「魂を込めた円空仏」飛騨・千光寺を中心にして・・・清水真澄館長、記者発表会
「魂を込めた円空仏」記者発表会、清水真澄(三井記念美術館館長)の説明を聞きました。2025年1月31日。
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円空は、材となる「樹木」に神仏を観想し、「樹神」の姿を求めて彫刻した。円空は、樹木を「削る」こと自体に仏教儀礼の意味をもたせ、「削り痕」をそのまま残した。
一削りごとに、魂を込め、呪文、名号、真言陀羅尼を唱え、平安時代からの「仏教儀礼」「如法の仏」にならった作法とされる。
山林修行僧、円空の生涯円空(1632-1695)
『近世奇人伝』以外に、伝記は少ない。
円空は1632(寛永9)年、美濃国(現在の岐阜県)に生まれた。64歳で5000体の像を作り終えると、即身仏入定した。山林修行僧としてのみ、理解されてきた。
前衛的な木彫像が現れ、江戸時代の円空像が注目された。
1959年、東京国立近代美術館、「近代木彫の流れ」展
1960年、鎌倉近代美術館、「円空上人彫刻」展
1963年、鎌倉近代美術館、「その後の円空上人彫刻」展
歌僧円空、学問僧円空、真言陀羅尼を唱える円空の側面があり、山林修行僧だけではない。日本の彫刻史において平安時代の樹神信仰すなわち「立木仏」に源を求めることができる。清水真澄(三井記念美術館館長)は結論した。
千光寺の「両面宿儺像」について
両面宿儺は、『日本書紀』に「一つの胴体に二つの顔」「左右の手に剣を、四つの手は弓矢」「天皇の姪に従わず、成敗された」と記載される。
千光寺の両面宿儺坐像(りょうめんすくなざぞう)は、慈悲と忿怒の相を併せ持つ像。円空の両面宿儺は、弓矢の代わりに斧をもつ。斧が樹を伐り、削り跡を残す。両面宿儺像は、円空自身の姿である。
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プレスリリースより
江戸時代の山林修行僧・円空は、愛知、岐阜を中心に関東、北陸、さらに北海道までを巡り、各地に木彫の神仏像いわゆる「円空仏」を多数のこしました。現存するその数は約5000余体ともいわれます。円空は、材となる「樹木」に神仏を観想し、「樹神」の姿を求めて彫刻しました。それは現在ものこる生木に直接鉈を下ろした像高2メートルを越す飛騨・千光寺の金剛力士立像で明らかにされ、日本の彫刻史では平安時代の樹神信仰すなわち「立木仏たちきぶつ」に源を求めることができます。
また円空は、樹木を「削る」こと自体に仏教儀礼の意味をもたせ、「削り痕」をそのままのこしています。それが「円空仏」として今日まで伝えられ、現代彫刻にも通じる造形の魅力にもなっています。
円空が樹木に「樹神」を観 、魂を込めて「削った」神仏像は、奈良時代から伝えられる「飛騨の匠」の伝統を継承する岐阜県の飛騨が最もふさわしい舞台といえます。
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展示構成と主な出品作品
1展示室 樹神とノミの削り痕
円空は、樹木の生木に神仏の「樹神」を観て像を彫刻しました。それは平安時代の「立木仏」に遡り、現在も円空が造立した千光寺の金剛力士立像に見ることが出来ます。「樹神」は、生木を斧で「伐きり」、鉈で「割り」、ノミで「削り」、材となってもそこに留まります。円空は、樹木を「伐り」「割り」「削る」行為と、像の表面に削った「ノミ痕」を露わにすることに、仏教の本質があるとしたに違いありません。
愛染明王坐像 霊泉寺 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
2展示室 柿本人麻呂
柿本人麻呂(664~724)は、7世紀後半の歌人、「万葉集」第一の歌人として知られています。また三十六歌仙の一人で、『古今和歌集』冒頭の紀貫之が記した仮名序文より、「歌の聖」とされています。平安時代末期からは、柿本人麻呂の肖像画を掲げ、和歌を献じて供養する「人丸影供(ひとまるえいぐ)」の歌会が催され、柿本人麻呂は「神格化」されるようになりました。
千光寺に遺されている円空の歌集『袈裟山百首』は、『古今和歌集』からの本歌取が九十首に及ぶとされ、円空にとって、柿本人麻呂は「歌聖」であり「歌の神」でありました。さらに、「人丸影供」の柿本人麻呂像は観音菩薩の応現神であるとされるので、円空が造立した柿本人麻呂像は神像であり観音菩薩であるともいえます。
