フェルメール

2022年2月20日 (日)

フェルメールと17世紀オランダ絵画・・・ドレスデンの思い出

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大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』270回

ハプスブルク帝国の旅、ドレスデン国立絵画館、に行ったのは、1999年夏である。稲妻が光り、雷鳴が鳴る夜のドナウ川クルーズを思い出す。ハプスブルク帝国の美術はバロック美術。オランダの黄金時代は、フェリペ2世に対する反乱からウエストファリア条約まで、1648年10月24日調印の三十年戦争。
【藝術家と運命との戦い】藝術家は悲惨な人生と引き換えに傑作を生み出す。思想家は悲劇的な人生と引き換えに思想と美を生み出す。ミケランジェロは、死の4日前、最後の作品に鑿を入れた。運命に翻弄され88歳で死ぬ。メディチ家ロレンツォの養育を受けプラトン・アカデミーに学ぶ。ルネサンス、ルネサンスの死、教皇の注文制作、ヴィットリアの死、マニエリスム、そして、生死の彼方へ。
【『窓辺で手紙を読む女』1657-59】フェルメール初期の作品。消された画中画キューピッドは、恋愛の象徴。仮面=欺瞞の象徴。真実の愛を探求するテーマか。なぜ、消されたのか。レンブラント風を装って、無名のフェルメールを消した。
【フェルメール 手紙】意中の人からの手紙を読む女、禁じられた恋の匂い。手紙を描いたフェルメール作品は6点ある。『窓辺で手紙を読む女』(1659年)が始まり『婦人と召使』(1668年)、『恋文』(1670)、『手紙を書く女と召使い』(1672)が到達点である。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
【闇の絵画、バロック画家の死】1610年、カラヴァッジョ38歳。1660年、ベラスケス61歳。1640年、ルーベンス62歳。1669年、レンブラント63歳。1652年、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール58歳。1675年、フェルメール43歳。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
――
【フェルメール 21歳で画家、43歳で死す】ヨハネス・フェルメール、1632年デルフトに生まれる。1636年チューリップバブル弾ける。1648年ウエストファリア条約でオランダ独立。1647から6年間、画家修業。1652年、父レイニール死去、宿屋と画商を継承「空飛ぶ孤亭」
【フェルメール、空飛ぶキツネ亭】フェルメールは、デルフトで生まれ生涯を送り11-12人の子を残して1675年、43歳で死す。フェルメールの生家は宿屋「空飛ぶキツネ亭」。キツネ亭主人、父レイニエル・ヤンスゾーン・フォス。フェルメールは20歳の時に結婚。
【フェルメール、風俗画】フェルメール「手紙を書く婦人と召使い」「真珠の首飾りの女」「ワイングラス」「恋文」物欲に溺れる女、食欲に溺れる女、性欲に溺れる女。フェルメールのテーマは、欲望に溺れる女。ペルシャ絨毯とみられる「テーブルクロス」が頻繁に登場する。フェルメールは同じ小道具。黄色のガウン
【フェルメール、空飛ぶキツネ亭】フェルメールは20歳の時に結婚した資産家の妻カタリーナ・ボルネスの実家で暮らし、絵画制作に励む。17世紀オランダで郵便制度が発達、手紙という新しいコミュニケーションの手段が瞬く間に広がる。マルクト広場の1km四方の世界に住む。
【フェルメール、光の表現、柔らかい光】ポワンティエ、光の粒、『牛乳を注ぐ女』。【カメラ・オブスクーラ】アントン・ファン・レーウェンフック、フェルメール『天文学者』『地理学者』、フェルメールの遺産管財人。カメラ・オブスクーラを通して見る映像を描いた。
【フェルメールの師、カレル・ファブリティウス、32歳で死す。】
カレル・ファブリティウス(Carel Fabritius)(1622年2月27日‐1654年10月12日)、レンブラント・ファン・レインの弟子。 アムステルダムのレンブラントの工房で絵を学んだ。1650年代初頭にデルフトへ移り、フェルメールと同時に、1652年にデルフトの画家ギルドに加入。 デルフト爆発事件で、1654年10月12日、デルフトで没す、32歳。今日に残る彼の作品は10点余り。『楽器商のいるデルフトの眺望』 1652年 「帽子と胴鎧をつけた男(自画像)」1654年
【フェルメールの部屋】サルヴァドール・ダリ「アトリエで仕事をするフェルメールを10分でも観察できるなら、私の右腕を切り落としてもいい」ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ「彼の絵には完璧なパレットがある」「フェルメールの絵はドールハウス。のぞき穴から覘いた部屋。
【17世紀オランダ絵画】
【ヤン・ステーン『牡蠣を食べる娘』1660】牡蠣は媚薬。牡蠣を食べる若い娘、艶めかしく蠱惑的で挑発的な視線をみる者に向ける。若い娘が手に取り口へ運ぼうとする<牡蠣>は、17世紀、精力剤(媚薬)として好まれた食材。娘の魅惑的な表情と娘の背後の寝台は艶かしい。マウリッツ・ハイス美術館
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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展示作品の一部
【『窓辺で手紙を読む女』1657-59】フェルメール初期の作品。消された画中画キューピッドは、恋愛の象徴。仮面=欺瞞の象徴。真実の愛を探求するテーマか。なぜ、消されたのか。レンブラント風を装って、無名のフェルメールを消した。
17世紀オランダ絵画
ヤン・ステーン『ハガルの追放』(1655~57頃)
ヘラルト・デル・ポルフ『手を洗う女』(1655~56頃)
ハブリエル・メツー『レースを編む女』(1661~64頃)
レンブラント・ファン・レイン『若きサスキアの肖像』(1633)
ヤーコブ・ファン・ライスダール『城山の前の滝』『牡鹿狩り』(1665~70頃)
ヘリット・ベルクへイデ『アムステルダムのダム広場の眺望』(16700~75頃)
――
★参考文献
フェルメール展、上野の森美術館・・・光の魔術師、オランダの黄金時代の光と影
https://bit.ly/2ElOb4G 
フェルメールからのラブレター展・・・禁じられた恋の匂い
https://bit.ly/2ogjOlc
「フェルメール展-光の天才画家とデルフトの巨匠たち-」東京都美術館(2)・・・光と陰の室内空間
https://bit.ly/2BUKL7Q
ヴィルヘルム・ハンマースホイ、静かなる詩情、国立西洋美術館・・・陽光、あるいは陽光に舞う塵
https://bit.ly/2MN8f3R
ベルリン国立美術館展、フェルメール「真珠の首飾りの少女」・・・物欲と虚栄に溺れる女
https://bit.ly/2N0hSv3
小林頼子「フェルメールの魔法」
小林頼子『フェルメール 作品と生涯』
『フェルメール展 図録』2018
フェルメールと17世紀オランダ絵画・・・ドレスデンの思い出
https://bit.ly/3sPtioB
――
17世紀オランダを代表する画家ヨハネス・フェルメールの《窓辺で手紙を読む女》は、窓から差し込む光の表現、室内で手紙を読む女性像など、フェルメールが自身のスタイルを確立したといわれる初期の傑作です。1979年のX線調査で壁面にキューピッドが描かれた画中画が塗り潰されていることが判明、長年、その絵はフェルメール自身が消したと考えられてきました。しかし、その画中画はフェルメールの死後、何者かにより消されていたという最新の調査結果が、2019年に発表されました。
本展では、大規模な修復プロジェクトによってキューピッドの画中画が現れ、フェルメールが描いた当初の姿となった《窓辺で手紙を読む女》を、所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館でのお披露目に次いで公開します。所蔵館以外での公開は、世界初となります。加えて、同館が所蔵するレンブラント、メツー、ファン・ライスダールなどオランダ絵画の黄金期を彩る珠玉の名品約70点も展示します。東京都美術館
https://www.tobikan.jp/exhibition/2021_dresden.html
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「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」東京都美術館、2月1日(火)~4月3日(日)

