甲斐荘楠音の全貌・・・退廃の美薫る、謎多き画家、東映京都の時代考証家、趣味人、レオナルドの面影
謎の美の本質は何か【デカダンス薫る謎多き「あやしい画家」、東映京都撮影所の時代考証家、趣味人、83歳で死す】甲斐荘楠音(1894-1978)京都市立絵画専門学校にて頭角を現す、竹内栖鳳、菊池契月、に評価される。24歳の時、甲斐荘楠音を高く評価する先輩、村上華岳(1888-1939)に招かれ、「国画創作協会」1918年(大正7)、第1回展に入選、「横櫛」(1916)、岡本神草「口紅」1918とともに、人気を博す。「幻覚 踊る女」(1920)は狂気の舞い。
【女人像、退廃美薫る、謎の美の本質】甲斐荘楠音は14歳の時、レオナルド「モナリザ」に感動した。甲斐荘楠音「横櫛」(1916)「女人像」(1920)、村上華岳「裸婦図」(1920)、の妖しさは、レオナルド「モナリザ」(1503-05)「聖アンナと聖母子」(1510) 下絵 (1405-158)のような両性具有(アンドロギュノス)的な美である。
甲斐荘楠音「春」(1929)は妖艶な美の到達点である。ボッティチェリ『春』1478を意識している。
【東映京都撮影所の時代考証家、趣味人、83歳で死す】1940年、画壇を去る。先輩、村上華岳は、1939死去。太秦の東映京都撮影所にて衣装の時代考証家として活躍、名優・市川右太衛門と甲斐荘楠音がともに作り上げた「旗本退屈男」シリーズの豪華衣裳、『雨月物語』(溝口健二監督・1953年)のために考案。演劇人、茶人、趣味人として生きる。先輩、村上華岳(1888-1939)を越えて83歳まで生きる。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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*【甲斐庄楠音《横櫛》1916】3作ある。
「横櫛1」1915年、楠音21歳のとき、東京の長兄楠香を訪ね、兄嫁彦子らと本郷座で四代目沢村源之助が切られお富を演じる河竹黙阿弥作「処女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)」を観たが、その数ヵ月後に彦子が他界した。直後、兄嫁とともに見た芝居が、京都でも上演される。その翌年に、楠音は彦子をイメージしながら「横櫛」を一週間で描き上げた。顔の色は悪く、死相が現れているようにもみえる。襦袢の衿には天女が、地には炎と竜。死を暗示しているようにも思える。これが京都国立近代美術館所蔵。
「横櫛2」1917年、23歳の楠音は丸岡比呂史のアトリエを訪ねて一緒に制作するようになり、比呂史の妹トクと親しくなって婚約。しかし、許嫁であったトクが甲斐庄を捨てて年長の男と結婚するという事件が起こった。「横櫛1」の背景に「切られのお富」の絵をはめ込んだ。これは、「切られの与三郎」が出てくる「与話情浮名横櫛」を河竹黙阿弥が書換えた狂言「書換処女翫浮名横櫛に出てくる毒婦である。1918年、村上華岳の勧めにより、第1回国画創作協会展にこの「横櫛2」を出品し、入選。(広島県立美術館所蔵)Art & Bell by Tora cardiac.exblog.jp
【退廃の美人画】甲斐庄楠音『横櫛』1916『幻覚(踊る女)』1920『春』2019、『横櫛』1918福富太郎コレクション、北野恒富、『道行』1913福富太郎コレクション、岡本神草『口紅』1918、島成園『おんな』1917『祭りのよそおい』1913、岡田三郎助『ダイヤモンドの女』1908福富太郎コレクション、『あやめの衣』1927、
【甲斐荘楠香、楠音の兄】高砂香料創業者、1880(明治13)年5月生まれ、京都の第三高等学校を経て、楠香は1901(明治34)年に京都帝国大学理工科大学純正化学科に入学、1906(明治39)年には久原躬弦教授のもと助教授になり1910(明治43)年9月、ヨーロッパへ旅立つ。
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【上智と下愚とは移らず】最上の知者は悪い境遇にあっても堕落せず、最下の愚者は、どんなによい境遇にあっても向上しない。《「論語」陽貨》【どんなに地位、名誉、職業が高くても、智慧と慈悲がなければ生きる価値がない】最下の愚者は、向上しない。【最高権力者が最下愚の国】最上の知者は悪い境遇にあっても戦う。
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参考文献
『甲斐荘楠音の全貌、絵画、演劇、映画を越境する個性』図録、日本経済新聞社、2023
