金木犀の香りがする森を歩いて、博物館に行く。やまと絵、平安時代12世紀から室町時代15世紀の壮大な歴史。
【やまと絵とは何か】やまと絵は、唐絵に対して12世紀平安時代に始まる。中国の風景を描く唐絵対して、日本の王朝の宮廷を描くやまと絵は、飛鳥、奈良時代には描かれなかった。雪舟『四季花鳥図屏風』(室町時代15世紀)は、日本人によって描かれた中国の風景画であり漢画と呼ばれる。4大絵巻、源氏物語絵巻は、貴族のみならず武家に愛好され展開した。源氏物語絵巻、華麗なる王朝の美は、なぜ貴族と武家を惹きつけたのか。紫式部と源氏物語の始まりに遡ってその源泉を探る。
――
王朝の美の闇にひそむ魔界【源氏物語絵巻、源氏物語作品群】400年にわたって展開した。源氏物語絵巻(平安時代12世紀、徳川美術館)、紫式部日記絵巻断簡(鎌倉殿時代13世紀、東京国立博物館)、源氏物語図扇面張交屏風(室町時代16世紀、浄土寺)。源氏物語絵巻のみならず、紫式部日記絵巻まで、作られ続いているのは驚異である。
「源氏物語図扇面貼交屏風」は、俵屋宗達「扇面貼交屏風」「扇面散し屏風」の先駆形である。扇は折れ目があり使用した形跡がある。
【光源氏の謎】光源氏のモデルは源融(嵯峨天皇の皇子)か藤原道長である。源融(822-895)は天皇の皇子だが、天皇になれなかった美貌の貴公子。源融は左大臣になり、天皇候補となったが、藤原基経に反対された。藤原道長(966-1028)は中宮彰子の父。紫式部の召人(愛人)。【予言の書『源氏物語』天下人の晩年の精神的没落】光源氏40歳で身分も地位も財産も高みに登りつめるが、個人的な運命は急降下。正妻女三の宮に裏切られ、愛妻紫の上に先立たれる。「高い身分に生まれながら、心の満たされぬ人生」「幻」巻。息子の夕霧に会えず引き籠る。
【紫式部の謎、源氏物語と紫式部と中宮彰子】1001年(長保3)夏に宣孝が死に、1001年の秋ごろから『源氏物語』を書き始めた。05年(寛弘2)ごろ年末に一条天皇の中宮彰子のもとに出仕。はじめ〈藤式部〉やがて〈紫式部〉と呼ばれる。〈紫〉は『源氏物語』の女主人公紫の上にちなみ、〈式部〉は父為時の官職式部丞による。
【六条河原院の謎、なぜ六条御息所は幽霊となるのか】源融は左大臣になり、天皇候補となったが、藤原基経に反対された。基経は源定省を宇多天皇として即位させる。怒った源融は宇治の棲霞観、六条河原院の別邸に隠棲。宇多上皇の河原院に源融の幽霊が出る『今昔物語集』巻27第二、世阿弥『融』【六条河原院】源融の嫡男・昇に相続され、昇により宇多上皇に献上され、仙洞御所となる。源氏物語の六条御息所、上村松園『焔』1918は『謡曲「葵の上」の六条御息所の幽霊を描いている。【光源氏の栄華と衰亡】光源氏の人生に仮託された源融と藤原道長の運命に王朝の階級制の閉鎖社会のピラミッド上昇の困難と個の苦悩と葛藤を、貴族と武家たちはどう見つめたのだろうか。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
――
国宝「日月四季山水図屏風」金剛寺、室町時代15世紀】やまと絵で描かれた六曲一双(6扇の屏風が2つで1組)の屏風で、四季の山水と日月が描かれ、密教の灌頂の儀式に用いられた。右隻には春から夏への景色に金の太陽、左隻には秋から冬への景色に銀の月を配する。山並みはうねり、躍動感に満ちた絵画。天野山金剛寺
――
国宝 神護寺三像。「伝源頼朝像」、「伝平重盛 像」「伝藤原光能」として伝わる鎌倉時代(13世紀)の肖像絵画は、等身大のスケールに圧倒。近寄ると漆黒の装束の黒い文様も見える。日本肖像画の最高峰。
伝源賴朝・平重盛・藤原光能像 (神護寺三像)3点共、作者は藤原隆信と伝わる。隆信は、歌人として有名な藤原定家の異父兄で、画業では似絵(にせえ)を得意とした。
空海は、唐に渡って密教を学び、帰国後は神護寺を本拠に真言密教を広めた。空海のあとの真済によって寺勢は隆盛し、壮大な伽藍が建てられたが、2度の火災で沈滞、荒廃した。
荒廃した神護寺を再建したのは、文覚上人。【文覚は神護寺再興を後白河法皇に強訴】したが、法皇の怒りを買い、伊豆に流罪。同じ伊豆の流人の境遇の頼朝と会見し、平家打倒に決起せよと説得。やがて流罪を解かれ、京に戻った文覚は法皇に神護寺復興を願って許された。平家を倒し幕府を立てた【頼朝の援助もあって、神護寺は復興した】
――
国宝「平家納経 薬王菩薩本事品 第二十三」「平家納経 分別功徳品 第十七」「平家納経 平清盛願文」平安時代 長寛2年(1164)厳島神社蔵
三大装飾経、国宝「平家納経」(平安時代1164年)「久能寺経」「慈光寺経」。
――
展示作品の一部