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2018年10月14日 (日)

フェルメール展・・・光の魔術師、オランダの黄金時代の光と影

Vermeer2018_1Vermeer_wine_glass大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第159回
初秋の森を歩いて美術館に行く。光の魔術師、フェルメール、淡い光の空間は何を意味するのか。
【フェルメール】ヨハネス・フェルメール(1632‐1675)。フェルメールは、バロックの画家だが、カラバッジョの激情は存在しない。フェルメールは、光の魔術師と呼ばれるが、印象派の光とは異なる。フェルメールの空間構成、色彩設計、画中画の寓意は何を意味するのか。
16世紀スペインの黄金時代から、17世紀オランダの黄金時代へ。王家の宮廷から、富裕層の商人の家へ。フェルメールは、菱川師宣(1618-1694)の同時代人である。
『牛乳を注ぐ女』(1658年)、風俗画に転向した初期作品。台所の召使いが、牛乳をテーブル上の陶器の容器に注ぎ入れている。左の窓から日光が射し込んでいる。リンネルのキャップ、青いエプロン。床に四角い足温器。窓から差し込む柔らかい光。フェルメールは、光の画家とよばれる。
『ワイングラス』(1661-1662年)。ステンドグラスから差し込む淡い光。男にワインを勧められワインを飲む女。椅子の上にリュート。テーブルの上に楽譜。ロマンスの匂い。誘惑を戒める寓意か。
『取り持ち女』(1656年)。娼婦の家を舞台に、女の肩に手をかけ、金貨を渡す男の客。その背後で見守る取り持ち女。
アムステルダム国立美術館は『牛乳を注ぐ女』を「疑問の余地なく当美術館でもっとも魅力的な作品の一つ」とするが、どこが魅力なのか。フェルメールの空間、差し込む柔らかい光。意味のない世界。
【バロック】カラヴァッジョから始まる。カラヴァッジオの光と闇、ベラスケスの宮廷画、ルーベンスの華美な神話画、レンブラントの闇、ラ・トゥールの蝋燭、フェルメールの静謐な空間。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
大久保 正雄『藝術家と運命との戦い』
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『牛乳を注ぐ女』(1658年) アムステルダム国立美術館
ヨハネス・フェルメール『ワイングラス』(1661-1662年頃)ベルリン国立美術館
ヨハネス・フェルメール「真珠の首飾りの女」1662-1665年頃ベルリン国立美術館
ヨハネス・フェルメール「手紙を書く婦人と召使い」1670-1671年頃アイルランド・ナショナル・ギャラリー
「赤い帽子の娘」1665-1666年頃ワシントン・ナショナル・ギャラリー
『取り持ち女』(1656年)ドレスデン国立絵画館
「手紙を書く女」1665年頃ワシントン・ナショナル・ギャラリー
「リュートを調弦する女」1662-1663年頃メトロポリタン美術館
「マルタとマリアの家のキリスト」1556年 スコットランド・ナショナル・ギャラリー
「赤い帽子の娘」は12月20日まで展示。「取り持ち女」は2019年1月9日より公開。
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光と影の画家、フェルメール 21歳で画家、43歳で死す。
ヨハネス・フェルメール(1632-1675)、1632年デルフトに生まれる。1636年チューリップバブルが弾ける。1648年ウエストファリア条約、ミュンスターの和約*でオランダ独立。1647-53年、6年間、画家修業をする。1652年、父レイニール死去、宿屋と画商を受け継ぐ。21歳で画家として出発する。1654年英蘭戦争で敗戦。物語画から風俗画へと転換する。『取り持ち女』(1656年)『牛乳を注ぐ女』(1656-58年)。写実と創作を融合する風俗画を確立。『デルフト眺望』(1660)『絵画藝術』(1666-67)。物語を秘めた緻密な光と陰影の絵画に到達する。『手紙を書く女と召使い』(1672)。ピーテル・クラースゾーン・ファン・ライフェンがパトロンで21点以上を所蔵した。
1672年フランス侵攻。画家活動期間は22年間、32-35点の作品を残す。描いたのは50点と推定される。11-12人の子を残して1675年、43歳で死す。
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カレル・ファブリティウス(Carel Fabritius)、フェルメールの師
カレル・ファブリティウス(1622年2月27日‐1654年10月12日)、レンブラント・ファン・レインの弟子。 アムステルダムのレンブラントの工房で絵を学んだ。1650年代初頭にデルフトへ移り、フェルメールと同時に、1652年にデルフトの画家ギルドに加入。 デルフト爆発事件で、1654年10月12日、デルフトで没、32歳。
今日に残る彼の作品は10点余り。『楽器商のいるデルフトの眺望』 1652年 「帽子と胴鎧をつけた男(自画像)」1654年
