ゲルハルト・リヒター展・・・ビルケナウ、ゾンダーコマンドの苦しみ
大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』287回
【独裁者との戦い】知恵ある王が、暴虐王に勝つとは限らない。プラトンは「知恵ある王が支配する国家」を理想としたが、優れた王の支配は移ろい、現実には寡頭制、名誉支配制、民主制、衆愚制から独裁制が出現、最悪の政治形態になると予言した。
ゲルハルト・リヒターは、ホロコーストを主題に、1960年代から、ホロコーストを主題に取り組もうとしたが、2014年に「ビルケナウ」を完成させた。ここに描かれたのは、ホロコーストの絶望的な光景なのか。ゾンダーコマンド(ユダヤ人特殊部隊)には、死刑囚が死刑囚を管理する究極の苦しみがある。
【全体主義国家の誕生】ナチス・ドイツ(1933-1945)は、1933年1月ヒンデンブルク大統領がヒトラーを首相に任命。3月28日自由な憲法ワイマール憲法から授権法(全権委任法)が成立。立法権を政府が掌握、独裁体制が憲法的に確立。独裁国家が生まれ、ホロコースト(大量虐殺)1941の絶望的な絶滅収容所の光景が生まれる。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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【ホロコースト、絶滅刑務所1941-45】ナチス政権下にあったドイツ、1941年から1945年5月まで、第三帝国において、ユダヤ人虐殺が行われた。ナチズムは右翼全体主義の代表である。ヒトラーは「ユダヤ人こそ我々の敵だ、不幸の原因だ」と叫び、人々の憎しみをあおった。イエス・キリストは救世主。それを認めないユダヤ人は、「キリストを十字架にかけて殺した罪びと」のレッテルを貼られた。ユダヤ人がヨーロッパ社会に同化すれば「優れた人種」であるアーリア人の血が汚される、という極端に歪んだ思想。ヨーロッパに深く根ざしていた反ユダヤ主義を、ヒトラーは政治的に利用した。殺人を目的としたアウシュヴィッツ収容所がナチ占領下のポーランドに作られた。ここで、1941年ヴァンゼー会議の4カ月前にすでに最初の毒ガスでの殺害が行われた。他にも、5カ所の絶滅収容所がポーランドに建設され、ヨーロッパ全土から貨車に詰め込まれたユダヤ人が次々と送りこまれた。命の選別、労働に「利用できるもの」と「利用できないもの」が選別された。絶滅刑務所に、ゾンダーコマンド(ユダヤ人特殊部隊)が働いていた。
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リヒターは、1960年代から、ホロコーストを主題に取り組もうとしたが、2014年にこの作品を完成させた。ビルケナウ、「アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所」。ゾンダーコマンド(ユダヤ人特殊部隊)によって撮影された写真に基づく作品。
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入口を入って左の展示室。この部屋が一つのインスタレーションになっている。
64~67 ビルケナウ
68 ビルケナウ(写真バージョン)
大型の抽象絵画4点1組が向かい合わせで壁にかけてある。
113 グレイの鏡
もう一面の壁に巨大なグレイの鏡のアート、
残る一面の壁に
69 1944年、アウシュヴィッツ強制収容所でゾンダーコマンド(特別労務班)によって撮影された写真、4点のモノクロ写真。
ナチス・ドイツのホロコーストを題材としている。ゾンダーコマンドは収容所内で虐殺された死体を処理する作業に従事した人々。彼らが密かに撮影し隠していた写真が戦後、発見された。沢山、死体を火にかけている光景。
ペインティングの作品はこの写真の絵の上に描いた抽象絵画。
次に抽象絵画の向かいにある原寸大の写真。
グレイの鏡。
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「ビルケナウ」シリーズ2014は、1944年8月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で囚人が隠し撮りしたとされる写真を元に描かれた4点の抽象画である。幅2メートル、高さ2,6メートルの大きな絵で、反対側の壁に4枚の灰色の鏡が向かい合うように設置されている。そして、四隅には小さな白黒写真が。この絵のもととなった4枚の写真だ。
見上げるような角度で捉えられた、木々のシルエット。あわててシャッターを押したような、ブレた写真だ。そして、大きな窓の向こうに立ち上る白煙と何か作業をしている人の影。よく見ると、その足元にあるのは、白い死体の山。河内秀子
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参考文献
河内秀子「ホロコーストを描くことは可能か?――ドイツ人画家、ゲルハルト・リヒターが自作をベルリンのナショナルギャラリーに永久貸与した理由」
【ゾンダーコマンド】NHKスペシャル
ユダヤ人でありながらナチスの大量虐殺に加担させられた「ゾンダーコマンド」と呼ばれた人たち。同胞をガス室へ誘導する役割や死体処理などを担ったユダヤ人特殊部隊「ゾンダーコマンド」のメンバー
NHKスペシャル アウシュビッツ 死者たちの告白 | NHK放送史
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ゲルハルト・リヒター展・・・ビルケナウ、ゾンダーコマンドの苦しみ
https://bit.ly/3c7XDu8
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ドイツ・ドレスデン出身の現代アートの巨匠、ゲルハルト・リヒター(1932-)。リヒターは初期のフォト・ペインティングからカラーチャート、グレイ・ペインティング、アブストラクト・ペインティング、オイル・オン・フォト、そして最新作のドローイングまで、油彩画、写真、デジタルプリント、ガラス、鏡など多岐にわたる素材を用い、具象表現と抽象表現を行き来しながら、人がものを見て認識するという原理に、一貫して取り組み続けてきました。
画家が90歳を迎えた今年2022年、本展では画家が手元に置いてきた初期作から最新のドローイングまでを含む約120点によって、一貫しつつも多岐にわたる60年の画業を紐解きます。
日本では16年ぶり、東京では初となる美術館での個展です。
近年の大作《ビルケナウ》、日本初公開
幅2メートル、高さ2.6メートルの作品4点で構成される巨大な抽象画《ビルケナウ》は、ホロコーストを主題としており、近年の重要作品とみなされています。出品作品のなかでも最大級の絵画作品である本作が、この度、日本で初めて公開されます。
ゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter)
1932年、ドイツ東部、ドレスデン生まれ。ベルリンの壁が作られる直前、1961年に西ドイツへ移住し、デュッセルドルフ芸術アカデミーで学ぶ。コンラート・フィッシャーやジグマー・ポルケらと「資本主義リアリズム」と呼ばれる運動を展開し、そのなかで独自の表現を発表し、徐々にその名が知られるように。
その後、イメージの成立条件を問い直す、多岐にわたる作品を通じて、ドイツ国内のみならず、世界で評価されるようになる。
ポンピドゥー・センター(パリ、1977年)、テート・ギャラリー(ロンドン、1991年)、ニューヨーク近代美術館(2002年)、テート・モダン(ロンドン、2011年)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク、2020年)など、世界の名だたる美術館で個展を開催。現代で最も重要な画家としての地位を不動のものとしている。
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ゲルハルト・リヒター展、東京国立近代美術館、6月7日~10月2日
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