池田祐子「さまざまに越境し混交する個性」
梶岡秀一「肌香を聞く」
没後80年記念「竹内栖鳳」・・・竹内栖鳳「班猫」村上華岳「裸婦図」
「あやしい絵展」・・・退廃的、妖艶、エロティック、表面的な「美」への抵抗
「あやしい絵展」図録、毎日新聞社、2021
創業者 甲斐荘楠香物語 - 高砂香料工業株式会社
栗田 勇『女人讃歌―甲斐庄楠音の生涯』新潮社
甲斐荘楠音の全貌・・・退廃の美薫る、謎多き画家、東映京都の時代考証家、趣味人、レオナルドの面影
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展示作品の一部
《幻覚(踊る女)》1920年頃、京都国立近代美術館
《女人像》1920年頃、個人蔵
《横櫛》1916年頃、京都国立近代美術館
《畜生塚》1915年頃、京都国立近代美術館
《春宵(花びら)》1921年頃、京都国立近代美術館
『旗本退屈男 謎の南蛮太鼓』衣裳、東映京都撮影所 ©東映(映画公開:1959年、監督:佐々木康、製作・配給元:東映株式会社、衣裳着用者:市川右太衛門)
『旗本退屈男 謎の幽霊島』衣裳、東映京都撮影所 ©東映(映画公開:1960年、監督:佐々木康、製作・配給元:東映株式会社、衣裳着用者:市川右太衛門)
『旗本退屈男 謎の暗殺隊』衣裳、東映京都撮影所 ©東映(映画公開:1960年、監督:松田定次、製作・配給元:東映株式会社、衣裳着用者:市川右太衛門)
『旗本退屈男 謎の大文字』衣裳、東映京都撮影所 ©東映(映画公開:1959年、監督:佐々木康、製作・配給元:東映株式会社、衣裳着用者:市川右太衛門)
《春》1929年、メトロポリタン美術館、ニューヨーク
「国画創作協会」解散後、甲斐荘が新たな活動の場とした絵画団体「新樹社」。その記念すべき第1回に出品された甲斐荘の意欲作《春》
Purchase, Brooke Russell Astor Bequest and Mary Livingston Griggs and Mary Griggs Burke Foundation Fund, 2019 / 2019.366
《虹のかけ橋(七妍)》1915-76年、京都国立近代美術館
《畜生塚》の前でポーズする楠音、1915年頃、京都国立近代美術館
太夫に扮する楠音、京都国立近代美術館
甲斐荘が『雨月物語』(溝口健二監督・1953年)のために考案し、アカデミー賞衣裳デザイン賞にノミネートされた衣裳もパリのシネマテーク・フランセーズから海を越えて来日
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あやしさを超えて、誰も見たことのない甲斐荘楠音の全貌にせまる
甲斐荘楠音(1894-1978/かいのしょうただおと)は、大正期から昭和初期にかけて日本画家として活動し、革新的な日本画表現を世に問うた「国画創作協会」の一員として意欲的な作品を次々と発表しました。しかし、戦前の画壇で高い評価を受けるも1940年頃に画業を中断し映画業界に転身。長らくその仕事の全貌が顧みられることはありませんでした。本展は1997年以降26年ぶり、東京の美術館では初となる本格的な甲斐荘の回顧展です。これまで知られてきた妖艶な絵画作品はもとよりスクラップブック・写真・写生帖・映像・映画衣裳・ポスターなど、甲斐荘に関する作品や資料のすべてを等しく展示します。画家として、映画人として、演劇に通じた趣味人として――さまざまな芸術を越境する「複雑かつ多面的な個性をもった表現者」として甲斐荘を再定義します。
甲斐荘楠音が携わった時代劇映画
甲斐荘楠音は衣裳・風俗考証家として、日本の時代劇映画の黄金期を支えました。本展に展示される映画衣裳の制作には甲斐荘が携わっています。映画監督・溝口健二をして「甲斐荘君が手伝ってくれると品がよくなる」と言わしめた考証家としての手腕は、伊藤大輔や松田定次ら時代劇映画の名監督たちから厚い信頼を得ていました。本展には、東映京都撮影所に保管されていた往年の映画衣裳の数々が展示されます。名優・市川右太衛門が袖を通した絢爛豪華な衣裳をはじめ、数々の映画資料が甲斐荘の見識や感性を物語ってくれます。
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甲斐荘楠音の全貌、絵画、演劇、映画を越境する個性、東京ステーションギャラリー
2023年7月1日(土)〜2023年8月27日(日)
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