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オランダの黄金時代 17世紀 宗教戦争と独立戦争
ネーデルラント諸州の独立戦争である八十年戦争(1568年から1648年)、フェリペ2世に対する反乱からウエストファリア条約まで。アウクスブルクの和議によりスペインから独立。
1602年、オランダ東インド会社設立。世界初の多国籍企業、最初の証券取引場であるアムステルダム証券取引所を設立した株式を財源とした。
【ウエストファリア条約】1648年10月24日調印の三十年戦争(1618-48)終結条約。1645年からドイツのウェストファーレンで開かれた講和会議で、フランス、スウェーデンは領土拡大、神聖ローマ帝国議会への参加権を獲得して国際的立場を強化、逆にハプスブルク家は勢力後退。ドイツ諸侯は完全な領土主権を認められ、神聖ローマ帝国内の分立主義が決定的となった。アウクスブルクの宗教和議の原則がカルバン派にも拡大、オランダとスイスの独立が正式に認められる。
【三十年戦争】ドイツを舞台として1618‐48年の30年間、ヨーロッパ諸国を巻きこんだ、宗教戦争の最後にして最大のもの。ボヘミアで勃発、旧教側にスペイン、新教側にデンマーク・スウェーデン・フランスが加担し国際戦争に発展。ドイツは荒廃し、ウェストファリア条約で終結。
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【フェルメール 手紙】意中の人からの手紙を読む女、禁じられた恋の匂い。手紙を描いたフェルメール作品は6点ある。『窓辺で手紙を読む女』(1659年)が始まり『婦人と召使』(1668年)、『恋文』(1670)、『手紙を書く女と召使い』(1672)が到達点である。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
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展示作品の一部
ヨハネス・フェルメール「マルタとマリアの家のキリスト」「ワイングラス」「牛乳を注ぐ女」1658「リュートを調弦する女」「手紙を書く女」「真珠の首飾りの女」「赤い帽子の娘」「手紙を書く婦人と召使い」1672「取り持ち女」1656「恋文」1669-1670年頃
17世紀のオランダ絵画
ハブリエル・メツー「手紙を読む女」1664〜1666年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー
ハブリエル・メツー「手紙を書く男」
ピーテル・デ・ホーホ「人の居る裏庭」1663〜1665年頃 アムステルダム国立美術館
ヘラルト・ダウ「本を読む老女」1631〜32年頃 アムステルダム国立美術館
ヤン・ステーン「家族の情景」
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★参考文献
フェルメールからのラブレター展・・・禁じられた恋の匂い
https://bit.ly/2ogjOlc
「フェルメール展-光の天才画家とデルフトの巨匠たち-」東京都美術館(2)・・・光と陰の室内空間
https://bit.ly/2BUKL7Q
ヴィルヘルム・ハンマースホイ、静かなる詩情、国立西洋美術館・・・陽光、あるいは陽光に舞う塵
https://bit.ly/2MN8f3R
ベルリン国立美術館展、フェルメール「真珠の首飾りの少女」・・・物欲と虚栄に溺れる女
https://bit.ly/2N0hSv3
小林頼子「フェルメールの魔法」
小林頼子『フェルメール 作品と生涯』
『フェルメール展 図録』2018
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日本美術展史上、最大の「フェルメール展」を開催。「光の魔術師」とも称されるフェルメールの、わずか35点とされる希少な現存作品のうち、国内過去最多の8点を展示。
オランダ絵画黄金時代の巨匠ヨハネス・フェルメール(1632-1675)。
国内外で不動の人気を誇り、寡作でも知られ現存作はわずか35点とも言われています。
今回はそのうち8点を展示。日本美術展史上最大のフェルメール展を開催いたします。
日本初公開を含むフェルメールの作品のほか、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンらの傑作を含む約50点を通して、17世紀オランダ絵画の広がりと独創性をご紹介します。
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★「フェルメール展」上野の森美術館、10月5日-2019年2月3日
http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=857636
大阪市立美術館、2019年2月16日(土)-5月12日(日)
大阪市立美術館は、フェルメールは6作品。「恋文」が出展される。

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2012年7月24日 (火)