「年中行事絵巻」模本は、展示されるのが1974年の絵巻展(東京国立博物館)以来。
源氏の名場面を四季に再編成して60面揃えた室町時代の「源氏物語図扇面貼交屛風」、国宝「源氏物語絵巻」、「紫式部日記絵巻」など華やかな作品が続々と登場。
「山水屛風」京都国立博物館、「山水屛風」神護寺、国宝「蒔絵筝」春日大社、
国宝「地獄草紙」「餓鬼草紙」、「辟邪絵」「病草紙」重文「百鬼夜行絵巻」
「源氏物語図扇面貼交屛風」室町時代 16世紀 広島・浄土寺(展示期間:10/11~11/5)
国宝「蒔絵箏(本宮御料古神宝類のうち)」奈良・春日大社蔵(11/5まで展示)
神に捧げるために作られた楽器。王朝貴族の美意識が結実した工芸品。蒔絵(まきえ)で表わされた美しい山岳図。
国宝「源氏物語絵巻」12世紀、徳川美術館、「伴大納言絵巻」12世紀、出光美術館蔵)、国宝「鳥獣戯画」平安~鎌倉時代12~13世紀 高山寺、国宝「信貴山縁起絵巻」平安時代12世紀 朝護孫子寺、国宝「平治物語絵巻」六波羅行幸巻、鎌倉時代13世紀、重文「紫式部日記絵巻」鎌倉時代13世紀
――
【手に入らない愛は、永遠に美しい】実らない恋は永遠に輝いている【上智と下愚とは移らず】最上の知者は悪い境遇にあっても堕落せず、最下の愚者は、どんなによい境遇にあっても向上しない。『「論語」陽貨』【どんなに地位、名誉、職業が高くても、智慧と慈悲がなければ生きる価値がない】最下の愚者は、向上しない。【千里の馬は常にあれども伯楽は常には非ず】
【師を選ぶ、学ぶことは重要だが、最も重要なのは先生の質である】【先生を選ぶ】師が優れているか否かが最も重要な要素である【学びの違い】学校、大学では先生を選べない【先生が持っている地図の大きさ】【先生が持つ基礎認知力、先生が持っている体系】空海は、大学寮明経科に入学したが退学、山林修行の旅に出る『聾瞽指帰』
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
――
参考文献「響きあう名宝─曜変・琳派のかがやき─」・・・幻の曜変天目、本能寺の変https://bit.ly/3UYWOpe鈴木其一・夏秋渓流図屏風・・・樹林を流れる群青色の渓流、百合の花と蝉、桜の紅葉https://bit.ly/2ZCzN3x「大琳派展―継承と変奏」東京国立博物館・・・絢爛たる装飾藝術、16世紀から18世紀http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-c300.html「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」・・・源氏物語の謎https://bit.ly/3hIroVg大塚ひかり『嫉妬と階級の『源氏物語』』新潮社「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」・・・源氏物語絵巻の闇、日月四季山水図屏風、神護寺三像、平家納経
http://mediterranean.cocolog-nifty.com/blog/2023/11/post-1388ed.html
――
日本絵巻史上最高傑作と言われる「四大絵巻」が揃い踏み(10/11~10月22日まで)。
四大絵巻「源氏物語絵巻」「鳥獣戯画」「信貴山縁起絵巻」「伴大納言絵巻」が30年ぶりに集結する。壮観。神護寺三像「伝源頼朝像」(鎌倉時代13世紀)「伝平重盛像」「伝藤原光能像」、が集結する。横幅1m等身大の大作。仙洞院に「後白河法皇像」「平業房像」とともに5幅掛けられていた。10月24日(火)~11月5日(日)――国宝53件、総件数270件、絢爛豪華な展覧会。国宝53件、総件数270件のうち、7割超が国宝・重要文化財、絢爛豪華展な展覧会。――国宝「源氏物語絵巻」徳川美術館、「伴大納言絵巻」(出光美術館蔵)は10月22日まで国宝「鳥獣戯画」平安~鎌倉時代 12~13世紀 高山寺 展示期間:甲巻10/11~10/22 乙巻10/24~11/5 丙巻11/7~11/19 丁巻11/21~12/3国宝「信貴山縁起絵巻」平安時代 12世紀 朝護孫子寺 展示期間:飛倉巻10/11~11/5 延喜加持巻11/7~11/19 尼公巻11/21~12/3――画像国宝「平治物語絵巻」六波羅行幸巻 鎌倉時代13世紀、東京国立博物館、重要文化財「紫式部日記絵巻」鎌倉時代13世紀、東京国立博物館国宝「日月四季山水図屏風」室町時代15世紀、金剛寺――特別展「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」東京国立博物館、2023年10月11日~12月3日
最近のコメント