新古典主義

2023年4月 6日 (木)

ルーヴル美術館展、愛を描く・・・2、キリスト教の愛、オランダ黄金時代、画中画の秘密


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大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』第322回
文明は滅びても、愛は滅びない。古代ギリシア文化、古代ローマ文化、キリスト教文化、ルネサンス、オランダ黄金時代の画中画の秘密、18世紀ロココ貴族の愛欲、革命の新古典主義、ロマン主義の反逆、19世紀イタリアの婚姻契約。「人間の真の姿がたち現れるのは、運命に敢然と立ち向かう時である」「この世は舞台、人はみな役者だ」(シェイクスピア)
【ルネサンス、メディチ家のプラトン・アカデミーの夢】1462年コジモは、フィチーノにプラトンの原典とカレッジの別荘を与えた。ロレンツォは1492年43歳で死に、詩人ポリツィアーノは毒殺、ピコも毒殺、フィチーノは1499年死ぬ。ルネサンスの夢は、マニエリスム、バロック、ロココ、新古典主義、ロマン主義の藝術家によって蘇る。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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キリスト教の愛・・・神の意思により降誕した神の子イエス
4、サッソフェラート(本名 ジョヴァンニ・バティスタ・サルヴィ)《眠る幼子イエス》(1640-85頃)
聖母マリアの腕の中で眠る幼子イエスがあどけない表情を浮かべ、聖母マリアは慈しむように我が子を抱きながら視線を子へ向けている。父なる神の意思により降誕した神の子イエスと、幼子イエスを抱く聖母マリア。十字架にかけられ生け贄の死を遂げる運命を暗示する。
キリスト教の愛・・・イエス、生け贄の死
5、ウスターシュ・ル・シュウール『キリストの十字架降下』1651頃
キリストの十字架降下(The Descent from the Cross)、磔刑に処され死した主イエス。神は我が子キリストに、人類の罪を購うために十字架にかけられ生け贄の死を遂げる運命を与えた。主題「十字架降下」は「ユダヤの王を名乗り、民を惑わせた」とユダヤ教の司祭より処刑を求められ、罪を裁く権限を持つローマ帝国の総督ピラトが手を洗い自らに関わりが無いことを示した。(『マタイによる福音書』27章)ゴルゴダの丘で、2人の盗人と共に磔刑に処された、キリストの受難の中で最も重要な場面。人類の罪を購うために十字架にかけられ生け贄の死を遂げる。

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19世紀イタリア富裕層市民の婚姻契約の愛
6、ギヨーム・ボディニエ 《イタリアの婚姻契約》1831年
1795年フランス生まれの画家ギヨーム・ボディニエは、27歳の時にイタリアを旅行し、この地に魅了されてイタリアの風景を多く描いた。ローマ近郊アルバーノの裕福な農民一家で、婚姻契約の様子を描いた。結婚する二人、若者が女を見つめ、女は恥ずかし気にうつむく、母は介添え、父親は給仕の若い女に目を向け、公証人は証書を書く。

オランダ黄金時代の画中画に隠されたた愛
5、サミュエル・ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》1655-1662年頃
オランダの黄金時代1650年代または1660年代初め、ドルトレヒトにおいて制作した風俗画。3つの部屋が描かれている。一番手前は左手の大きな戸を開いて入った空間。床は赤と黒の菱形模様。次の間とのあいだの壁には、大きな布が掛っており、長い箒が立てかけられている。壁の下部にはデルフトタイルの装飾。光は右手から差してきている。
次の空間の床は赤い長方形。楕円形の藁のマットの上には、サンダルのようなものが乱暴に脱ぎ捨ててある。ここには強い光が右手から射してくる。
奥の部屋の入口の扉は室内に向かって開かれており、鍵束のなかの一本の鍵がこの扉に差したままになっている。床は黒と白の菱形。向こうの壁がやけに明るい。そこには画中画、椅子、鏡。黄色のテーブルクロスをかけたテーブルにはローソクをのせた燭台と本が置かれている。本の向こうの黒いものは何だろうか。
画中画にこの画のテーマが隠されているようである。後ろを向いた女性は銀色のドレスを身に付け、女中が待機している。その向こうには赤い天蓋つきのベッド。天蓋の一部は開いているが、その中の様子は分からない。ベッドの手前には同じ色の椅子があるが、その上には何も載っていない。古瀬顕