マウリッツハイス美術館展、フェルメール『真珠の耳飾りの少女』・・・ヤン・ステーン「牡蠣を食べる娘」

Mauritshuis2012大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
ふり向く少女、真珠の耳飾り、青いターバン、みつめる目のまなざし、濡れた唇、振りむく一瞬、唇からことばを言いかけているようである。すべては謎である。意味不明である。ラピスラズリを原料とするウルトラマリンが美しい。
『真珠の耳飾りの少女』(Het meisje met de parel, Girl with a Pearl Earring)『青いターバンの少女』は、1665年~1666年、フェルメール33歳から34歳の頃の作品。
フェルメール(1632年-1675年)は、妻と11人の子供を残して、42または43歳で没した。カレル・ファブリティウスの弟子という説がある。ピーテル・デ・ホーホとともにデルフト派と呼ばれる。
フェルメールの絵画は、緻密な室内空間の描写、物質の質感、窓から差し込む光が、特質である。意味を失った寓意画、室内画が、冷たい写実によって生み出されている。『真珠の耳飾りの少女』は、グイド・レーニ『ベアトリーチェ・チェンチの肖像』(1599年)に似ているといわれる。
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物欲に溺れる女、食欲に溺れる女、性欲に溺れる女。フェルメールのテーマは、欲望に溺れる女である。ヤン・ステーン「牡蠣を食べる娘」の若い娘の世界である。
■展示作品の一部
ヤーコプ・ファン・ライスダール「漂白場のあるハールレムの風景」
メインデルト・ホッペマ「農家のある森」
ヤン・ボト「イタリア風の風景」
ペーテル・パウル・ルーベンス「聖母被昇天」(下絵)
フランス・ハルス「笑う少年」1625年頃
レンブラント・ファン・レイン「自画像」1669年頃
レンブラント「スザンヌ」
レンブラント「シメオンの賛歌」
ヤン・ブリューゲル(父)「四季の精から贈り物を受け取るキュベレと、それを取り巻く果実の花輪」
アーレント・デ・ヘルデルの「シメオンの賛歌」
ヘラルト・テル・ボルフ「手紙を書く女」1655年頃
ピーテル・クラースゾーン「ヴァニタスの静物」
ファブリティウスの「ごしきひわ」
ヤン・ステーン「親に倣って子も歌う」1668-1670年頃
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ヤン・ステーン「牡蠣を食べる娘」Jan Steen: Oestereetstertje 1656-1660年頃 マウリッツハイス美術館
牡蠣は媚薬
牡蠣を食べる若い娘。艶めかしく蠱惑的で挑発的な視線をみる者に向ける。若い娘が手に取りへ運ぼうとする<牡蠣>は、17世紀、精力剤(媚薬)として好まれた食材。娘の魅惑的な表情や娘の背後の寝台は艶かしい。観る者にエロティックな連想を抱かせる。ヤン・ステーンは、女性画、女性の愛の絵画を、得意としている。
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17世紀のオランダやフランドルは、西洋美術史に大きな影響を及ぼした巨匠たちを、数多く輩出しました。本展では、17世紀オランダ・フランドル絵画の世界的コレクションで知られるオランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館から、名品48点を選りすぐって紹介します。最晩年の「自画像」をはじめ一挙に6点が並ぶレンブラントは壮観です。そのほか、フランス・ハルス、ルーベンス、ヤン・ブリューゲル(父)ら、巨匠たちの息もつかせぬ傑作の数々を堪能する格好の機会です。
17世紀オランダ・フランドル絵画
17世紀初頭、オランダは新教国としてスペインから独立し、世界的な海洋貿易を背景に未曽有の繁栄を謳歌します。新興の市民階級は絵画の新たな買い手となり、鑑賞に教養を要する宗教画や歴史画よりも、親しみやすい風俗画、風景画、静物画などを好みました。この時代は、レンブラントやフェルメールら多数の巨匠が輩出し、オランダ絵画の黄金時代と呼ばれています。
一方、現在のベルギーを中心とするフランドル地方でも、バロックの巨匠ルーベンスやヴァン・ダイクが活躍しました。オランダとは異なり、カトリック勢力の最前線であったことから、祭壇画など大規模な宗教画も多数残されました。
オランダの政治的中枢を担う第3の都市ハーグの中心地に位置し、所蔵作品は約800点と小規模ながら、選りすぐりの名品を所蔵し、「王立絵画館」の呼称で親しまれています。なかでも、世界にわずか三十数点しか現存しないフェルメール作品を3点所有するなど、17世紀オランダ・フランドル絵画の質の高さは比類のないものです。
「マウリッツ」の名は、代々オランダ総督を務め、のちに王室となるオラニエ家の傍系、ナッサウ伯ヨーハン・マウリッツ(1604-79)に由来します。ヨーハン・マウリッツは、当時植民地だったオランダ領ブラジル総督を務めた人物で、その邸宅が1822年から美術館として使われています。火災に遭いながらも、外観は17世紀に建設された当時の面影を残しています。優美な古典主義様式と個人邸宅の親しみやすさとが相まって、コレクションと見事な調和を果たしているのが特徴です。
マウリッツハイス美術館では、本展を開催する2012年から大規模な増改築工事がスタートします。リニューアルオープンは、2014年ごろを予定しています。
http://www.asahi.com/mauritshuis2012/
http://www.tobikan.jp/museum/2012/mauritshuis2012.html
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■マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝 東京都美術館
Masterpieces from the Royal Picture Gallery Mauritshuis
2012(平成24)年6月30日(土)~9月17日(月)

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2012年6月26日 (火)

