ロシア美術

2018年11月27日 (火)

国立トレチャコフ美術館所蔵「ロマンティック・ロシア」・・・イワン・クラムスコイ『忘れえぬ女』『月明かりの夜』

Russia2018_0Ivan_kramskoy_moonlit_night_1880_0大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』第164回
枯れ葉舞う、午後、美術館に行く。月光の魔法の夜、夕暮れの海、ロマンティックな詩情。ロマノフ朝末期の面影が蘇る。サンクトペテルブルクの夕暮れの海の彼方の教会。白樺、樫の木の深い森、雪に覆われた大地。ロシア革命(1917年)前、帝政末期の矛盾と格差社会。移動派の画家イワン・クラムスコイたちの抵抗の時代。イワン・クラムスコイの弟子、イリヤ・レーピン。体制に反逆した抵抗派知識人。宮廷第6代枢密顧問官の子息、象徴派の詩人、思想家、ディミトリー・セルゲーヴィッチ・メレジコフスキー。『神々の死 背教者ユリアヌス』1894『神々の復活 レオナルド・ダ・ヴィンチ』1896。古書をひも解き古人の美しい魂の香りをかぐと、魂がよみがえる。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
大久保 正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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『忘れえぬひと』とは、いかなる人か。あなたを守る人。美貌のひと。美しい面影のひと。あなたの魂を深く理解するひと。あなたの魂を愛するひと。『忘れえぬひと』が日本で展示されるのは8回目であるが、いつまでも愛される絵画である。
今宵、日が昏れて、時は去りゆくとも、愛は変わらない。いつまでも。
名誉と地位と権力と利益を求める人々の間に在って、天人は苦しむ。如意輪観音は、天人を救う。
【イワン・クラムスコイ『忘れえぬ女』】1883ペテルブルクのアニチコフ橋に馬車を止めている。高慢にみえるが、運命を見すえ、挑むような、運命を呪うまなざし。彼女の瞳は彼方に何をみているのか。気高く憂いを含む潤んだ瞳、長く黒い睫毛、帽子の房飾り、漆黒のドレス、艶やかなリボン。気高い憂いをもつ美女。瞳に涙が光る。彼方を見つめ、運命を呪うまなざし。
【イワン・クラムスコイ『月明かりの夜』】1880 白いドレスをまとった若い女が古い庭園の老木の傍らのベンチに腰掛け、月明かりに照らし出されている。月光の詩情、静寂と神秘が漂う。女性と対照的に周囲は闇に包まれる。『魔法の夜』と初めは表題がつけられた。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
大久保 正雄『永遠を旅する哲学者 イデアへの旅』
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夕暮れ散歩 夕暮れのヴェネツィア、海景
丘の上の森に佇む、夕暮れの残照を眺める部屋で、森に黄昏の光が満ちていくとき、失われた時を思い出す。忘れえぬ人、美しい人と歩いた黄金の時間。心の痛みとともに蘇る。美しい夕暮れの思い出。夕暮れの孤島の丘に上り、女神の神殿に佇み、糸杉の森を歩く。高き嶺に躋攀し詩を読誦した日々。苦吟した日々。ロマン派の詩人は、ヴェネツィアを愛した。
敵の欺きに憤り、それを語らずに沈黙し、庭の霊木に涙を注いだ。秘密の庭の霊木に、密教の真言を唱える。日々、大日如来、観自在菩薩、大黒天に祈りをささげる。一切成就、怨敵調伏。学問成就、藝術三昧。日月が流れ、黄昏の海に潮が満ち、守護精霊が舞い降りる。真言が成就する。美貌のひとは、黄昏時に現れる。本質を観る人。人が真に見ることができるのは心によってである。本質は目で見えない。
「美は、命と引き換えに手に入れることができるものである」。美しいひとは、私の論文の言葉を愛読した。*
藝術家の魂の籠められた絵画に出逢い、秘められたドラマに辿りつくとき、記憶の迷路から美しい女が蘇る。可視界を超えて、叡智界のイデアが蘇る。生死を超えた知の旅の記憶。精神史の時間の迷宮に迷い込む。
*大久保 正雄『新古今和歌集の美学 断崖の美学』
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
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「人間の真の姿がたち現れるのは、運命に敢然と立ち向かう時である」シェイクスピア『トロイラスとクレシダ』