新古典主義、蘇るギリシア
6,クロード=マリー・デュビュッフ 《アポロンとキュパリッソス》1821年
アポロンはキュパリッソスを愛した。ケオース島には金色に輝く角を持った雄鹿が、人々に大切にされていた。キュパリッソスはこの鹿と仲が良かった。キュパリッソスはあるとき誤って投槍で鹿を殺してしまった。キュパリッソスは深く悲しみ、神々に永遠に嘆き悲しむことを願った。そこで神々は彼を糸杉(悲しみの象徴)に変えた。出典、オウィディウス 『変身物語』
7、『ニンフとサテュロス』アントワーヌ・ヴァトー 1715-1716年頃 油彩/カンヴァス  103x138cm パリ、ルーヴル美術館
半神半獣のサテュロスはぐっすりと眠るニンフのベールを持ち上げ、裸身に夢中になっている。
8、アリ・シェフェール《ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊》1855年
ダンテの叙事詩『神曲』「地獄篇」。大胆な構図で描かれるフランチェスカとパオロ。この男女の悲しい恋路、二人は、男の兄の嫉妬により、ナイフで刺され死んでしまう。
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展示作品の一部
フランソワ・ジェラール『アモルとプシュケ』1798年、油彩/カンヴァス 186x132cm パリ、ルーヴル美術館
フランソワ・ブーシェ《アモルの標的》1758年 油彩/カンヴァス 268x167cm パリ、ルーヴル美術館
ピーテル・ファン・デル・ウェルフ 《善悪の知識の木のそばのアダムとエバ》1712年以降 油彩/板 45x35.5cm パリ、ルーヴル美術館
カヴァリエーレ・ダルビーノ(本名 ジュゼッペ・チェーザリ)《楽園を追われるアダムとエバ》(1597)
アントワーヌ・ヴァトー《ニンフとサテュロス》(1715-16頃)
サッソフェラート(本名 ジョヴァンニ・バティスタ・サルヴィ)《眠る幼子イエス》(1640-85頃)
ウスターシュ・ル・シュウール《キリストの十字架降下》1651頃 カンヴァスに油彩 直径134cm パリ、ルーヴル美術館
ジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777-1778頃 カンヴァスに油彩 74x94cm パリ、ルーヴル美術館 
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom
ギヨーム・ボディニエ 《イタリアの婚姻契約》1831年 油彩/カンヴァス100x138cm パリ、ルーヴル美術館 
ハブリエル・メツー《ヴァージナルを弾く女性と歌い手による楽曲の練習》、または《音楽のレッスン》1659-1662年頃 油彩/板 32x24.5cm パリ、ルーヴル美術館
サミュエル・ファン・ホーホストラーテン《部屋履き》1655-1662年頃 油彩/カンヴァス 103x70cm パリ、ルーヴル美術館
ドメニキーノ(本名 ドメニコ・ザンピエーリ)《リナルドとアルミーダ》1617-1621年頃 油彩/カンヴァス121x168cm パリ、ルーヴル美術館
《ニンフとサテュロス》 アントワーヌ・ヴァトー 1715-1716年頃 油彩/カンヴァス  103x138cm パリ、ルーヴル美術館
クロード=マリー・デュビュッフ 《アポロンとキュパリッソス》1821年 油彩/カンヴァス 192x227.5cm アヴィニョン、カルヴェ美術館
Photo © Avignon, musée Calvet
ウジェーヌ・ドラクロワ『アビドスの花嫁』1852〜1853年頃 パリ、ルーヴル美術館 
アリ・シェフェール《ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊》1855年 パリ、ルーヴル美術館
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参考文献
『ルーヴル美術館展、愛を描く』図録2023
「ルーヴル美術館展 19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ」2005
「ルーヴル美術館展 18世紀フランス絵画のきらめき」1997
国立新美術館主任学芸員宮島綾子氏の報道内覧会2023における解説。
新古典主義、ダヴィッドと弟子たち・・・「ソクラテスの死」「アモルとプシュケ」
ロマン主義の愛と苦悩・・・ロマン派から象徴派、美は乱調にあり
ルーヴル美術館展 フランス宮廷の美・・・ルイ15世、ロココ様式、フランソワ・ブーシェ、ジャン=オノレ・フラゴナール
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ヴィーナスの歴史、パリスの審判、三人の女神、トロイ戦争、叙事詩の円環・・・復讐劇の起源
アモールとプシューケー エロースと絶世の美女プシューケー
大久保正雄『地中海紀行』第57回P12
ヴィーナスの歴史、パリスの審判、三人の女神、トロイ戦争、叙事詩の円環・・・復讐劇の起源
新古典主義、ダヴィッドと弟子たち・・・「ソクラテスの死」「アモルとプシュケ」
ルーヴル美術館、愛を描く・・・1、愛の絵画、愛と美の迷宮
ルーヴル美術館展、愛を描く・・・2、キリスト教の愛、オランダ黄金時代、画中画の秘密
https://bit.ly/3Gjenu8
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ルーヴル美術館展、愛を描く、国立新美術館、3月1日〜6月12日
京都市京セラ美術館、6月27日~9月24日