ベルリン国立美術館展、フェルメール「真珠の首飾りの少女」・・・物欲と虚栄に溺れる女

Berlin2012大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
真珠の首飾りを眺める女は、物欲に溺れている。真珠は物欲と虚栄の象徴である。窓から差し込む淡い光に包まれた静謐な空間と佇む女。フェルメール絵画の形式である。ここには高貴な神秘性は存在しない。そこには世俗的な寓意が込められている。
左から光が差す室内に立つ女性、フェルメールの典型的なパターンである。髪にリボン、耳に真珠のイヤリングを付けた女性は、真珠のネックレスに付けたリボンを持ち上げ、左の壁に掛かった鏡を見つめている。鏡、宝石のモチーフは伝統的に虚栄を表す。背景は白い壁。女性の着ている白い毛皮の襟のついた黄色のサテンのコートは『手紙を書く女』『婦人と召使』他の作品に登場する常套の小道具である。死後、財産目録に記録されている。
★フェルメール「真珠の首飾りの少女Woman with a pearl necklace」ベルリン国立美術館、1662-1665年
Johannes Vermeer (1632–1675)
■展示作品
1480年頃 エルコレ・デ・ロベルティ《洗礼者聖ヨハネ》
1490年頃 ティルマン・リーメンシュナイダー《龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス》
1490 年頃 ベルナルディーノ・ピントゥリッキオ《聖母子と聖ヒエロニムス》
1460 年頃 ドナテッロの工房《聖母子とふたりのケルビム》
1450 年頃 ルーカ・デッラ・ロッビア《聖母子》
1526年 アルブレヒト・デューラー《ヤーコプ・ムッフェルの肖像》
1533年頃 ルーカス・クラーナハ(父)の工房《マルティン・ルターの肖像》
1533年 ルーカス・クラーナハ(父)《ルクレティア》
1616-1620年頃 ディエゴ・ベラスケス《3人の音楽家》
1650–1653年頃 ルーカ・ジョルダーノ《エウクレイデス》
1650–1653年頃 ルーカ・ジョルダーノ《アルキメデス》
1650–1655年頃 レンブラント派《黄金の兜の男》
1662-1665年頃 ヨハネス・フェルメール《真珠の首飾りの少女》
1670-1680年頃 ヤーコプ・ファン・ロイスダール《滝》
1480-95年頃 サンドロ・ボッティチェッリ 《ダンテ『神曲』「煉獄篇」挿絵素描より:愛の原理を説くウェルギリウス(第17歌)》
1480–1495年頃 サンドロ・ボッティチェッリ《ダンテ『神曲』「煉獄篇」挿絵素描より:地上の楽園、ダンテの罪の告白、ヴェールを脱ぐベアトリーチェ(第31歌)》
1490–1495年頃 ルーカ・シニョレッリ《人物を背負うふたりの裸体像》
1503–1504年頃 ミケランジェロ・ブオナローティ《聖家族のための習作》
――――――――――
 本展は、ベルリン国立美術館のうち、絵画館、彫刻コレクション及び素描版画館からイタリアや北方の絵画と彫刻、さらには優れたイタリア素描の傑作を集めて企画されています。一見すると美術史の概説的な展覧会に見えるかもしれません。実際、ベルリン美術館のコレクションの規模は百科全書的な規模で、ヨーロッパ美術の通史を概観するには余りある内容と規模を誇っています。しかし、その背後には非常に重要な意図が隠されています。
 19世紀にプロイセン帝国の首都ベルリンに国立美術館・博物館が誕生してから、プロイセン帝国の美術品コレクションは、その強大な経済力を背景として次第に類を見ない規模となり、国家的作品蒐集事業は、ヨーロッパ各国の美術館・博物館制度の範となりました。
 本展は15世紀から18世紀までのヨーロッパ美術を、イタリアと北方の美術を比較しながら観ることのできる展覧会です。そこには絵画のみならず、 15~16世紀のドイツを代表するリーメンシュナイダーの木彫や、フェルメール、さらにはベルリン素描版画館の誇るボッティチェッリの素描など、優れた作品が出品されます。
 ベルリン国立美術館は、プロイセン帝国時代の国家事業として人類学的観点からの作品蒐集と研究の時代を経た後、二度にわたる大きな戦争に翻弄されながら、戦争を乗り越え、東西ドイツの統一を果たした今、新たな未来を見据えて生まれ変わろうとしています。
――――――――――
■フェルメール「真珠の首飾りの少女」ベルリン国立美術館展、国立西洋美術館
「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」
http://www.berlin2012.jp/
国立西洋美術館2012年6月13日(水)~9月17日(月・祝日)
九州国立博物館2012年10月9日(火)~12月2日(日)

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2011年12月30日 (金)