【アンナ・カレーニナ、将校ヴロンスキー】アンナ・カレーニナは兄のオブロンスキーによばれてモスクワにやってきた、モスクワ駅でヴロンスキーと運命的な出会い。モスクワ駅へ母を迎えに行った青年ヴロンスキーは、母と同じ車室に乗り合わせたアンナの美貌に心を奪われる。アンナは典型的な俗物官僚の夫カレーニンを嫌悪した。
【死生学】「毒のある木」私は私の敵に腹を立てた。私は黙っていた。私の怒りはつのった。そして私は、それに恐怖の水をかけ、夜も昼も、私の涙をそそいだ。そして私は、それを微笑の陽にあて、口あたりのよい欺瞞の肥料で育てた。ウィリアム・ブレイク『無心の歌、有心の歌』「毒のある木」寿学文章訳
【聖なる者は悪を滅ぼす】『理趣経』第三段。「金剛手よ、もし理趣を聞きて受持し読誦することあらば、たとえ三界の一切の有情を害するも悪趣に堕せず。」
松長有慶『秘密の庫を開く 理趣経』1984
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展示作品の一部
イワン・クラムスコイ『忘れえぬ女(ひと)』1883 年 油彩・キャンヴァス
イワン・クラムスコイ『月明かりの夜』1880 キャンバスに油彩 
イワン・シーシキン『正午、モスクワ郊外』 1869 年 油彩・キャンヴァス
イワン・シーシキン 『雨の樫林』 1891 年 油彩・キャンヴァス
ワシーリー・バクシェーエフ『樹氷』1900 キャンバスに油彩 
イリヤ・レーピン『イワン・クラムスコイの肖像』1882
イリヤ・レーピン『ピアニスト アントン・ルビンシュテインの肖像』1881
イワン・コンスターノヴィチ・アイヴァゾフスキー『海岸、別れ』1888
グリツェンコ『イワン大帝の鐘楼からのモスクワの眺望』1896
レフ・リヴォーヴィチ・カーメネフ『サヴィノ・ストロジェフスキー修道院』1880年代
アレクセイ・ペトロヴィッチ・ボゴリューボフ『ボリシャヤ・オフタからのスモーリヌイ修道院の眺望』1851
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参考文献
国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア・・・帝政末期、移動派の画家、クラムスコイ『忘れえぬ女』
https://bit.ly/2Mw7trF
ロマン派詩人 地中海、美への旅
大久保 正雄「旅する哲学者 美への旅」第77回
https://t.co/nqAsdA8wKg
『国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア』図録
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この時代のロシアの文化は、チャイコフスキー、ムソルグスキーといった作曲家や、トルストイ、ドストエフスキーに代表される文豪は日本でよく知られていますが、美術の分野でも多くの才能を輩出しました。その美術界では19世紀後半にクラムスコイら若手画家によって組織された「移動派」グループが、制約の多い官製アカデミズムに反旗を翻し、ありのままの現実を正面から見据えて描くことをめざしていました。移動派の呼称は啓蒙的意図で美術展をロシア各地に移動巡回させたことによります。一方、モスクワ郊外アブラムツェヴォのマーモントフ邸に集まったクズネツォフ、レヴィタン、コローヴィンらの画家たちは、懐古的なロマンティシズムに溢れた作品を多く残しましたが、彼らと移動派には共に祖国に対する愛という共通点が見出せます。
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一瞬の風景を、膨大な時間をかけて細密に描きとろうとする。そんなロシア特有の風景画の手法は、人物画にも共通します。たとえばクラムスコイの《忘れえぬ女ひと》は近づいて観ると、目に涙を浮かべ、無念の表情をたたえていることがわかります。よく娼婦と解説されるこの女性像にはモデルがおり、画家は彼女に死が迫っていることを知っていました。そんな女性の一瞬の内面のドラマを再現すべく、クラムスコイは無限の努力を傾けて、あの眼を描いたのです。ロシア文学者・亀山郁夫 Bunkamuraザ・ミュージアム
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ロシア文学者・亀山郁夫氏による記念講演会レポート
http://krs.bz/bunkamura/c?c=101051&m=244062111&v=fc249c9c