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2023年4月 3日 (月)

ルーヴル美術館展、愛を描く・・・1、愛の絵画、愛と美の迷宮


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大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』第321回
文明は滅びても、愛は滅びない。古代ギリシア文化、古代ローマ文化、キリスト教文化、ルネサンス、オランダ黄金時代の画中画の秘密、18世紀ロココ貴族の愛欲、革命の新古典主義、ロマン主義の反逆、19世紀イタリアの婚姻契約。「人間の真の姿がたち現れるのは、運命に敢然と立ち向かう時である」シェイクスピア『トロイラスとクレシダ』「この世は舞台、人はみな役者だ」『お気に召すまま』
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
【古代ギリシアの哲学者、プラトン哲学の蘇り、ルネサンス文化は花開く】
【プラトン『饗宴』】ドラマは、アガトンの悲劇優勝記念の宴に集まる(前416年)。4人(パイドロス、パウサニアス、エリュクシマコス、アリストパネス)が「エロスの神とは何か」を議論する、最後にアガトンがエロスの本質を述べ、ソクラテスがディオティマから教えられた「愛の究極の奥義」を披露し、愛の階梯、魂の美、見えざる魂の美は極美である。究極の美は善である、イデア論を展開する。そこにアルキビアデスが酔って乱入、ソクラテスはギュムナシオンに去る、という対話篇である。メディチ家の思想家、マルシリオ・フィチーノ『饗宴注釈』『プラトン神学』(『パイドン』)を著した。
【ルネサンス、メディチ家のプラトン・アカデミーの夢】1462年コジモは、フィチーノにプラトンの原典とカレッジの別荘を与えた。ロレンツォは1492年43歳で死に、詩人ポリツィアーノは毒殺、ピコも毒殺、フィチーノは1499年死ぬ。ルネサンスの夢は、マニエリスム、バロック、新古典主義、ロマン主義の藝術家によって蘇る。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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1、フランソワ・ジェラール『アモルとプシュケ』1798年
プシュケはある王国の三女であったが 、プシュケはあまりの美貌ゆえに求婚するものが現れず、神託により人身御供に捧げられた。ヴィーナスが美しさに嫉妬して遣わした息子アモルは見惚れ自分の矢で傷つき、アモルによって天上の宮殿に略奪された。アモルを見ることを禁じられたプシュケは、アモルの姿をある夜、見てしまい、アモルを探し求めて世界中を彷徨う。ヴィーナスに4つの苦難を与えられたプシュケ。
【最後の難題は、冥界の女王ペルセポネから、美の函を地獄から持ち帰ること】プシュケはほとんど地上まで持ち帰るが、好奇心に勝てず、開けてしまう。しかしその函には、美のかわりに深い眠りが入っていて、プシュケは深い眠りにつく。プシュケは第4の苦難を解き、他方、アモルはプシュケを探している。眠っているプシュケを見つけ、その矢でついて目覚めさせる。プシュケは、アモルと天上界で結ばれる。
出典は、アプレイウス『黄金の驢馬』、ラ・フォンテーヌ『プシュケとアモルの恋』の終幕、苦難を経て天上で結ばれるアモルとプシュケの場面である。プラトン『パイドロス』の「人間の魂と神の愛の結合」、ラ・フォンテーヌ「永遠の愛を意味する再会」を意味する。新古典主義におけるプラトン主義の思想の表現である。プシュケはギリシア語で魂の意味であり「魂の愛」が秘められた主題である。魂の本質、美を探求するプラトン対話篇『パイドン』『饗宴』につながる、メディチ家のプラトン・アカデミーのテーマである。フランソワ・ジェラールの師、ジャック・ルイ・ダヴィッドはジャコバン派の革命家であり、ギリシア文化を崇敬するフランス革命の象徴的イメージである。