フェルメールからのラブレター展・・・禁じられた恋の匂い

Vermeer2011Ver20111Vermeer20111_2大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より 
ラブレター(恋文)、女が意中の人に秘かに書く手紙。禁断の恋、背徳の匂い。禁じられた愛こそ、真実の愛。この世における愛の極致は、秘められた愛である。真実は秘められている。女と男を結ぶラブレターを運ぶ女召使いがいる。忍ぶ恋と色に出る恋の間に恋文がある。「しのぶれど色に出にけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで」(平兼盛)。「戀の極意は忍戀と見立候。一生忍んで思ひ死する事こそ戀の本意なれ」(『葉隠』)三島由紀夫は、忍ぶ恋こそ恋の極意、恋の本質であると考えた。
フェルメール『恋文』(1670アムステルダム国立美術館)は、壁面の海の絵画は堕罪と許されざる愛を暗示し、開かれた窓は外界への憧れを暗示していると解釈される。フェルメールの白と黒の床面は日常世界の象徴か。恋文の女は、愛と奔放と自由への憧れを意味し、寓意画の世界では淫蕩と堕落の象徴である。
【手紙を受け取り、読み、書く女性】は、フェルメールの得意の主題の一つである。「手紙を書く女と召使い」の床に転がる書き損じた手紙とろうそくと赤い蜜蝋と壁の絵画、「手紙を読む青衣の女」のウルトラマリンブルーと壁面の世界地図、「手紙を書く女」のサテンのリボンと真珠の首飾りと白甜の毛皮で縁取られた黄色い上着と壁面の絵画、フェルメールの絵画は記号を解読する世界に誘う。【手紙の女】手紙を描いたフェルメール作品は6点ある。
フェルメール『恋文』(1670アムステルダム国立美術館)、『窓辺で手紙を読む女』(1657年から1659年)、『婦人と召使』(女主人と女中)(1667年から1668年フリック・コレクション)『手紙を書く女と召使い』(1672)が最後である。
フェルメールの淡い光と静謐な空間のなかで、女の禁断の情念が展開する。
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主な展示作品
★ヨハネス・フェルメールJohannes Vermeer
「手紙を書く女と召使い」"A Lady Writing a Letter with her Maid"
1670‐72年頃  油彩・キャンヴァス
アイルランド・ナショナル・ギャラリー、ダブリン National Gallery of Ireland, Dublin, Sir Alfred and Lady Beit Gift, 1987(Beit Collection)
★ヨハネス・フェルメールJohannes Vermeer
「手紙を読む青衣の女」"Girl Reading a Letter"
1663-64年頃  油彩・キャンヴァス
アムステルダム国立美術館、アムステルダム市寄託 Rijksmuseum, Amsterdam. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)
★ヨハネス・フェルメールJohannes Vermeer
「手紙を書く女」"A Lady Writing"
1665年頃  油彩・キャンヴァス
ワシントン・ナショナル・ギャラリーNational Gallery of Art, Washington, Gift of Harry Waldron Havemeyer and Horace Havemeyer, Jr. , in memory of their father, Horace Havemeyer.
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「フェルメールからのラブレター展」
コミュニケーション:17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ
オランダ黄金期の巨匠、ヨハネス・フェルメール。精緻な空間構成と独特な光の質感をあわせもつ作品群は、今なお人々を魅了してやみません。現存する30数点のフェルメール作品のなかでも、日常生活に密やかなドラマをもたらす手紙のテーマは、重要な位置を占めています。本展は日本初公開となる《手紙を読む青衣の女》をはじめ、《手紙を書く女》、《手紙を書く女と召使い》の3作品が一堂に会するまたとない機会です。さらに、同時代に描かれた、人々の絆をテーマにした秀作も併せて紹介し、人物のしぐさや表情、感情の動きに注目することで、17世紀オランダ社会における様々なコミュニケーションのあり方を展観していきます。Bunkamuraザ・ミュージアム
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2011年から2012年、4つのフェルメール展。
★「フェルメールからのラブレター展」コミュニケーション:17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ
Bunkamuraザ・ミュージアム
http://www.bunkamura.co.jp/museum/
2011年3月3日(木)~5月14日(水)
*1月1日のみ休館 開館時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)
毎週金・土曜日21:00まで(入館は20:30まで) *12月30、31日を除く
公式サイト 
http://vermeer-message.com
★「ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年」
国立西洋美術館
http://www.nmwa.go.jp/
2012年6月13日(水)~9月17日(月・祝日)
九州国立博物館(福岡・太宰府)2012年10月9日(火)~12月2日(日)
公式サイト 
http://www.berlin2012.jp/
★「マウリッツハイス美術館展」オランダ・フランドル絵画の至宝
2012年6月30日(土)~9月17日(月・祝)
東京都美術館 企画展示室(東京・上野公園)
※2012年9月29日(土)~2013年1月6日(日)神戸市立博物館にも巡回します。
公式サイト
http://www.asahi.com/mauritshuis2012/
★「フェルメール≪地理学者≫とオランダ絵画展、シュテーデル美術館所蔵」
Bunkamuraザ・ミュージアム、2011年12月23日(金・祝)~2012年3月22日(日)

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2008年11月28日 (金)

「フェルメール展-光の天才画家とデルフトの巨匠たち-」東京都美術館(2)・・・光と陰影の室内空間

Vermeer20082Vermeer20081Vermeer_little_street_1658大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より 
光と陰影の画家と呼ばれるフェルメールは、一瞬に永遠の時間が凝縮されたような空間、光の美しさを描き出したといわれる。「手紙を書く婦人と召使い」に、フェルメールの後期絵画の到達点の一つがある。しかし、フェルメールの「光と陰影の空間」には意味があるのか。人間が生きる空間の意味は何か。『牛乳を注ぐ女』の空間に意味はあるのか。意味の解体がフェルメールの意図か。
フェルメールの絵は、世界に35枚、オランダにも7枚しかないが、フェルメール展には、宗教画、神話画、寓意画、風景画、室内画の領域におよぶ、7枚の絵が展示されている。
■寓意画から光と陰影の空間へ
1.「マルタとマリアの家のキリスト」(Christ in the house of Martha and Mary,1654-55年160×142cmスコットランド国立美術館):フェルメールの2枚ある宗教画の1枚。イエスの言葉に耳を傾けているのがマリア。テーブルにパンを用意してイエスに苦言を呈しているのがマルタ。(cf.ルカによる福音書10章38~42節)椅子にIVMeerという署名がみえる。キリストの右示指など修正の跡が見えるといわれる。

2.「ディアナとニンフたち」(Diana and her companions,1655-56年97.8×104.6cmマウリッツハイス王立美術館):フェルメール唯一の神話画。頭に小さな三日月の飾りをつけたディアナ(狩猟の女神)の足の手入れをするニンフの他に3人のニンフとディアナが連れている1匹の犬が描き込まれている。色彩は黄色や赤色が美しい。ヴェネツィア派のように色鮮やかである。

3.「小路」(The little street,1658年頃53.5×43.5cmアムステルダム国立美術館):奥に立っている女性は白い消毒用の石灰を撒いている。建物の入口では老婆が編み物(縫い物)をしている。道端で遊ぶ二人の子供。4人の人物、白い壁、開いた赤い鎧戸、閉まった薄緑の鎧戸、通路、窓、空に雲が浮かぶ。すべての構成要素が調和している。デルフトのどの建物を描いたのか分からないが、空想で描かれたものではない。モデルがない風景画は存在しない。実物の絵を見ると、曇り空である。

4.「ワイングラスをもつ若い女」(The girl with a wine glass,The girl with Two Men,1660年頃77.5×66.7cmブラウンシュバイク、ヘルツォーグ・アルトン・ウルリッヒ美術館):女にワインを勧める好色な紳士と目を大きく開けて困惑して笑っている娘、そして肘を着いて横を見ている憂鬱な男。ステンドグラスには片手に直角定規、片手に馬の手綱と轡(欲望の統制を意味する)を持つ「節制」の寓意像が表され、女性の行為に警告を発している。「節制」の寓意といわれる。背景の画中画は、男が視線を若い女に向けている。ベルリン国立美術館に類似の「紳士とワインを飲む女」がある。この作品は女性が下品に見える。

