児は、昭和3年1928年に京都で生まれ、同志社中学校卒業、同志社工業専門学校中退。大阪市立美術館の附属施設であった市立美術研究所にて石膏デッサンや油彩を学び、1959年、美術文化展に初入選。同協会の会員になり、毎年出品を続けた。1959年、大阪大学医学部附属石橋分院で作業療法指導員となる。1969年、退職。初期の作品は不定形な形象が混じり合う抽象画、シュルレアリスムの影響がある。1976年、48歳の時、脳血栓にて倒れる。翌年再発、手術で一命をとりとめるが、右半身付随。利き腕が使えなくなったことに失望、画家として生きることを断念、絵の大半を処分した。絵筆を左手に持ち替え、再び絵画を描くようになる。再起後の最初の個展を開いた時、53歳となる。
白い犬とエノコログサ、蛇行する道など絵画に何度も登場するモチーフで、犬に藤田自身を、そして蛇行する道には彼の苦難の人生を感じさせる。病気を乗り越えた藤田にとって、何度踏まれても逞しく伸びていくエノコログサは、強い生命力の象徴である。白い犬は土佐犬、画家自身、
【アンドレ・ボーシャン、出征、戦争で破産、妻は精神病、園芸業から画家へ、1958年85歳で死す】
アンドレ・ボーシャンは、1873年フランス中部のシャトー=ルノーに生まれた。苗木職人として園芸業を営む。1914年、第一次世界大戦が勃発、歩兵連隊に徴集され、軍隊で学んだ事が、測量したデータをもとに、地形を正確に記録する測地術である。そして大戦が終結して46歳にて除隊するが、農園は荒れ果て破産、妻は精神に異常をきたす。ボーシャンは地元の森の中で新居を構え、妻の世話をしながら自給自足生活を送る。
ボーシャンが絵を初めた契機は、軍隊時代に学んだ測地術の技法にあった。山や川などの故郷の風景、咲き誇る花々といった苗木職人として身近に接した植物などを描く。1921年、サロン・ドートンヌに入選。当時の同賞の審査は比較的厳しくなかった、50歳を前に画家の道を歩みはじめる。建築家となりル・コルビジェに認められる。1928年、セルゲイ・ディアギレフからロシアバレエ団の舞台美術を依頼される。
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展示作品の一部
藤田龍児『於能碁呂草』1966年 星野画廊
藤田龍児『啓蟄』1986年 星野画廊
藤田龍児『静かなる町』1997年 松岡真智子氏
藤田龍児『オーイ、野良犬ヤーイ』1984年 個人蔵
藤田龍児『特急列車』1988年 平澤久男氏
藤田龍児『老木は残った』1985年 北川洋氏
アンドレ・ボーシャン『ラトゥイル親爺の店』1926年 個人蔵
アンドレ・ボーシャン『大木とアルゴ船乗組員』1928年 個人蔵
アンドレ・ボーシャン『ラヴァルダン城とスイカズラ』1929年 個人蔵 
アンドレ・ボーシャン『婚約者の紹介』1929年 個人蔵
アンドレ・ボーシャン『花瓶の花』 1928年 個人蔵
アンドレ・ボーシャン『窓』 1944年 個人蔵 
アンドレ・ボーシャン『川辺の花瓶の花』1946年 個人蔵
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参考文献
プレスリリース東京ステーションギャラリー、冨田章氏
「牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児」東京美術2022

牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児・・・遠い記憶を呼び覚ます風景

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アンドレ・ボーシャン(1873-1958)と藤田龍児(1928-2002)は、ヨーロッパと日本、20世紀前半と後半、というように活躍した地域も時代も異なりますが、共に牧歌的で楽園のような風景を、自然への愛情を込めて描き出しました。人と自然が調和して暮らす世界への憧憬に満ちた彼らの作品は、色や形を愛で、描かれた世界に浸るという、絵を見ることの喜びを思い起こさせてくれます。両者の代表作を含む計116点を展示します。
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition.html
2人の画家アンドレ・ボーシャンと藤田龍児は、活動した国も時代も異なりますが、いくつかの興味深い共通点をもっています。
ともに50歳頃に新たな画家の道に踏み出したこと、精妙な輝きを秘めた色彩を用いて故郷の山河など牧歌的で楽園を思わせる風景を好んで描いたこと、そしてそれらが彼らの決して安逸ではなかった困難な生活の中で生み出されたこと。
そんな彼らの作品が、じわじわ効いてきて、しみじみ沁みる。「見る」ことの喜びを感じさせてくれる展覧会です。
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牧歌礼讃/楽園憧憬 アンドレ・ボーシャン+藤田龍児
2022年4月16日(土) - 7月10日(日)

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