18世紀、ロココ様式の貴族の愛。
2,『ジャン=オノレ・フラゴナール かんぬき 1777-1778頃』
男が女を抱き寄せ、部屋のかんぬきをかけている場面。女性は恍惚としているのか、抵抗しているのか判然としない。画面の周辺に、男性性器の暗示とされる閂、女性性器や処女喪失の暗示とされる壺と薔薇の花、メタファーが鏤められている。乱れているベッド、人類最初の女性であるイヴが楽園から追放される原因となった林檎、様々な解釈ができる絵画。
フランス革命の約10年前に描かれた作品、当時は人々のモラルが変わり、男女の恋愛模様も大きく変わる時代。以降、本作のように男女の恋愛模様や性愛を彷彿とさせる作品は非難されるようになった。18世紀フランスでは、自由や快楽を肯定することが、キリスト教の権威に対する反発や批判に繋がる風潮が流行していた。解釈できない曖昧さが画面に散りばめれている」
3、フランソワ・ブーシェ『アモルの標的』1758年
フランソワ・ブーシェ、ロココ様式の巨匠、ルイ15世王の首席画家、王立絵画彫刻アカデミー院長、。生涯に千枚以上の絵画、百枚以上の版画、約一万枚の素描を制作、壁画装飾、タピスリーや磁器の下絵制作。
ローマ神話、ヴィーナスの息子である愛の神アモル(クピド)が放った矢がハート形をした的を射抜いた場面、愛が生まれた瞬間を描。よく見ると、的の周辺には無数の穴があり、アモルが何回か射的に失敗した。上空を飛ぶアモルは両手に持つ月桂冠を掲る。下部のアモルたちは、もう必要がなくなった弓矢を燃やしている。
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参考文献
『ルーヴル美術館展、愛を描く』図録2023
「ルーヴル美術館展 19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ」2005
「ルーヴル美術館展 18世紀フランス絵画のきらめき」1997
国立新美術館主任学芸員宮島綾子氏の報道内覧会2023における解説。
新古典主義、ダヴィッドと弟子たち・・・「ソクラテスの死」「アモルとプシュケ」
ロマン主義の愛と苦悩・・・ロマン派から象徴派、美は乱調にあり
ルーヴル美術館展 フランス宮廷の美・・・ルイ15世、ロココ様式、フランソワ・ブーシェ、ジャン=オノレ・フラゴナール
――
ヴィーナスの歴史、パリスの審判、三人の女神、トロイ戦争、叙事詩の円環・・・復讐劇の起源
アモールとプシューケー エロースと絶世の美女プシューケー
大久保正雄『地中海紀行』第57回P12
ヴィーナスの歴史、パリスの審判、三人の女神、トロイ戦争、叙事詩の円環・・・復讐劇の起源
新古典主義、ダヴィッドと弟子たち・・・「ソクラテスの死」「アモルとプシュケ」
ルーヴル美術館展、愛を描く・・・1、愛の絵画、愛と美の迷宮
https://bit.ly/3U0Hpoh

