ルーヴル美術館展、愛を描く・・・2、キリスト教の愛、オランダ黄金時代、画中画の秘密
文明は滅びても、愛は滅びない。古代ギリシア文化、古代ローマ文化、キリスト教文化、ルネサンス、オランダ黄金時代の画中画の秘密、18世紀ロココ貴族の愛欲、革命の新古典主義、ロマン主義の反逆、19世紀イタリアの婚姻契約。「人間の真の姿がたち現れるのは、運命に敢然と立ち向かう時である」「この世は舞台、人はみな役者だ」(シェイクスピア)
【ルネサンス、メディチ家のプラトン・アカデミーの夢】1462年コジモは、フィチーノにプラトンの原典とカレッジの別荘を与えた。ロレンツォは1492年43歳で死に、詩人ポリツィアーノは毒殺、ピコも毒殺、フィチーノは1499年死ぬ。ルネサンスの夢は、マニエリスム、バロック、ロココ、新古典主義、ロマン主義の藝術家によって蘇る。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
――
キリスト教の愛・・・神の意思により降誕した神の子イエス
4、サッソフェラート(本名 ジョヴァンニ・バティスタ・サルヴィ)《眠る幼子イエス》(1640-85頃)
聖母マリアの腕の中で眠る幼子イエスがあどけない表情を浮かべ、聖母マリアは慈しむように我が子を抱きながら視線を子へ向けている。父なる神の意思により降誕した神の子イエスと、幼子イエスを抱く聖母マリア。十字架にかけられ生け贄の死を遂げる運命を暗示する。
キリスト教の愛・・・イエス、生け贄の死
5、ウスターシュ・ル・シュウール『キリストの十字架降下』1651頃
キリストの十字架降下(The Descent from the Cross)、磔刑に処され死した主イエス。神は我が子キリストに、人類の罪を購うために十字架にかけられ生け贄の死を遂げる運命を与えた。主題「十字架降下」は「ユダヤの王を名乗り、民を惑わせた」とユダヤ教の司祭より処刑を求められ、罪を裁く権限を持つローマ帝国の総督ピラトが手を洗い自らに関わりが無いことを示した。(『マタイによる福音書』27章)ゴルゴダの丘で、2人の盗人と共に磔刑に処された、キリストの受難の中で最も重要な場面。人類の罪を購うために十字架にかけられ生け贄の死を遂げる。
――
19世紀イタリア富裕層市民の婚姻契約の愛
6、ギヨーム・ボディニエ 《イタリアの婚姻契約》1831年
1795年フランス生まれの画家ギヨーム・ボディニエは、27歳の時にイタリアを旅行し、この地に魅了されてイタリアの風景を多く描いた。ローマ近郊アルバーノの裕福な農民一家で、婚姻契約の様子を描いた。結婚する二人、若者が女を見つめ、女は恥ずかし気にうつむく、母は介添え、父親は給仕の若い女に目を向け、公証人は証書を書く。
オランダ黄金時代の画中画に隠されたた愛
5、サミュエル・ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》1655-1662年頃
オランダの黄金時代1650年代または1660年代初め、ドルトレヒトにおいて制作した風俗画。3つの部屋が描かれている。一番手前は左手の大きな戸を開いて入った空間。床は赤と黒の菱形模様。次の間とのあいだの壁には、大きな布が掛っており、長い箒が立てかけられている。壁の下部にはデルフトタイルの装飾。光は右手から差してきている。
次の空間の床は赤い長方形。楕円形の藁のマットの上には、サンダルのようなものが乱暴に脱ぎ捨ててある。ここには強い光が右手から射してくる。
奥の部屋の入口の扉は室内に向かって開かれており、鍵束のなかの一本の鍵がこの扉に差したままになっている。床は黒と白の菱形。向こうの壁がやけに明るい。そこには画中画、椅子、鏡。黄色のテーブルクロスをかけたテーブルにはローソクをのせた燭台と本が置かれている。本の向こうの黒いものは何だろうか。
画中画にこの画のテーマが隠されているようである。後ろを向いた女性は銀色のドレスを身に付け、女中が待機している。その向こうには赤い天蓋つきのベッド。天蓋の一部は開いているが、その中の様子は分からない。ベッドの手前には同じ色の椅子があるが、その上には何も載っていない。古瀬顕
新古典主義、蘇るギリシア
6,クロード=マリー・デュビュッフ 《アポロンとキュパリッソス》1821年
アポロンはキュパリッソスを愛した。ケオース島には金色に輝く角を持った雄鹿が、人々に大切にされていた。キュパリッソスはこの鹿と仲が良かった。キュパリッソスはあるとき誤って投槍で鹿を殺してしまった。キュパリッソスは深く悲しみ、神々に永遠に嘆き悲しむことを願った。そこで神々は彼を糸杉(悲しみの象徴)に変えた。出典、オウィディウス 『変身物語』