5.「リュートを調弦する女」(Woman with a Lute near a Window, 1664年頃51.4×45.7cmメトロポリタン美術館):左手で糸巻きを調節しながら、音程を調整している。左の窓から差し込む淡い光の表現が巧妙である。机上には楽譜集、床の上に本が見える。女主人の耳飾りとネックレスが目立つが、髪がちりじりに乱れている。或るひは、女の髪ははげている。壁に掛けられた地図には、船が描き込まれている。女性は、黄色い毛皮のショールを纏っている。壁の地図の意味するところはない。カラバッジョの作品に「リュートを弾く人」(Caravaggio,Lute player, c1597)がある。カラバッジョの影響をフェルメールの初期作品は受けているといわれる。楽器を演奏する女、手紙を書く女、のモチーフが、フェルメールには多い。

6.「手紙を書く婦人と召使い」(Lady Writing a Letter with Her Maid,1670年頃72.2×59.7cmアイルランド国立美術館、ダブリン):これは「絵画藝術」(Allegory of Painting, 画家のアトリエ1666年頃120×100cm)ウィーン美術史美術館が、急遽キャンセルされ代わりに出展が決まった。「絵画藝術」は1999年、美術史美術館で見たが、数万点の絵画の中に埋もれている。私はダブリンに行くことはないだろう。
ここに、フェルメール後期の絵画の到達点の一つがある。左の窓から差し込む光の表現が絶妙である。この画の光と影は淡く美しい。色彩はやや暗い。手紙を描く女性、立って待っている女召使。そして床に赤い封印、棒状の蜜蝋、書きかけて捨てられた手紙、壁には画中画「モーゼの発見」(「川から救い上げられるモーセ」)が描かれている。この作品今まで二度、盗難されている。1972年にIRAによって盗まれた(一週間後に無事発見)。1986年に再度盗まれ、1993年まで発見さなかった。
所蔵者のアルフレッド・ベイトは、ダブリンの邸宅に展示してあったこの絵をこの後現在あるアイルランド国立美術館に寄贈した。女主人は、例の黄色い毛皮のショールを纏っている。

7.「ヴァージナルの前に坐る若い女」(A Young Woman Seated at the Virginals個人蔵):ルーブルの「レースを編む女」と同じサイズ。この作品がフェルメールのものであると認定されたのは2005年。カンバス地、ラピスラズリの使用など他のフェルメールの作品と共通するものであることがその根拠である。この調査にはサザビースが関与した。女性の表情、首飾り、髪飾り、そして黄色のショールはいずれもフェルメール的でないように思われる。メーヘレン他の贋作である可能性が高い。(3)につづく。
■「フェルメール展~光の天才画家とデルフトの巨匠たち~」東京都美術館、2008年8月2日-12月14日、Vermeer and the Delft Style
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2008年11月26日 (水)

「フェルメール展-光の天才画家とデルフトの巨匠たち-」東京都美術館(1)・・・絵画の意味

Vermeer_07stree 夏の夕暮れ、せみ時雨の森を歩いて、美術館に行った。フェルメール「小路」の空の色を見た。「小路」の空は、曇りである。この時、西洋美術館ではコロー展が開かれていた。今、枯葉が舞い、ハンマースホイ展が開かれている。フェルメールの絵画は光の絵画といわれるが、その意味は何か。移ろう季節の中で、考え続けている。
■フェルメール、謎の生涯と絵画
ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer, 1632-1675)は工房を構えず、自宅のアトリエで、1人で制作していた。家族は、妻との間に子供が10人(14人の子供が生まれたが、そのうちの4人が死亡)。貧困のうちに43才で没した。その翌年、妻は、破産宣告する。
フェルメールの画家としての師については、デルフトで活躍していた画家、カレル・ファブリティウス(Carel Fabritius、1622-1654)に師事していたという説がある。フェルメールの作品は、宗教画が多い初期の作品においては、ユトレヒトのカラヴァッジョ派の影響があるといわれる。
宗教画、神話画の人物を描いていたフェルメールは、『取り持ち女』(遣り手婆The Procuress1656年)以降、風俗画に転じる。風俗画は、教訓的意味が込められており、寓意画である。風俗画(寓意画)からさらに転じて、寓意的な意味を失って、室内画・都市景観画に到達する。「小路」「デルフトの眺望」以外は、室内の画である。
フェルメールの絵は「静謐な空間」といわれ、絵の中に別もう一つの時間が流れているような永遠性がある、ラピスラズリの青が美しい、と言われる。光と物質の質感を表わす技術は最高の技術であることはいうまでもない。だが、「空間に射す光」が意味するものは何か。

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ヨハネス・フェルメール(1632-1675)は、オランダのハーグ近くのデルフトという小都市に生まれました。彼がその生涯で残した作品は、三十数点。この作品の少なさと、光を紡ぐ独特の技法の美しさから、彼は光の天才画家といえるでしょう。
フェルメールの作品が展覧会へ出品されることは、ほとんどありません。しかし 2008年、日本との修好150周年を記念する欧米各国の多大なるご尽力により、フェルメールの作品を中心に、オランダ絵画の黄金期を代表するデルフトの巨匠たちの絵画を一堂に集めた奇跡の展覧会が実現することになりました。
出品されるフェルメールの作品は、光に満ちた美しい空間を描いた風俗画の傑作《ワイングラスを持つ娘》、現存する 2 点の風景画のうちの 1 点《小路》、近年フェルメール作と認定され大きな話題となった《ヴァージナルの前に座る若い女》、晩年の優品《手紙を書く婦人と召使い》、《マルタとマリアの家のキリスト》、《ディアナとニンフたち》、《リュートを調弦する女》の一挙 7 点です。
このほかレンブラントに天才と称され、フェルメールの師であるとの説もあるカレル・ファブリティウス (1622-1654) や、デルフトに特有の技法を確立させたピーテル・デ・ホーホ (1617-1683) など、世界的にもごく稀少で非常に評価の高いデルフトの巨匠の作品も合わせて、38点が展示されます。
デルフトの芸術家による名作がこれほど一堂に集うことは、本国オランダでも希有であり、この奇跡の展覧会は、私たちにとってまさに一生に一度しかめぐり合えることのない機会といえるでしょう。
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■「フェルメール展~光の天才画家とデルフトの巨匠たち~」東京都美術館、8月2日-12月14日、Vermeer and the Delft Style
http://www.asahi.com/ad/clients/vermeer/index.html