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ルーヴル美術館展、愛を描く、国立新美術館、3月1日〜6月12日

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2023年3月31日 (金)

新古典主義、ダヴィッドと弟子たち・・・「ソクラテスの死」「アモルとプシュケ」

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大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』第320回
【ルネサンスと革命とナポレオン】ルネサンスの藝術家、ボッティチェリ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロは古代ギリシアの藝術に憧憬、古代藝術を再生した。18世紀、新古典主義の藝術家たちは、ルネサンス美術に憧れイタリアを愛し、新古典主義美術を生み出した。メディチ家のプラトン・アカデミーの精華である。
【ルネサンス、メディチ家のプラトン・アカデミーの夢】1439年7月6日、コジモ・デ・メディチはアカデミア・プラトニカを構想。1462年コジモは、フィチーノにプラトンの原典とカレッジの別荘を与えた。ロレンツォは1492年43歳で死に、詩人ポリツィアーノは毒殺、ピコも毒殺、フィチーノは1499年死ぬ。ルネサンスの夢は、マニエリスム、バロック、ロココ、新古典主義、ロマン主義の藝術家によって蘇る。
【プラトン・アカデミー】1439年7月6日フィレンツェ公会議で、コジモ・デ・メディチはギリシア人哲学者プレトンの講義をきき、プラトン哲学の奥義に感銘をうけ、「アカデミア・プラトニカ」を構想した。アカデミア・プラトニカは「美しい精神をもつ人々の自由な集まり、プラトンに捧げられた集まり」である。(cf.アンドレ・シャステル『ルネサンス精神の深層-フィチーノと芸術-』)フィレンツェ・プラトン主義の愛と美の哲学はミケランジェロたちルネサンスの藝術家に影響を与えた。プラトン『饗宴』『パイドン』はルネサンスの源泉である。「魂の美は、肉体における美より美しい」「魂の眼は肉眼が老いる時やっと輝き始める」(プラトン『饗宴』)
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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ジャック=ルイ・ダヴィッド(Jacques-Louis David1748−1825)「毒杯を仰ぐソクラテスLa Mort de Socrate」1787、メトロポリタン美術館
【ソクラテスの死】紀元前399年4月27日、ソクラテスは、ギリシアの哲学者の最も偉大な思想家の一人、エンペドクレス、プラトンとならび、高邁な有徳の士、高貴な人格。ソクラテスは、その思想で若者たちを堕落させたという罪状で死刑宣告を受ける。死を免れるのは可能だったが、クリトンのすすめを退け、裁判で下された裁定に従って、評決に甘んじて死ぬ道を選ぶ。プラトン『パイドン』は偉大な思想家の死を描く。ソクラテスは魂の不死不滅を論証する。ソクラテスの牢獄の最後の日の対話を思想のドラマ。彼は感情あらわに嘆き悲しむ弟子たちを戒め、毒杯をあおって威厳ある死を遂げた。自己犠牲による死を主題にした。
