「日本画聖地巡礼 ―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―」・・・速水御舟 『名樹散椿』、美の根拠はどこに
速水御舟、東山魁夷、奥村土牛、日本画家の名作には詩情がある。私が、東山魁夷「京洛四季」(新潮社)を購入したのは、1960年代末だった。今、京都には詩情があるだろうか。
ドラマや映画、アニメ、小説、漫画などにゆかりの地を、作者や作品への思い入れを込めながら訪れることを「聖地巡礼」という。「絵画」でいえば、「風景画」に描かれている景勝の地、「歴史画」に描かれている古戦場などが「聖地」になるのだろうか。日本画専門の美術館である山種美術館の今回の特別展は、「日本画」の「聖地」がテーマ。展示作品と、それにゆかりの土地の情報を並べ、美術館にいながら「聖地巡礼」の旅を辿る。
【速水御舟 『名樹散椿』1929】御舟が描いた五色八重散椿は、加藤清正が朝鮮から持ち帰り、豊臣秀吉により寺に寄進されたという逸話の名木。花の首から落ちる椿を、武士たちは忌み嫌ったとされるが、この椿は、花弁がひとひらずつ散るため珍重された。御舟の描いた樹齢約400年の椿は残念ながら枯れて、その遺伝子を受け継いだ二世の木が椿寺地蔵院の玄関脇に植えられている。(山崎妙子館長) 速水御舟の《名樹散椿》は、京都・椿寺地蔵院の名木「五色八重散椿」をモチーフにした。写真の樹木に比べると御舟が純粋なその姿を造形し、花を強調して描いている。
【東山魁夷『京洛四季』1968】京都の四季を描いた連作「京洛四季」(《春静》《緑潤う》《秋彩》《年暮る》の4作)。連作「京洛四季」20数点は、作家・川端康成の「京都は今描いといていただかないとなくなります、京都のあるうちに描いておいてください」という言葉をきっかけにして生まれた。
奥村土牛『鳴門』。鳴門海峡の渦潮を前に写生を繰り返した。「雄大で神秘的な渦潮を見ていると、描きたいという意欲が抑え難く湧き上がってきた」奥村土牛
【山口華楊『木精』1976】動物画家、山口華楊 によって描かれている、北野天満宮の境内にある欅の根、まるで精霊の触手のように生命力があふれている。根に一羽のミミズクが止まっている。山口華楊は戦前、自庭の小屋に雉や白鷺、ミミズク、鳶などの鳥類のほか、猿、兎、犬などを飼い、観察し、常日ごろから写生した。北野天満宮にある樹齢600年と伝わる大欅「東風」を描いた作品。豊臣秀吉がこの地に御土居(おどい=城壁)を築いた時代には、すでに現在と同じ場所にあった。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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【美の根拠はどこにあるのか】思想が美しいということは、美の根拠である。
【美しい詩の根拠】①内容が深い、②映像が鮮烈、③連想イメージの豊饒、④余韻が深い、⑤思想が高い、高い知性、⑥物語が深い、⑦容姿が美しい。ウィリアム・ブレイク『毒のある木』、宮澤賢治『インドラの網』、藤原定家「夢の浮橋」、プラトン『饗宴』、空海『三教指帰』序文
藤原定家『定家十体』藤原定家著と伝えられる。1213年以前に成立か。和歌を幽玄様・有心様などの一〇体に分類し、例歌を示す。幽玄様 長高様 有心様 事可然様 麗様 見様 面白様 濃様 有一節様 拉鬼様。
『毎月抄』藤原定家、承久元年(1219)中心は、和歌を十体(じってい)に分けて説き、その中心として「有心体(うしんてい)」をたてた点であるが、それは十体の一つであるとともに十体のすべてにもわたるとする。「有心」として説くのは作歌にあたっての観想の深さで、それが表現上に表れていることである。理想的な完成態は「秀逸体」として十体とは別に説かれる。藤平春男。そのほか心詞・花実の論,秀逸体論,本歌取りの技巧,題詠の方法,歌病,詠歌態度などについて説く。
【無心の境地】思想の中に、藝術の中に、美を発見するとき、学問僧は無心の境地になる。思想の書を書き、洗練していくことに没頭するとき、無心の境地に至ることができる。密教の三密、身密、口密、意蜜、の修行に没頭するとき、無心の境地に至る。大谷翔平の技を支える業は、修行僧のようである。秘密の身・口・意の三業。すなわち、仏の身体と言語と心によってなされる不思議なはたらき。また、密教の行者が手に契印を結ぶ身密、口に真言を唱える口密、心に大日如来を観ずる意密。三密加持すれば速疾に顕わる『即身成仏義』(823-824頃)
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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東山魁夷『年暮る』1968年 山種美術館蔵
東山魁夷『春静』1968(昭和 43)年 紙本・彩色 京都鷹峯
東山魁夷『秋彩』1986(昭和 61)年 紙本・彩色
奥山土牛 『鳴門』 1959年 山種美術館蔵
山口華楊『木精』 1976年 山種美術館蔵
速水御舟『名樹散椿』(重要文化財) 1929年 山種美術館蔵
奥田元宋『奥入瀬(秋)』1983(昭和58)年 紙本・彩色
米谷清和『暮れてゆく街』1985山種美術館
五色八重散椿第二世(写真:京都・椿寺地蔵院)
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参考文献
速水御舟『炎舞』『粧蛾舞戯』『名樹散椿』、山種美術館・・・舞う生命と炎と闇
細川家の至宝、珠玉の永青文庫コレクション・・・織田信長「天下布武」と菱田春草「黒き猫」
「日本画聖地巡礼 ―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―」図録2023
「日本画聖地巡礼 ―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―」・・・速水御舟 『名樹散椿』、美の根拠はどこに
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「日本画聖地巡礼 ―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―」
会場:山種美術館(東京都渋谷区広尾3-12-36)
会期:2023年9月30日(土)~11月26日(日)
休館日:月曜休館、10月9日は開館、10日が休館
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