柿本人麻呂坐像 東山神明神社 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
3展示室 護法神
千光寺(高山市)と飯山寺(高山市)には、総高2メートルを超える同様の構造・像容の作例が現存します。いずれも半裁した丸太を、さらに半分に割り、木心側を像の正面として各部を彫出しています。
護法神立像 千光寺 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
4展示室 慈悲と忿怒の相
仏教は多神教であり、多くの仏が存在します。それらを経典や図像集から身分や役割によって分類すると「如来」「菩薩」「明王」「天」に分けられるのが一般的です。また顔の表情は、「天」の女性神や童子形の像は別にして、「如来」「菩薩」が慈悲相、「明王」「天」が忿怒相に分けられます。しかしながら、円空の像は忿怒相の中にも慈悲がにじみ出てくる像があり、千光寺の両面宿儺坐像(りょうめんすくなざぞう)は、まさに慈悲と忿怒の相を併せ持つ像といえるでしょう。
両面宿儺坐像 千光寺 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
如意輪観音菩薩坐像 東山白山神社 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
不動明王立像及び矜羯羅童子立像・制吒迦童子立像 千光寺 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
不動明王立像 素玄寺 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
4展示室2、観音信仰
観音菩薩は慈悲と救済の菩薩です。『法華経』(『妙法蓮華経』の略称)観世音菩薩普門品第二十五は『観音経』として流布し、中国・日本では観音信仰の典拠となりました。三十三観音信仰は、同経に説かれる観音の三十三応現身の数にあわせて、三十三の観音を集めて総称したものです。
また観音菩薩は、インドのヒンドゥー教の神に倣い、中国で隋・唐時代に多面、多眼、多臂像が造られるようになり、日本では奈良時代に十一面観音、千手観音などの観音菩薩像が造立されました。しかし円空にとって、横に張り出す多臂の像は一木の樹木の制限があるため、多臂の観音像の作例は非常に少ないです。
十一面観音菩薩立像 村上神社
7展示室、龍神と宝珠 法華経』序品第一、第十二提婆達多品
インドの神話の蛇神が仏教に取り入れられると、蛇神が中国で龍になり、龍王、龍神が経典に説話として登場するようになります。また仏伝にも、雨を降らせる、洪水から護るなど水、雨、河などに関わる話が多くあります。
特に『法華経』序品第一の冒頭には、ある時釈迦が王舎城の霊鷲山で『法華経』を説いた時に、会衆として多くの菩薩、十大弟子などとともに八大龍王も参列していることが説かれています。また『法華経』第十二提婆達多品は、八歳の龍女すなわち女人が成仏する話で、宝珠が重要な役を果たしていることが知られています。さらに観音菩薩が宝珠を持つのも、宝珠が菩薩行の象徴ともみなされ、龍と宝珠と観音菩薩の関係が認められます。
なお、円空が描いた『大般若経』見返し絵の中には、龍と宝珠の図が多数登場しており、円空の『法華経』第十二提婆達多品に対する想いもうかがうことができます。
7展示室、宝珠を持つ像
宝珠は、不可思議な功力をそなえた珠、宝石類の総称である摩尼を冠して「摩尼宝珠」といい、「如意宝珠」とも称されます。インドから中国、韓国、日本に伝わり、日本の古代寺院でも塔に安置されました。一方、釈迦の遺骨として篤く信仰されてきた舎利しゃりは、あらゆる願いをかなえる不思議な珠、如意宝珠とみなされるようになりました。
特に密教では舎利と宝珠を同体視するようになり、持物として表すことにより、尊像の効用を象徴する存在になりました。円空像に宝珠を持つ像が多いのは、円空がその意味を十分に理解して、自作の像に宝珠を付したためと思われます。
弁財天立像 飛騨国分寺 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
1・4展示室 白山神と日本の神々
円空は『弥勒寺文書』の『妙法蓮華経』第四帖紙背(自筆)に諸神唱礼文として、「伊勢両太神宮」「八幡大菩薩」「春日大明神」の日本の代表的な三明神のほか、各地の山岳神二十四神の名を記しており、円空の山岳神への篤い信仰が見られます。また円空は、樹木に宿る「樹神」が日本の神祇神じんぎしんだけでなく遠望する山岳の神、さらには民間信仰の神に及ぶとしています。特に円空が生まれ、多くの作例を遺す美濃からは、美濃(岐阜)、加賀(石川)、越前(新潟)にまたがり、古くから霊山として信仰されている白山の姿を拝することができ、多くの白山神像を遺しています。