国家に正義があるか、疑義がある。疑惑の正義を分析するのは『国家』第2巻で展開する正義の分析であり、魂の正義の分析である。見えざる魂を見える国家の形で分析することが『国家』第9巻で展開する堕落した国家の諸形態の分析である。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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【ダヴィッド、イタリアと革命とナポレオン】ロココ絵画の巨匠フランソワ・ブーシェ(1703-1770*『ヴィーナスの化粧』1751)はダヴィッドの親戚であった。ダヴィッドは画家ジョゼフ=マリー・ヴィアンに師事する。1774年《アンティオコスとストラトニケ》で、若手画家の登竜門ローマ賞受賞。ダヴィッドは1775年から1780年まで約5年間、イタリアで、プッサン、カラヴァッジョ、カラッチ、古典絵画の研究に没頭する。イタリアでの研究を契機に作風は18世紀フランスを一世風靡したロココから、新古典主義的な画風へと変貌する。37歳の時、ルイ16世注文の《ホラティウス兄弟の誓い》(1784年から1785年)、この作品によってサロンで評価される。
1789年、フランス革命勃発、ダヴィッドは、ジャコバン党員として政治にも関与。《球戯場の誓い》を描く他、バスティーユ牢獄襲撃事件に参加、1792年、国民議会議員。1793年、革命家マラーの死を描いた《マラーの死》を制作。1794年、ロベスピエールに協力、最高存在の祭典の演出を担当。
ナポレオンと同じようにローマ愛が強く意気投合する。段々と地位が上がり、最後は芸術長官に任命される。1804年、ナポレオンの首席画家に任命される。6×9メートルの大作《ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠》1806年から1807年に描く。1808年「帝国における騎士ダヴィッド」の爵位を与えられた。ナポレオンの失脚後、ダヴィッドも失脚し、1816年にブリュッセルへ亡命、9年後の1825年に時代に翻弄された77年の生涯を終える。
フランソワ・ジェラール【アモルとプシュケ】プシュケはあまりの美貌ゆえに求婚するものが現れず、ヴィーナスが嫉妬により遣わした息子アモルによって天上の宮殿に略奪された。プシュケはある王国の三女であったが神託により人身御供に捧げられた。アモルを見ることを禁じられたプシュケは、アモルの姿をある夜、見てしまい、アモルを探し求めて世界中を彷徨う。ヴィーナスに4つの苦難を与えられたプシュケ。
【最後の難題は、冥界の女王ペルセポネから、美の函を地獄から持ち帰ること】プシュケはほとんど地上まで持ち帰るが、好奇心に勝てず、開けてしまう。しかしその函には、美のかわりに深い眠りが入っていて、プシュケは深い眠りにつく。プシュケは第4の苦難を解き、他方、アモルはプシュケを探している。眠っているプシュケを見つけ、その矢でついて目覚めさせる。プシュケは、アモルと天上界で結ばれる。
出典は、アプレイウス『黄金の驢馬』、ラ・フォンテーヌ『プシュケとアモルの恋』の終幕、苦難を経て天上で結ばれるアモルとプシュケの場面である。プラトン『パイドロス』の「人間の魂と神の愛の結合」、ラ・フォンテーヌ「永遠の愛を意味する再会」である。新古典主義における新プラトン主義の思想の表現である。
*大久保正雄『旅する哲学者 美への旅』より
大久保正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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最も優秀な弟子、3人のG
フランソワ・ジェラール(Francois Gerard 1770−1837)「アモルとプシュケ」1798、ルーヴル美術館
ジロデ=トリオソン(Anne-Louis Girodet de Roussy-Trioson 1767−1824)、「エンデュミオン」1792、ルーヴル美術館
ジャン・アントワーヌ・グロ(Antoine-Jean Gros1771−1835)「アルコレ橋上のボナパルト将軍」1796、ルーヴル美術館
ともにダヴィッドの最も優秀な弟子の一人。3人のGと呼ばれる。