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★国立トレチャコフ美術館所蔵「ロマンティック・ロシア」Bunkamuraザ・ミュージアム
2018/11/23(金)-2019/1/27(日)
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_russia/
岡山県立美術館:2019年4月27日(土)~6月16日(日)
山形美術館:2019年7月19日(金)~8月25日(日)
愛媛県美術館:2019年9月7日(土)~11月4日(月・祝)

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2009年5月30日 (土)

国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア・・・帝政末期、移動派の画家、イワン・クラムスコイ『忘れえぬ女』

Russia2009Iwan_kramskoy_portrait_of_a_woman_2大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』より         
五月晴れの午後、美術館に行く。革命前の世界が蘇る。ロシア革命(1917年)前、帝政末期の矛盾と格差社会、移動派の偉大な作家たちの存在した時代。現代は悲劇の存在しない時代である。現代の作家たちは、軽薄であると感じる。
白樺並木、丸屋根の教会、ライ麦畑、輝く雪原、亜麻色の髪の乙女たち、文豪トルストイ、チェーホフの風格ある肖像。パーヴェル・トレチャコフの愛した移動派(移動展派)の絵画が展示されている。
■イワン・クラムスコイ「忘れえぬ女」=見知らぬ女1883年
トルストイ『アンナ・カレーニナ』のヒロイン、アンナ、ドストエフスキー『白痴』のナスターシャであると推定されているが解答はない。イワン・クラムスコイは、この絵の制作中、『トルストイの肖像』を制作していた。
ペテルブルクのアニチコフ橋に馬車を止めている。高慢にみえるが運命を見据えているのか、彼女の瞳は彼方に何をみているのか。
気高く憂いを含む潤んだ瞳、長く黒い睫毛、帽子の房飾り、漆黒のドレス、艶やかなリボン。彼女は貴族か、富豪の令嬢か。気高い、憂いをもつ美女は魅力的である。ただ幸福なだけの自己満足的な女は魅力がない。藝術は憂いをもつ美女を追求する。
*大久保 正雄『旅する哲学者 美への旅』
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★展示作品の一部
イワン・クラムスコイ「忘れえぬ女」=見知らぬ女1883年
イワン・シーシキン「木陰で休む家畜の群れ」1864年
イワン・シーシキン「森の散歩」1869年
ワシーリー・マクシモフ「嫁入り道具の仕立て」1866年
アレクセイ・コルズーヒン「修道院の宿舎にて」1882年
イワン・クラムスコイ「髪をほどいた少女」1873年
イリヤ・レーピン「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」1887年。*彼女はリストの弟子、チャイコフスキーが曲を献呈したピアニスト。
ニコライ・ゲー「文豪トルストイの肖像」1884年
ヨシフ・ブラース「文豪チェーホフの肖像」1898年
ワシーリー・ポレーノフ「モスクワの中庭」1877年
イリヤ・レーピン「秋の花束」1892年
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展示構成
第1章:叙情的リアリズムから社会的リアリズムへ
第2章:日常の情景
第3章:リアリズムにおけるロマン主義
第4章:肖像画
第5章:外光派から印象主義へ
展示作家。イワン・クラムスコイ、アルヒーブ・クインジ、イサーク・レヴィタン、ウラジーミル・マコフスキー、ワシーリー・ポレーノフ、イリヤ・レーピン、アレクセイ・サヴラーソフ、イワン・シーシキン、ワシーリー・スリコフ、アレクセイ・ヴェネツィアーノフ、ワシーリー・ヴェレシャーギン、ヨシフ・ブラース、他。
■移動派
トレチャコフ美術館所蔵絵画から、19世紀後半の移動派(移動展派)の作品を主体に紹介するものである。移動派は、1870年にイワン・クラムスコイ、G.ミャソエドフ、ニコライ・ゲー、ヴァシーリー・ペロフらの提唱により、官製芸術の中心地であるペテルブルク美術アカデミーに対抗して、民主主義的な理想のために闘うロシアの前衛的な芸術集団として結成された。
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ロシア美術の殿堂、モスクワの国立トレチャコフ美術館は、中世から現代に至る約10万点の作品を所蔵しています。なかでも19世紀後半から20世紀初頭にかけてのロシア美術の作品は、創始者トレチャコフが熱心に収集した同時代の傑作が揃っています。本展は、所蔵作品の中からロシア美術の代表的画家、レーピンやクラムスコイ、シーシキン等による38作家による75点の名品で構成されます。19世紀半ばからロシア革命(1917年)までの人々の生活、壮大なロシアの自然、美しい情景を描いた作品を中心に、チェーホフ、トルストイ、ツルゲーネフ等の文豪の肖像画も併せてご紹介する。リアリズムから印象主義に至るロシア近代美術の流れを辿る展覧会である。
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★ 国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア、Bunkamuraザ・ミュージアム
2009年4月4日(土)~2009年6月7日(日)
http://www.bunkamura.co.jp/old/museum/lineup/09_tretyakov/index.html

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