白山妙理大権現坐像 小川神明神社
5・7展示室 ほとけの世界
仏像の種類は、如来・菩薩・明王・天部など種類も多いですが、円空仏の場合、樹木という材の制限から、手足の多い密教系の像などは少ないことが分かります。現存する円空のほとんどの作例は、銘文などが無いので、尊像名は尊像の特徴である手、足、顔、目などの数や持物、着衣、装身具などから判断して所蔵者、研究者、信仰者が後につけていると思われます。
薬師如来立像 薬師堂
像の表面に削り痕をそのまま残した円空仏は、素朴な力強さのなかに、仏教の慈悲の心を体現したような温かみを感じさせてくれます。本展では、円空が遺した約5000体以上のなかから、傑作として知られる岐阜県千光寺の「両面宿儺像」が日本橋に初登場します。(プレスリリース三井記念美術館)
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参考文献
智慧と慈悲と忿怒と戦闘【東寺、講堂、立体曼荼羅】五智如来、金剛五菩薩、五大明王、四天王、二天【東寺、講堂、立体曼荼羅、21体】五智如来、大日、宝生、阿弥陀、不空成就、阿閦。五菩薩、金剛波羅密、金剛宝、金剛法、金剛業、金剛薩埵。五大明王、不動明王、降三世、軍荼利、大威徳、金剛夜叉。四天王、持国天、増長天、広目天、多聞天。二天、梵天、帝釈天。
【五大明王】「教令輪身」は、仏法に従わない者を忿怒の姿で仏法に敵対する事を力で止めさせる。不動明王 - 大日如来の教令輪身、東 - 降三世明王 - 阿閦如来の教令輪身、南 - 軍荼利明王 - 宝生如来の教令輪身、西方- 大威徳明王 - 阿弥陀如来の教令輪身、北 - 金剛夜叉明王 - 不空成就如来の教令輪身。東寺講堂が創建された承和6年(839年)
【三輪身】密教では三輪身として、一つの「仏陀」が「自性輪身」、「正法輪身」、「教令輪身」(きょうりょうりんじん)という3つの姿で現れる。「自性輪身」(如来)は、宇宙の真理、悟りの境地そのものを体現した姿を指し、「正法輪身」(菩薩)は、宇宙の真理、悟りの境地をそのまま平易に説く姿を指す。これらに対し「教令輪身」は、仏法に従わない者を憤怒姿で脅し教え諭し、仏法に敵対する事を力で止めさせる、外道に進もうとする者はとらえて内道に戻す。
【金剛界曼荼羅の基本となる成身会】金剛界五仏、十六大菩薩、四波羅蜜菩薩、内外の四供養菩薩、四摂菩薩の以上37尊より構成され、これを四大神と賢劫千仏と二十天が囲む。(智拳印)一仏のみで表す他は、中心となる成身会
参考文献
「旧嵯峨御所大覚寺―百花繚乱 御所ゆかりの絵画」・・・嵯峨天皇と空海、運命の美女
http:// mediter ranean. cocolog -nifty. com/blo g/2025/ 01/post -075dfa .html
学問僧、空海 ・・・空海の生涯と思想
http:// mediter ranean. cocolog -nifty. com/blo g/2024/ 05/post -964d84 .html
「魂を込めた円空仏」飛騨・千光寺を中心にして-・・・清水真澄館長、記者発表会
http:// mediter ranean. cocolog -nifty. com/blo g/2025/ 02/post -ac69ef .html
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「魂を込めた円空仏」-飛騨・千光寺を中心にして-
三井記念美術館、東京都中央区日本橋室町2-1-1三井本館7階)
会期:2025年2月1日(土)~3月30日(日)
https:/ /www.mi tsui-mu seum.jp /
http://
学問僧、空海 ・・・空海の生涯と思想
http://
「魂を込めた円空仏」飛騨・千光寺を中心にして-・・・清水真澄館長、記者発表会
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「魂を込めた円空仏」-飛騨・千光寺を中心にして-
三井記念美術館、東京都中央区日本橋室町2-1-1三井本館7階)
会期:2025年2月1日(土)~3月30日(日)
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