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ダヴィッドの弟子、フランソワ=エドゥアール・ピコ François-Édouard Picot (1786-1868)「アモルとプシュケ」1817、ルーヴル美術館
ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングル Jean-Auguste Dominique Ingres (1780-1867)「スピンクスの謎を解くオイディプス」1808、ルーヴル美術館
アントニオ・カノーヴァ「プシュケとアモル」Antonio Canova(1787-1793)、ルーヴル美術館
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参考文献
鈴木杜幾子『画家ダヴィッド 革命の表現者から皇帝の首席画家へ』晶文社1991
ケネス・クラーク(高階秀爾訳)『ロマン主義の反逆 : ダヴィッドからロダンまで13人の芸術家』小学館1988
「ルーヴル美術館展 19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ」横浜美術館2005
「ルーヴル美術館展 18世紀フランス絵画のきらめき」東京都美術館1997
「ルーヴル美術館展 ―地中海 四千年のものがたり」東京都美術館2013
「ルーヴル美術館展、愛を描く」2023
大久保正雄「メディチ家とプラトン・アカデミー イタリア・ルネサンスの美と世界遺産」世界遺産アカデミー2016
https://t.co/yxlgRpwirV
ルーヴル美術館展 ―地中海 四千年のものがたり・・・ギリシア文化の輝き
地中海 四千年のものがたり・・・藝術家たちの地中海への旅
https://bit.ly/2ELRoci
ヴィーナスの歴史、パリスの審判、三人の女神、トロイ戦争、叙事詩の円環・・・復讐劇の起源
アモールとプシューケー エロースと絶世の美女プシューケー
大久保正雄『地中海紀行』第57回P12
ヴィーナスの歴史、パリスの審判、三人の女神、トロイ戦争、叙事詩の円環・・・復讐劇の起源
新古典主義、ダヴィッドと弟子たち・・・「ソクラテスの死」「アモルとプシュケ」
https://bit.ly/40uIiI2
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《LOUVRE ルーヴル美術館展》─19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ─、2005年7月30日(土)~10月16日(日)
フランス革命、ナポレオン帝政から二月革命にいたる激動の時代のフランス絵画を、ダヴィッド、アングル、ドラクロワ、コローらの作品でたどる。初めてフランス国外で展示されるアングルの《トルコ風呂》など、膨大なルーヴルの所蔵品から傑出した73点を展示。
美の殿堂「ルーブル美術館」が誕生したのはフランス革命直後の1793年。新しい市民社会の獲得と共に、歴代の王室コレクションが一般公開されたのがその始まりで、現在は35万点以上を所蔵する巨大美術館となっています。
今回集うのは、その革命期から王政復古、第二帝政とめまぐるしく誠二、経済が変動した時代のフランス絵画傑作の数々。アングルの「トルコ風呂」をはじめ日本初公開の56点を含む珠玉 の73点です。
19世紀前半のフランス絵画は、特権階級を打ち倒した新たな市民社会から生まれ、理性を重んじる新古典主義、それに対して情熱に憧れたロマン主義、そして現実世界を直視する写実主義へと展開していきます。この新しい絵画の潮流こそが、やがて印象派に代表される近代絵画を覚醒させてゆくのです。日本で言えば幕末、京の都にようやく時代の嵐が吹き始めた頃のこと。京都でみるフランス絵画の「維新の時代」、ぜひご期待ください。[京都市美術館]