7、『ニンフとサテュロス』アントワーヌ・ヴァトー 1715-1716年頃 油彩/カンヴァス 103x138cm パリ、ルーヴル美術館
半神半獣のサテュロスはぐっすりと眠るニンフのベールを持ち上げ、裸身に夢中になっている。
8、アリ・シェフェール《ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊》1855年
ダンテの叙事詩『神曲』「地獄篇」。大胆な構図で描かれるフランチェスカとパオロ。この男女の悲しい恋路、二人は、男の兄の嫉妬により、ナイフで刺され死んでしまう。
――
展示作品の一部
フランソワ・ジェラール『アモルとプシュケ』1798年、油彩/カンヴァス 186x132cm パリ、ルーヴル美術館
フランソワ・ブーシェ《アモルの標的》1758年 油彩/カンヴァス 268x167cm パリ、ルーヴル美術館
ピーテル・ファン・デル・ウェルフ 《善悪の知識の木のそばのアダムとエバ》1712年以降 油彩/板 45x35.5cm パリ、ルーヴル美術館
カヴァリエーレ・ダルビーノ(本名 ジュゼッペ・チェーザリ)《楽園を追われるアダムとエバ》(1597)
アントワーヌ・ヴァトー《ニンフとサテュロス》(1715-16頃)
サッソフェラート(本名 ジョヴァンニ・バティスタ・サルヴィ)《眠る幼子イエス》(1640-85頃)
ウスターシュ・ル・シュウール《キリストの十字架降下》1651頃 カンヴァスに油彩 直径134cm パリ、ルーヴル美術館
ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777-1778頃 カンヴァスに油彩 74x94cm パリ、ルーヴル美術館
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom
ギヨーム・ボディニエ 《イタリアの婚姻契約》1831年 油彩/カンヴァス100x138cm パリ、ルーヴル美術館
ハブリエル・メツー《ヴァージナルを弾く女性と歌い手による楽曲の練習》、または《音楽のレッスン》1659-1662年頃 油彩/板 32x24.5cm パリ、ルーヴル美術館
サミュエル・ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》1655-1662年頃 油彩/カンヴァス 103x70cm パリ、ルーヴル美術館
ドメニキーノ(本名 ドメニコ・ザンピエーリ)《リナルドとアルミーダ》1617-1621年頃 油彩/カンヴァス121x168cm パリ、ルーヴル美術館
《ニンフとサテュロス》 アントワーヌ・ヴァトー 1715-1716年頃 油彩/カンヴァス 103x138cm パリ、ルーヴル美術館
クロード=マリー・デュビュッフ 《アポロンとキュパリッソス》1821年 油彩/カンヴァス 192x227.5cm アヴィニョン、カルヴェ美術館
Photo © Avignon, musée Calvet
ウジェーヌ・ドラクロワ『アビドスの花嫁』1852〜1853年頃 パリ、ルーヴル美術館
アリ・シェフェール《ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊》1855年 パリ、ルーヴル美術館
――
参考文献
『ルーヴル美術館展、愛を描く』図録2023
「ルーヴル美術館展 19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ」2005
「ルーヴル美術館展 18世紀フランス絵画のきらめき」1997
国立新美術館主任学芸員宮島綾子氏の報道内覧会2023における解説。
新古典主義、ダヴィッドと弟子たち・・・「ソクラテスの死」「アモルとプシュケ」
ロマン主義の愛と苦悩・・・ロマン派から象徴派、美は乱調にあり
ルーヴル美術館展 フランス宮廷の美・・・ルイ15世、ロココ様式、フランソワ・ブーシェ、ジャン=オノレ・フラゴナール
――
ヴィーナスの歴史、パリスの審判、三人の女神、トロイ戦争、叙事詩の円環・・・復讐劇の起源
アモールとプシューケー エロースと絶世の美女プシューケー
大久保正雄『地中海紀行』第57回P12
ヴィーナスの歴史、パリスの審判、三人の女神、トロイ戦争、叙事詩の円環・・・復讐劇の起源
新古典主義、ダヴィッドと弟子たち・・・「ソクラテスの死」「アモルとプシュケ」
ルーヴル美術館、愛を描く・・・1、愛の絵画、愛と美の迷宮
ルーヴル美術館展、愛を描く・・・2、キリスト教の愛、オランダ黄金時代、画中画の秘密
最近のコメント