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2007年12月 1日 (土)

「フェルメール展」2008年8月2日~12月14日、東京都美術館

2008年「フェルメール展」がまた開催されます。朝日新聞2007年12月1日に記事あり。フェルメールは、完全に商品化されています。
 「独特な光の質感を用いたあたたかな作風や現存する作品の少なさなどで知られる17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメールの作品を中心に紹介する「フェルメール展」(仮称)が、来年8月から上野の東京都美術館で開かれる。
 本展覧会では、「小路(The Little Street)」(アムステルダム国立美術館蔵)や「ワイングラスを持つ娘(TheGirl with the Wineglass)」(ヘルツォーク・アントン・ウルリッヒ公美術館蔵)など日本初公開3点を含むフェルメールの作品6点以上を展示予定です。日本で一度に紹介されるフェルメールの作品数としては過去最多となります。世界中に三十数点しか現存しないフェルメールの作品をまとめて見られる機会は少なく、またとない貴重な機会となります。
 また、フェルメールが生まれ育ったオランダの小都市デルフトを中心に活躍した画家たち、カレル・ファブリティウスやピーテル・デ・ホーホらの作品も公開予定です。フェルメールの芸術をはぐくんだ17世紀中葉の「デルフト・スタイル」の潮流を見ることができます。」朝日新聞asahi.com2007年11月30日
cf.「フェルメール展」http://www.tbs.co.jp/vermeer/

2007/12/01

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「フェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」国立新美術館・・・フェルメール展コンサート

Vermeer_2007Johannes_vermeer__de_melkmeid大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
図書館に行き、乃木坂に行く。夕暮れの美術館に行くと、ロビーでコンサートのリハーサル中。
展示室から出てくるとコンサートが始まる。17世紀のバロック音楽の古楽器によるコンサート、リコーダー、チェンバロ、リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ。上野学園大学の先生たちによる演奏で、太田光子(リコーダー)、戸﨑廣乃(チェンバロ)、金子浩(リュート)、櫻井茂(ヴィオラ・ダ・ガンバ)。
 J.B.ルイエ『ソナタ第3番』他、甘美な音楽を演奏している。ルネサンスの音楽、ゼフィレッリ『ロミオとジュリエット』、『恋に落ちたシャイクスピア』の音楽を思い出す。 偶然、聴くことができ僥倖、「『鳥獣人物戯画絵巻』の全貌」に行こうと思っていたが、取り止める。 
 古楽はホグウッド指揮エンシェント管弦楽団、ヤープ・シュレーダー(Vn)、バッハ「ヴァイオリン協奏曲第1番2番、2つのヴァイオリンのための協奏曲」が美しい。

 「君はフェルメールを見たか」(『Brutus』1996.8/15.9/1号)で全作品が紹介されたころから、フェルメールが流行っている。
 人がフェルメールを見たがる理由は何か。「フェルメールのどこがいいのですか」多くの人にこの問いを聞いているが、明確な答は返ってこない。ラピスラズリのブルー。写実主義。近代的な光。「それが何故いいのですか」

 私は決して「フェルメール全点踏破の旅」には出ないだろう。私は「失われたレオナルドの作品探求の旅」に出たい。2007/11/30
――
スペインからの独立を果たした17世紀のオランダでは、未曾有の経済的発展を背景に、富裕な市民階級が台頭しました。現実的な生活感覚を有する市民たちの趣味は美術の分野にも反映され、風景画や静物画と並んで、日常生活の情景を描き出した風俗画が流行します。
本展は、オランダ美術の宝庫として知られるアムステルダム国立美術館の膨大なコレクションから、ヨハネス・フェルメール、ヤン・ステーンなどオランダ17世紀を代表する画家たちの作品や、外光と大気の表現に鋭い感性を示した19世紀のハーグ派の画家たちの写実的な作品など、油彩画40点、水彩画9点、版画51点を厳選して、17世紀初めから19世紀末までのオランダ風俗画の多様な展開を紹介します。加えて、豪華な工芸品16点の展示により、オランダ上流市民の豊かな暮らしぶりをうかがいます。
また、本展で特筆すべきは、フェルメールの代表作のひとつ《牛乳を注ぐ女》が、日本初公開されることです。台所の片隅で家事労働にいそしむ使用人の女性が、堂々たる存在感と永遠性を持って描き出されたこの作品は、30数点しか現存しないフェルメールの作品のなかでも、とりわけ高く評価されてきました。同じく台所を主題にした他の画家たちの風俗画も数多く出品される本展は、《牛乳を注ぐ女》の特質、それが生み出された背景、その後の風俗画に与えた影響などを明らかにする、またとない機会となるでしょう。また、リュートなどの古楽器(*)を展示するとともに、フェルメールの画業を紹介するコーナーも設けます。ぜひご覧ください。

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アムステルダム国立美術館所蔵 フェルメール「牛乳を注ぐ女」とオランダ風俗画展、国立新美術館 2007年9月26日(水)〜12月17日(月)         
http://www.nact.jp/exhibition_special/2007/vermeer/ 

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