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2012年3月30日 (金)

ユベール・ロベール・・・永遠の憧憬の地イタリア

20120306_2大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より
恋するような甘美なイタリア。永遠の憧憬の地イタリアは、藝術家たちを魅了しつづける。イタリアは美の王国、アモーレの国である。糸杉の丘、黄金色の葡萄畑、迷路に囲まれた広場。風景は思想である。
ゲーテは1786-88年にイタリア旅行をした。『イタリア紀行』(1816-17、29)、スタンダール『イタリア紀行 1817年のローマ、ナポリ、フィレンツェ』、リルケ『フィレンツェだより』『ヴェネツィアの女性への手紙』。イタリアへの憧れは、数限りない作品を生み出し続けた。
クロード・ロラン(1604/5~1682)他、画家たちは、イタリアの景観画(ヴェドゥータ)、空想的風景画(カプリッチョ)、廃墟画を描き、古代帝国の偉容のイメージを掻き立てた。古代との出会い。地下に梯子を降ろし古代遺跡に降り立つ画家。永遠の都ローマの町を歩き回る若き画家のまなざし。コンスタンティヌス帝の凱旋門。16世紀のヴィラ。クロード・ロランたちは、風景の美的基準を構築した。
クロード・ロランの初期作品「笛を吹く人物のいる牧歌的風景」1635-39は、夕暮れの水辺に三人の羊飼いが集い、笛を楽しんでいる。聳える大木の間には深い空間が開け、その深奥には橋と山々が現れる。夕暮れの静けさとやすらぎ。クロード・ロランは、フランスで生まれローマで生涯を終えた。牧歌的風景画、海港画、後世の風景画家へ絶大な影響力を残した。
18世紀の画家ユベール・ロベールは、11年間イタリアに住み、イタリアを描き廃墟の画家と呼ばれた。ベルサイユやプティ・トリアノンの庭園の庭園デザイナーとなった。
展示作品
クロード・ロラン「笛を吹く人物のいる牧歌的風景」1635-39静岡県立美術館
ジョセフ・ヴェルネ「夏の夕べ イタリア風景」1773国立西洋美術館
ユベール・ロベール「パラティーノの丘の素描家たち」1761-62年、サンギーヌ・紙、ヴァランス美術館Musée de Valence
ジャン・オノレ・フラゴナール「ティヴォリのヴィラ・デステ」素描、ヴァランス美術館
ジョバンニ・バティスタ・ピラネージ「ローマの景観」1758-59国立西洋美術館
★構成
1イタリアと画家たち
2古代ローマと教皇たちのローマ
3モティーフを求めて
4故郷の風景と18世紀のサロン文化
5奇想の風景
6庭園からアルカディアへ
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ポンペイやヘルクラネウムの遺跡発掘に沸いた18世紀、フランスの風景画家ユベール・ロベール(Hubert Robert 1733-1808)は「廃墟のロベール」として名声を築きます。イタリア留学で得た古代のモティーフと、画家の自由な想像力とを糧に描き出されたその風景では、はるかな時をこえて古代の建築や彫像が立ち現われる一方、あふれる木々の緑や流れる水、日々の生活を営む人々がコントラストを成しています。古代への新たな関心を時代と共有しつつ、独自の詩情をたたえたロベールの芸術は多くの人々をひきつけ、時の流れや自然、そして芸術の力をめぐる思索と夢想へ誘ってきました。
こうして描かれた奇想の風景は、「国王の庭園デザイナー」の称号を持つロベールが数々の名高い風景式庭園のデザインも手がけ、現実の風景のなかに古代風建築や人工の滝・洞窟などを配していたことを知れば、さらに生きた魅力を持ちはじめることでしょう。
本展では、世界有数のロベール・コレクションを誇るヴァランス美術館が所蔵する貴重なサンギーヌ(赤チョーク)素描を中心として、初期から晩年まで、ロベールの芸術を日本で初めてまとめて紹介します。ピラネージからフラゴナール、ブーシェまで師や仲間の作品もあわせ、ヴァランスの素描作品約80点を中心に約130点にのぼる油彩画・素描・版画・家具から構成されます。
自然と人工、空想と現実、あるいは想像上の未来と幸福な記憶を混淆させ、画家が絵画と庭園の中に作り上げたアルカディアの秘密に迫ります。
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★ユベール・ロベール-時間の庭-
国立西洋美術館2012年3月6日(火)~5月20日(日)
福岡市美術館2012年6月19日(火)~7月29日(日)
静岡県立美術館2012年8月9日(木)~9月30日(日)
http://www.tokyo-np.co.jp/event/bi/robert/

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